2023.6.19

クロモジ : 鎮静作用や抗菌作用をもつ日本固有種の香木の代表格

博士(農学)

木村正典

「クロモジ」Kuromoji

【学名】 Lindera umbellata Thunb.
【科名】 クスノキ科
【使用部位】 枝、葉、樹皮、根
【主要成分】 タンニン、精油(リナロール、1.8-シネオール、α-ピネン、カンフェン、リモネン、テルピネオール)
【作用】 抗酸化、抗炎症、抗アレルギー、収れん、抗菌、去痰、代謝促進、血行促進、鎮静、健胃
【適応】 緊張、冷え、喉の不調、胃腸の不調、リウマチ、関節炎、湿疹、いんきんやたむしなどの寄生性皮膚炎

鎮静作用や抗菌作用をもつ日本固有種の香木の代表格

クロモジは、日本各地の低山や林の斜面に自生するクスノキ科の落葉低木。春には薄い黄緑色の花を咲かせ、秋には丸くて黒い実をつけます。漢字では「黒文字」と書き、樹皮にある黒い斑点がまるで黒い文字のように見えることに由来します。

日本固有種であるクロモジは日本人の生活とかかわりが深く、根の皮や枝葉を乾燥して煎じたものが古くから民間療法で用いられてきました。また、枝は高級爪楊枝や木工細工などにも使われ、幹と枝を乾燥させたものは、生薬の「ウショウ(烏樟)」として知られています。

枝や葉には精油成分が含まれ、枝を少し削ると、甘く華やかでとても上品な香りがします。この香りをもたらす主要成分は、リナロールです。クロモジのもつ優れた抗菌作用や抗炎症作用、鎮静作用は、リナロールの寄与が大きいと考えられています。

近年はクロモジ精油について様々な研究が進められ、虫歯菌や歯周病菌、カンジダ菌などに対する抗菌作用や、ヒト白血病細胞(HL60 細胞)に対する抗がん作用、インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス作用などが確認されています。

USES クロモジの利用

古来より日本人の暮らしに深くかかわってきたクロモジ。
近年はその魅力が再評価されるようになり、日本各地でクロモジの植林や、クロモジを使った特産品開発の取り組みが進められています。

1. 楊枝
和菓子についてくる菓子切り用の高級爪楊枝にはクロモジが使われています。香りがよいだけでなく、弾力性があり、強度が高く、折れにくいのが特徴で、「黒文字」の名は爪楊枝の代名詞にもなっています。

2. 歯ブラシ
江戸時代にはクロモジの木の一端を木槌で叩き、梳いて繊維状にした「房楊枝(ふさようじ)」が歯ブラシとして使われました。抗菌作用と爽やかな香りがあるので、理にかなった使い方といえます。

3. お茶
クロモジの葉や枝を乾燥させ、お茶にして飲む風習は日本各地にありました。島根県隠岐諸島の中之島では「福来茶(ふくぎちゃ)」と呼ばれ、体の調子を整える健康茶として島の特産品になっています。

4. 入浴剤
クロモジの枝葉は刻んで入浴剤としても使われていました。神経痛、リウマチ、関節炎、肩こり、腰痛、湿疹、皮膚のただれなどの他、体を温める作用もあるので冷え症にもよいといわれています。

5. クロモジ油(エッセンシャルオイル)
葉や枝を粉砕し、水蒸気蒸留法によって抽出した精油をクロモジ油といい、明治中期から戦前までは海外にも輸出されました。現在も香水、化粧品、石けんなどの香料として、また、アロマセラピーなどに利用されています。

TOPICS クロモジとローズウッド

クロモジはローズウッドと香りが似ていることから、一部のアロマ愛好家の間で“和製ローズウッド”とも呼ばれています。甘く華やかな香りのローズウッドは欧米の女性にとても人気が高く、長らく高級香水や高級化粧品の香料として用いられてきました。かのマリリン・モンローが愛用していたことで知られる「シャネルの5番」にも、かつてはローズウッドが使われていたそうです(現在は化学合成香料)。

ローズウッドはクロモジと同じクスノキ科に属し、リナロールを主成分とし、鎮静作用やリラックス作用、抗菌作用、抗炎症作用などをもつことも共通しています。

ところが近年、ローズウッドは過剰な伐採や気候変動により絶滅を危惧されるほど激減してしまい、原産地であるブラジルでは規制がかけられ、精油は入手困難な状態に。そこで、ローズウッドに匹敵する精油の原料として期待されているのが、日本のクロモジです。

とはいえ、クロモジも現在のところ生産量も多くはなく、希少であることに変わりはありません。自然の恵みをいただいていることに感謝し、環境保全についても考えながら活用していきたいものです。

ボタニカルアート = 田中 沙織
博士(農学)
木村正典 きむらまさのり
当協会理事。(株)グリーン・ワイズ。博士(農学)。ハーブの栽培や精油分泌組織の観察に長く携わると共に、都市での園芸の役割について研究。著書に『有機栽培もOK!プランター菜園のすべて』(NHK出版)など多数。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第64号 2023年6月