2023.1.5

南の島の植物: 葉の話

株式会社川平ファーム代表 石垣島サイエンスガーデン代表 ボタニカルアーティスト

橋爪雅彦

今年は数年ぶりに割合強い台風が八重山を直撃しました。台風の被害が少ない年は木々もスクスクと成長し島全体が緑に覆われていますが、その分、耐風性が弱くなっており、今回のように半日近く台風の目に入ると、通過後の返し風で多くの倒木が発生します。通過後、数日経つと潮をかぶった葉は茶色く枯れ落ちて島全体が冬枯れのようになります。

でも、1週間もするとミネラル分を大量に含んだ潮風の恵みで、枯れたように茶色く変色した木々から一斉に新しい芽吹きが始まり、前にも増して鮮やかな新緑で覆われます。

そんな亜熱帯圏の沖縄では内地では見られないようなカラフルな葉や変わった特性をもつ葉が見られます。今回はそんな葉を紹介しましょう。

●クロトン 

一般的には室内の観葉植物として知られていますが、沖縄では街路の花壇や庭木として多用されています。一族一種で変葉木ともいわれ、葉の色と形状が非常に多彩でクロトンだけでも図鑑ができるといわれています。

クロトン

花色にも遜色のない葉の色は、特に亜熱帯の強い紫外線に当たると発色がよく、鮮やかな多種の色で彩られます。年間を通して花のような色合いで景観を飾り、しかも台風に極めて強いという優れた特性をもち、落葉もしないため、管理の手間も非常に少ないという理由で、街路の花壇などによく見かけるようになってきました。

●オウギバショウ 

台風常襲地帯の沖縄では防風林が必須です。古くからフクギが防風林として利用されてきましたが、頑丈に育つフクギは防風効果は絶大ながら成長が非常に遅いため、最近はあまり見られなくなりました。

オウギバショウ

別名タビビトノキと呼ばれる極楽鳥花の仲間で、名称の由来は、葉柄を切ると多量の水が溢れ出て、旅行者の飲み水の供給として利用されたからといわれます。

高さは10m近くになり成長が非常に早いので、近年は畑の周囲などに巨大なバナナのような防風樹が増えてきました。花は小さく目立ちませんが、種子は鮮やかなコバルトブルー色をしており、装飾品としても人気があります。

●ヤエヤマオオタニワタリ 

島の樹林に入ると岩や樹木などに着生した鮮やかな緑色をした大きなシダ植物を見ることができます。蔓などに着生して浮いて谷を渡るような様からこの名前がつき、一枚の葉の長さは1m以上にもなります。新芽はヤエヤマの代表的な山菜として天ぷら、炒め物やお浸しに利用されます。

ヤエヤマオオタニワタリ

乾燥に非常に強く、長期間の干魃でも枯死することは少なく、水を与えると縮んだ葉が短期間で元通りに戻るため、維持管理の手間が少なく庭や街路の植栽などにも使われるようになってきました。

●ニシキアカリファ 

アカリファの仲間は400種以上あるといわれていますが、それぞれ葉姿・色合いなどが異なります。

沖縄の生け垣に多用されるカラーリーフの代表種「ニシキアカリファ」は、特に。艶があって大きく波打つ葉は、赤銅色や赤桃色、黄色、白、緑青銅色、白などのモザイク模様が入る変化に富んだ様が美しく、庭木や公園などで多く見られます。

ニシキアカリファ

花期は春から夏にかけてで、細長い穂状の花をたくさんつけますが、あまり目立ちません。英名はビーフステーキプラント(beefsteak plant)といい、若い葉は全体に赤みが強く、特に葉脈の赤い様子がレアステーキを連想させるということで名づけられたそうです。

高さは3m程度ですが枝を伸ばす力が強くて葉も密につくので、山羊食文化のある八重山では、山羊を飼っている農家が多く大好物の餌として重宝されています。

●モクビャッコウ 

海岸近くの岩上や隆起したサンゴ礁に自生する、シルバーリーフが美しい常緑性小低木です。

モクビャッコウ

葉は灰白色の短い毛に覆われたヘラ状で、先端には切れ込みがあり、葉色は美しい灰白色です。花は冬場に1cmほどの黄色い花を咲かせます。茎はよく分枝して、木質化し、株は自然とこんもりと茂り、株全体が灰白色のため色のポイントとして観賞価値が高いのですが、葉には独特の香りがあるため、屋外の花壇や植え込みなどに利用されます。

●ヤエヤマコクタン 

石垣島に移住した当初、「何故こんなに暗い木を庭に植えるんだろう?」と気になっている木がありました。

ヤエヤマコクタン

樹木はもちろん艶のある葉まで暗い色をした木はその容姿通りに「クロキ」と呼ばれていました。石垣市の木として定められている八重山黒檀、古木の心材は黒色で非常に硬く重いため加工は難しいのですが、沖縄の三味線の棹として利用されています。

その中でも八重山黒檀は最高級品といわれ、数も少なく物によっては百万円を超すという高額で取引されます。風にも強い事から街路樹・防風林・防潮林・観賞用庭木としても利用されていますが、成長が遅いことから、乱伐による資源の枯渇が問題となっています。

●ヤエヤマヤシ 

石垣島の西部地区の山の斜面全体に野生のヤシの自生地が広がっています。国の天然記念物にもなっている米原のヤエヤマヤシは、幹径30cm、高さ25mもの大型のヤシで、特にまっすぐに伸びた樹幹と、葉のつけ根の筒状になった葉鞘は革質で赤褐色の光沢が美しく、世界で最も美しいヤシといわれています。

ヤエヤマヤシ

一時期、石垣島では海沿いのリゾートホテルの砂浜にハワイや熱帯島々の海沿いのようにココヤシが植えられていました。ところが実をつけるくらいに育った頃にタイワンカブトの幼虫に成長点を食害され、全て枯死してしまい今ではほとんど見ることができません。そのかわりに今では県内の街路樹やリゾートにはヤエヤマヤシが植栽され、その美しい姿を見ることができます。

●カークリコ 

和名をキンバイザサといい、ハランによく似た葉はヤシのような形をしているため、熱帯地方ではパームグラスや、その形状から鯨の腹と呼ばれ、様々な効能をもつ薬草として利用されます。

この葉の特徴は葉脈に沿って縦にひだがあり、風に吹かれると言葉で表しにくい縦方向に揺れる独特の動きをします。このひだは音を増幅させる機能があり、枝元に震動の出る音源をつけると大きな音を出すスピーカーとして利用できます。

カークリコ

最近、生け花展などでも利用されることが増えて、音楽が流れる生け花として話題になっています。根元に小さな黄色い花がつき1cmほどの実がなりますが、この実はクルクリンを含んでおり味覚修飾活性があり、ミラクルフルーツ同様の酸っぱいものを甘く感じる作用があります。

一般的に屋内での観賞用として見られる熱帯・亜熱帯の植物の多くが、南の島の強烈な紫外線下では屋内では見ることのできないような鮮やかな色彩を見せ、来島者を楽しませてくれます。

株式会社川平ファーム代表 石垣島サイエンスガーデン代表 ボタニカルアーティスト
橋爪雅彦 はしづめまさひこ
東京都立園芸高等学校卒業。学研の図鑑・東京大学出版会・誠文堂新光社(ガーデンライフ)・東京書籍生物教科書の図版及び科学論文などのイラスト担当。大阪花博東日本イベント総合プロデュース。国立博物館監修『原色日本のラン』執筆のため、東京より石垣島に移住。石垣市川平において「川平ファーム」としてパッションフルーツの加工を始める。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第62号 2022年12月