2022.5.16.

植物たちが秘める健康力「不老長寿」「不老不死」を求められる野菜や果物

甲南大学特別客員教授

田中修

2021年12月、厚生労働省により、「2019年の健康寿命は、男性が72.68歳、女性が75.38歳だった」と発表されました。前回の調査(2016年)から、男性は0.54歳、女性は0.59歳伸びました。この健康長寿は、昔から、「不老」「不死」「長寿」にあこがれた人々に求められていました。「不老」「不死」はかなえられることはありませんが、近年、野菜や果物に含まれ、老化を防止し、健康長寿に期待される成分が明らかになっています。今回は、三つの代表的な植物を紹介します。

「お菓子の元祖」「お菓子の神様」とは?

この植物には、弥生時代に、中国から日本に持ち込まれたという言い伝えがあります。それによると、11代の天皇、垂仁天皇の「不老長寿をもたらす果実を探すように」との命を受けて、田道間守命たじまもりのみことは、中国へ旅に出ました。

十年後、彼が持ち帰ったのが、タチバナの木でした。お菓子のなかった当時、その果実はお菓子として食べられ、タチバナの果実は「お菓子の元祖」となり、それをもたらした田道間守命は「お菓子の神様」とよばれます。

この言い伝えとは別に、タチバナの原産地は日本であり、これは日本固有の柑橘植物といわれます。それを裏づけるように、この植物の学名は「シトラス タチバナ(ミカン属の橘)」であり、日本名が使われています。また、近年の研究では、この植物が、日本にある多くの柑橘類の一つの原種であり、「日本の柑橘類の元祖」とされます。

近年、タチバナの果実には、「ノベルチン」という物質が温州ミカンの20倍以上含まれていることがわかってきています。この物質には、ガンを予防する効果があり、認知症の原因となるアミロイドβの蓄積を抑制する作用が見出され、アルツハイマー病の薬となる可能性が期待されています。

「不老不死の秘薬」とは?

この植物の原産地は、アフリカのサバンナといわれます。日本には、縄文時代の遺跡から、種子が発見されていることから、中国からの伝来はかなり古いと考えられます。奈良時代にはすでに栽培され、平安時代には食用にされていたようです。

この植物はゴマです。その種子には、良質の脂質が多く、また、タンパク質が約20パーセント含まれています。そのため、精進料理では、ダイズとともに貴重なタンパク質源でした。

平均寿命の短かった時代に、僧侶は長寿だったといわれます。たとえば、平安時代の鳥羽僧正は88歳、鎌倉時代の親鸞聖人は90歳、「とんちの一休さん」で知られる、室町時代の一休宗純は88歳、安土桃山時代から江戸時代の前期を生きた天海は107歳などです。肉食を禁じられた僧侶たちの長寿を支えたのは、ダイズとともに、ゴマのタンパク質であったと思われます。

ゴマは、平安時代の日本最古の医学書『医心方』に、「老衰を防ぎ寿命を伸ばす」と記述されており、インドでは、「万能薬」とよばれ、長い歴史をもつ伝統医療術であるアーユルヴェーダに使われています。薬草の力について記述された医薬書である、世界最古の中国の『神農本草経』では、ゴマは「不老不死の秘薬」とされます。

ゴマの薬効をもたらす成分は、ゴマリグナンとよばれる物質で、その代表は「セサミン」や「セサミノール」などです。また、ゴマには、“若返りのビタミン”といわれるビタミンEが多く含まれます。近年、これらの物質は、血圧降下効果、肝臓の機能改善、老化を抑制する作用などをもち、健康長寿への役割が知られています。

「不老不死の妙薬」の正体は?

この植物は、「中国の秦の初代皇帝である始皇帝が、不老不死の薬草を求めて、日本に送った使者が、日本で見つけた薬草である」といわれることがあります。これが、日本生まれのセリ科の植物で、伊豆七島が原産地といわれるアシタバです。

そのため、英語名でも日本名と同じく、「アシタバ」といわれます。「今日、若葉を摘んでも、明日には、芽から若葉が出る」といわれるほど、強い成長力があります。これが、アシタバ(明日葉)という名前の由来になっています。

アシタバが「不老不死の妙薬」といわれる所以は、この葉っぱには、ビタミンやカロテンが多く含まれることです。また、茎を切ると出てくる黄色の液には、私たちの身体を錆びさせるといわれる活性酸素の害を消す「カルコン」が含まれているからです。

2019年2月に、オーストリアの研究者により、「アシタバに含まれる4,4’−ジメトキシカルコン(DMC)という物質が、老化に伴い細胞に蓄積する老廃物を除去する」という研究成果が発表されました。老廃物は、蓄積すると、老化を促し、高齢化に伴うさまざまな病気や障害を引き起こす物質です。そのため、これが除去されれば、老化が抑制され、寿命が伸びます。ですから、「アシタバは、不老不死の妙薬」という古くからの言い伝えは、この研究により、科学的な根拠が与えられたことになります。

甲南大学特別客員教授
田中修 たなかおさむ
京都大学農学部卒、同大学院博士課程修了(農学博士)。米国スミソニアン研究所博士研究員などを経て、現職。近著に、令和の四季の花々を楽しむ『日本の花を愛おしむ』(中央公論新社)、食材植物の話題を解説した『植物はおいしい』(ちくま新書)、草・木・花のしたたかな生存戦略 を紹介した『植物はなぜ毒があるのか』(幻冬舎新書)など。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第59号 2022年3月