2023.7.1

ハーブ療法の母・聖ヒルデガルトの自然学(17): 聖ヒルデガルトの人物像と中世からのラディカル・エコロジー神学としての自然学

国際ヒルデガルド会 DanielaDumann 認定 ヒルデガルトヘルスケアアドバイザー

長谷川弘江

この自然学の連載は2019年6月の48号が第1回でした。故大槻先生、ペーター・ゲルマン先生、デュマン先生の教えと共に、読者の皆様のおかげと感謝申し上げます。

今回は、よくいただくご質問と、エコロジカルハーバリズムに通じる聖ヒルデガルトのエコロジー神学(ラディカルエコロジー)をご紹介したいと思います。

質問①:ヒルデガルトをご存じない方に、どんな人ですか?と聞かれたら、一言でどう答えますか? 

答え:中世初期のマルチクリエーターの修道院長。話題のAIチャットの答えは「ヒルデガルト・フォン・ビンゲンは、中世ドイツの尼僧、神秘思想家、医師、音楽家、作家、哲学者、そして聖人の一人です。生涯を通じて、神秘体験、自然療法、宗教的視野、そして女性の社会的地位向上に熱心に取り組みました。

彼女は、著書や書簡、音楽作品など多岐にわたる作品を残し、多くの人々に影響を与えています。彼女は神秘体験に基づく医療の欠かせない要素、天然療法(Naturheilverfahren)を導入し、現在でも“伝統的ドイツ自然療法”の基礎を築いた人物の一人として高く評価されています。

そして彼女は、言葉を通して宗教における女性の役割を再定義し、中世の男性優位社会において女性に積極的な社会参画を促す先駆者としても知られています」と。いい感じにまとめていただき嬉しかったです。

幻視の説明を受けているところ

質問②:ヒルデガルトはなぜこんなに人気があると思いますか?

答え:自然療法の守り神であり、女性と緑の力、エコロジー神学を提唱。経営者としても見本になるため。ドイツのヒルデガルトフェスタのグループ実習で女性経営者ばかりの席にご一緒させていただいた際伺いました。また、私は神戸出身で震災の時、故中井久夫先生の心のケアにお世話になりました。

先生の『西欧精神医学背景史』p.36に「ヨーロッパの農村の村はずれには、いわゆる“薬草で治療する老婆”がいた。この薬草で治療する老婆の文化は、たとえば11世紀における聖ヒルデガルト−このライン河谷の女修道院長は、本格的なネオプラトニズムに先立つこと二世紀にして、すでにそのような統合的な神秘的体系を作っている−植物学的な著作として結晶しているのである。卑近な例では、ジギタリスはこの薬草をもって治療する老婆の文化から直接出てきた」と。

また、聖ヒルデガルトに魅せられたある映画制作者が、どのように自らのライフワークの価値を再確認し、人々にインスピレーションを呼び起こしたかを問うドキュメンタリー映画
『型破りな神秘家 ヒルデガルト・フォン・ビンゲン』
https://www.youtube.com/@SaintHildegardMovie
では、インタビューの一人にヒルデガルトに関する名著の著者であり、米国カリフォルニア州オークランドのユニバーシティ・オブ・クリエーション・スピリチュアリティの設立者で、米国聖公会司祭、神学者であるマシュー・フォックス氏(https://www.matthewfox.org/)が、「私たちのミサは、あらゆる伝承の教えを取り入れているので超教派と呼んでいます。

ドキュメンタリー映画『型破りな神秘家 ヒルデガルト・フォン・ビンゲン』

私たちのミサのユニークなところは、ユニティセレモニーというものを行っていることです。私たちは経験したことを共有するという考えがあり、ミサの後に皆で話し合いをします。それはスピリチュアルな経験であることが望ましく、だから私たちは互いに刺激し合い成長し続けられるのです。

生命の息吹は万物に流れており、それを私たちは「緑の力」と呼び、イマジネーションや創造力に働かせるのに利用します。これが、聖ヒルデガルトが支援した「クリエイティブな仕事には英知がある」ということです。

修道院の緑の迷路図

芸術家の偉大な聖なる守護者は聖ヒルデガルトであったのだろうと思います。この世界で私たちは何を生み出せるかと考えます。そうして私たちは大きな変化を起こすことができるのでは?好きなことをクリエイトすると、前向きな気持ちになり表情も輝いてくるので、それが自分を癒すのです」と。

「私たちは自由意志が与えられ自らの中のキリストを見出さなければならないということを彼女は三位一体の絵のサファイアブルーの男性で説明します。

私たちは誰もが神秘的であり、人に支えられ人を支えなければなりません。神について学ぶことは、必ずしも科学、芸術や音楽を学ぶことと切り離すべきことではなく、神学者として、聖ヒルデガルトは自らのヴィジョン(幻視)や書物を残すことで生命を理解することが自分の義務であると考えていました。

それは彼女の時代には科学であり、同時代の神学者にとっては重要な教えだったと私は思います」と。彼はスターホーク(アメリカのフェミニズム・エコロジーをとり入れたニューエイジの魔女 https://starhawk.org/)女史とも組んで発信しています。

『ラディカルエコロジー−住みよい世界を求めて−』キャロリン・マーチャント著 産業図書 1994年 にも彼の宗教とヒルデガルトとの関係について、p.169「自然と神の完全なる創造への尊重と尊敬を呼び起こす多くの「エコロジカルな」テーマを浮かび上がらせる。」と。

『ラディカルエコロジー −住みよい世界を求めて−』(左)、
『WORKSIGHT[ワークサイト]17号−植物倫理 PlantsEthics』

「ヒルデガルトにとって大地は、体の中に全ての生き物の種子が含まれている母親であり、生きる有機体であった」とも。

安寧が続きますこと、皆様のご健勝を祈りつつ、感謝と共に。

国際ヒルデガルド会 DanielaDumann 認定 ヒルデガルトヘルスケアアドバイザー
長谷川弘江 はせがわひろえ
ヒルデガルトフォーラム・ジャパン副代表。英国ハーブ医学校通信課程修了。ハーブ医学とヒポクラテス、ディオスコリデス、プリニウス、パラケルスス研究の大槻真一郎氏、ドイツハイルプラクティカー連盟(BDH)副会長・民族医療協会"Gyu zhi"主宰ペーター・ゲルマン氏に師事。伝承と身近な植物のルネサンスをテーマに活動中。『ヒルデガルトの宝石論―神秘の宝石療法(ヒーリング錬金術)』大槻真一郎著(コスモスライブラリー)で解説を執筆する他、著書多数。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第64号 2023年6月