2023.3.17

南の島の花便り: ハイビスカス

株式会社川平ファーム代表 石垣島サイエンスガーデン代表 ボタニカルアーティスト

橋爪雅彦

昨年9月に来襲した台風以後、八重山は雨天続きで、1月までの4ヶ月間にまともに青空が見られたのが1週間ほどしかないという、異常気象が続いています。そのかわりに気温は高く植物の花芽分化がバラついて、花期に影響が出ています。

花の花柱

私の整備しているガーデンは、300mほどの山に降った雨が地下水として湧き出る海沿いの砂地にあるため、ガーデン全体から水が湧き続けて、クロトンやアカリファなど本来丈夫な花木の何種類かが根腐れで立ち枯れするような状況になってしまいました。

強光を好む熱帯スイレンなどの熱帯植物は花数が少なく元気がなくなっていますが、沖縄を代表するハイビスカスはこの気象にも負けずに鮮やかな色で島を飾っています。

今回はハイビスカスに焦点を当ててみましょう。

ハイビスカス 

ハイビスカスの原産地ははっきりしたことは不明ですが、大きく分けてインド洋諸島原産種と、ハワイなど太平洋諸島原産種に分けられます。

沖縄を代表する花木の一つで強健で成長が早く耐風性、防潮力に優れており、ほぼ周年開花し観賞価値が高いことや、露地の栽培も容易なため、庭木、街路樹、公園樹などとして広く利用されています。

ハイビスカスといえば、鮮やかな赤い花びらを連想される方が多いと思いますが、様々な色や形状の花を見ることができます。共通する特徴は花びらが5枚ついて花柱「5本の雌しべと複数の雄しべ」が突出していることです。

沖縄で最もよく見られる花は「ブッソウゲ」(仏桑花)という赤い花です。ブッソウゲは沖縄では赤花(アカバナー)と呼ばれています。

ブッソウゲ

これは沖縄に自生するブッソウゲが、赤い花が主流なことが由来になっており、また、古くから墓地に植えられたり、花を墓に供えられたりすることが多く、そのため現在でも後世花(グソーバナ)の名で呼ばれることがあります。

ハイビスカスは品種改良が盛んで系統は大きく3つに分かれ、さらにそこから7000種類以上の品種が登録されています。

品種改良は20世紀初頭にハワイの農業試験場で始まったとされており、ほとんどの品種改良がハワイで行われています。

ハワイに自生する原種同士を交配させていたようで、原種の代表的な種類「コキア」も県内の園芸店などに出まわるようになってきました。

ハワイの原種コキア

1・「オールドタイプ」 

ハイビスカスの種類の中で交配された歴史が古く、ハワイアンタイプの親となった品種の総称で、中・小輪のものが多く、生育が旺盛で多花性、花色は赤、ピンク、黄、クリーム、白などでシンプルな花が魅力です。

オールドタイプ

2・「コーラルタイプ」 

マダガスカル原産の「フウリンブッソウゲ」を元にして交配された品種の総称で、花は花弁の縁に切れ込みが入り、フリルのような咲き方をするものが多く見られます。フウリンブッソウゲは赤い花が長い枝から垂れ下がって咲き、風に揺れる様は涼しげで、その形から風鈴に例えられています。英名はジャパニーズ・ランタン。

コーラルタイプ フウリンブッソウゲ
コーラルタイプ フラミンゴ
コーラルタイプ アイスピンク

3・「ハワイアンタイプ」 

ハイビスカスの種類の中で最も多いタイプで、多くがハワイで品種改良されたことからハワイアンハイビスカス(Hawaiian Hibiscus)と呼ばれます。このタイプの特徴は花が大きく、豪華で色彩豊かなことが挙げられます。近年は花とは思えないような紫や茶色など特殊な色のミックスした径20cmを越すような大花も見られるようになってきました。

ハワイアンタイプ ミセスユミ
ハワイアンタイプ

また、ハイビスカスの仲間には、繊維や食用、洗髪剤、薬用、ヤギの餌として利用される種類もあることなどは、あまり知られていません。

最近エディブルフラワーとして人気が出てきた「ウナズキヒメフヨウ」。リゾートホテルなどのサラダなどでも見かけるようになってきました。オクラを連想させるようなやや粘りがあり、ほんのりと甘くサラダの色づけになどに利用されます。

ウナズキヒメフヨウ

一般にハイビスカスティーに用いられる花は、通常「ローゼル」 (Hibiscus sabdariffa)と呼ばれる同属のもので、開花後に肥大化した赤い萼を利用します。

ローゼル

クレオパトラが健康と美しさを保つために、ハイビスカスのお茶を飲んでいたといわれ、ハイビスカス(ローゼル)ティーはビタミンCが豊富で、良質のクエン酸やリンゴ酸、カリウムを含有しており、美容や疲労の回復にとても効果的なハーブティーやジャムとして利用されています。

最近ではブッソウゲの花もハイビスカスティーとして色と香りを楽しむ飲料として見かけることもあります。

昔から生薬としても、利用されてきたブッソウゲ。開花期に採取した花を洗い日陰で乾燥させたものは、フラボノイドやアントシアニンなどを含むといわれ、煎じて飲むことによって、下痢止めや鼻血止めの効果があるといわれています。

また、葉や花は潰すと泡だってシャンプー代わりに髪を洗うために使われており、今でも高齢のお婆が長い黒髪を洗うのに利用しているそうです。

ハイビスカス2色花

花色も赤だけでなく、桃色、白、黄色、橙色、紫、シルバー、茶色などがあり、「複数の色が混ざって咲くハイビスカス」もあります。このように年間を通して沖縄を飾る花ですが、もったいないことに朝咲いて夕方には終わってしまう一日花です。

それでも次から次へと切れ目なく花を咲かせ続けるハイビスカスは、沖縄で最も目につく花として楽しまれています。

株式会社川平ファーム代表 石垣島サイエンスガーデン代表 ボタニカルアーティスト
橋爪雅彦 はしづめまさひこ
東京都立園芸高等学校卒業。学研の図鑑・東京大学出版会・誠文堂新光社(ガーデンライフ)・東京書籍生物教科書の図版及び科学論文などのイラスト担当。大阪花博東日本イベント総合プロデュース。国立博物館監修『原色日本のラン』執筆のため、東京より石垣島に移住。石垣市川平において「川平ファーム」としてパッションフルーツの加工を始める。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第63号 2023年4月