2023.3.12

女性の健康 : 女性のキレイと元気を守るために大きな役割を担うエストロゲン

いりたに内科クリニック院長

入谷栄一

女性の一生では様々な時期に女性特有の不調が生じます。それに大きくかかわっているのが、女性ホルモンです。
ホルモンとは、体のいろいろな機能を調節する働きをもつ化学物質のことをいい、ごく微量で効果を発揮するのが特徴です。

体内の内分泌腺ないぶんぴつせんと呼ばれる器官や組織でつくられ、血流にのって運ばれ、対象となる器官や組織の受容体(レセプター)にキャッチされて働きます。

女性ホルモンにはエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の2つがあり、これらは脳からの指令を受けて卵巣から分泌されます。このうち、特に女性の健康に重要なのがエストロゲンです。

エストロゲンは妊娠しやすい体をつくるホルモンですが、実はその他にも女性の体を守る様々な働きをしています。例えば、肌や髪の潤いを保ったり、骨を丈夫にしたり、血管をしなやかに保ったりするのもエストロゲンの働きです。また、気分を明るくしたり、精神を安定させたりするなどメンタルの健康維持にも役立っています。

月経のある女性の体は、女性ホルモンの影響を受けて、約1カ月の周期で変動します。

月経終了後から排卵まではエストロゲンの分泌が高まり、心身共に好調な時期です。新陳代謝も盛んに行われ、髪や肌の調子もよくなります。また、副交感神経が優位となり、精神的にも安定します。

一方、排卵を機にエストロゲンが減ってプロゲステロンが増えてくる時期は、心身の不調が現れやすくなります。プロゲステロンは妊娠を維持させるように働くため、栄養や水分を蓄えようとして太りやすく、むくみやすくなり、肌荒れや便秘、乳房の張り、イライラ、眠気などに悩まされることもあります。

女性の一生という長いスパンで見ても、年代ごとにエストロゲン分泌量は変動し、それに伴う様々な不調が現れます。エストロゲン量が急上昇する思春期、急降下する更年期は、特に健康トラブルが起こりやすい時期です。

最近では、女性ホルモンのバランスが変わることによる心身の不安定さを指して、“ゆらぎ”と呼ぶこともあります。
ゆらぎは厄介なものとネガティブに考えられがちですが、むしろゆらぎこそ女性のもつ強みともいえます。ゆらぎがあることで、生き方や日々の習慣を見直しながら前に進んでいくことができるからです。

また、女性ホルモンを軸に人生を俯瞰ふかん的に眺めることは、それぞれのステージに合った備えや対処をするための大きな手がかりとなります。自分が今、どのステージに立っているのかを理解し、自分自身の体と丁寧に向き合っていきましょう。

エストロゲンの働き
● 女性らしい体つきをつくる
● 肌や髪の潤いを保つ
● 骨を強くする
● 血管をしなやかに保つ
● LDLコレステロール値を低く抑える
● 血糖値の上昇を抑える
● 気分を明るくする
● 記憶力を維持する

イラスト = チチチ

いりたに内科クリニック院長
入谷栄一 いりたにえいいち
総合内科専門医、呼吸器専門医、アレルギー専門医。東京女子医科大学呼吸器内科非常勤講師。在宅診療や地域医療に力を入れる他、補完代替医療やハーブ、アロマに造詣が深く、全国各地で積極的に講演活動も行う。著書に『病気が消える習慣』、『キレイをつくるハーブ習慣』(経済界)など。当協会顧問。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第63号 2023年4月