2021.12.31

ガーデニングデザイン: ハーブの乾燥方法と有効成分

当協会理事

木村正典

しんと澄んだ空が広がる冬。空気も乾燥して、ドライハーブやドライフルーツ作りにはぴったりの季節です。多くの草花がお休みに入るこの時季にチャレンジしてみませんか。

Question

  • 機械で乾燥させると、栄養価、薬効成分は少なくなりますか?
  • 花の色や香りを状態よく乾燥させるのによい方法などありますか?
  • ドライフルーツの栄養価が高いのは天日干しのためですか?

高温乾燥と自然乾燥の違いを知ろう

乾燥と酵素反応

植物の成分変化すなわち代謝には、加水分解や酸化・還元などの酵素反応と、脱炭素などの非酵素反応とがあり、代謝の多くは酵素反応によります。
 
酵素反応で、酵素によって反応を受ける元の物質を「基質」、酵素反応の結果生じる生成物を「生産物」といいます。

酵素は、50~70℃以上の高温で酵素活性を失いますので、高温で乾燥させると、酵素反応による成分変化がおこりません。基質を温存するには高温乾燥を、生産物と酵素を得るには自然乾燥を行います。

①高温乾燥 通風乾燥機や電子レンジなどで高温乾燥すると、酵素が不活性化して成分変化が起こりませんのでフレッシュ時の成分を温存することができます。

また、酵素反応をする間もなく急速に乾燥させることで、成分変化を最小限に抑えることができます。自然乾燥に比べて栄養価や機能性成分が少なくなるということはありません。

成分分析実験を行うときには、植物を蒸れないようにして100℃以上で1時間程度通風乾燥させたのち、60℃以下で数日じっくり通風乾燥させます。それによりフレッシュの時の成分がドライになっても変化せずに保存されます。

一方、この方法では基質は維持されますが、生産物は得られず酵素活性も失われてしまいます。

通風高温乾燥機

②自然乾燥 自然乾燥では酵素反応による成分変化を起こしやすくなりますが、高温に遭いませんので、酵素を温存することができます。
乾燥時の光の有無は花色を除いて機能性成分にはほとんど影響しません。

地中海性気候など、乾燥地域でしたら陰干しもよいでしょうが、高温多湿の日本においては、カビの発生が成分変化以上に大きなネックになります。

カビの発生を防ぐためにも、また、酵素反応による成分変化を抑えるためにも、直射日光で一気に水分を抜いて乾燥させることが重要です。植物が重なって蒸れないように広げて、晴天時に天日干しをして一気に乾燥させましょう。

天日干しの様子(カモミール)

乾燥方法でハーブの有効成分が変わる?

配糖体とは?

配糖体とは、特定の物質(アグリコン)が糖と結合した物質です。細胞が壊れた時に、違う場所(液胞や酵素含有細胞など)に存在する酵素と配糖体が接触することで加水分解され、アグリコンが出現します。配糖体は酵素反応を受ける基質に相当します。

辛味成分や色素、有毒物質など、ほかの生物にとって有害な物質は、アグリコンであることの多い特徴があります。これらの有害物質=アグリコンは、植物体内では糖と結合して有害ではない配糖体のかたち、言い換えると、有害物質になる1つ手前の物質の状態で存在し、組織が破壊された時に有害物質を生成する仕組みになっています。

植物は、ふだんは有害物質をもたずに、敵にかじられた時や損傷を受けた時にのみ、有害物質を生成して身を守っていると考えられます。

①インディゴ(藍色色素)
アイタデの藍色色素であるインディゴは植物生体内では配糖体(インディカン)の形で存在します。

アイタデの葉を自然乾燥すると、乾燥中に細胞内の水分が失われて細胞構造が破壊され、細胞質中に存在する配糖体のインディカン(無色)が液胞内の酵素(β-グルコシダーゼ)と接触して加水分解されてインドキシル(無色)になり、インドキシルがやがて酸化されてインディゴ(藍色)となります。それにより、乾燥葉が藍色に変化します。

また、酵素は活性を失わずに乾燥葉中に蓄えられます。葉を虫にかじられた時も、配糖体が酵素と接触して加水分解され酸化されるため、傷口が藍色になります。

このシステムは、インディゴに抗菌、防虫効果が知られていることから、虫に食べられないようにしたり、傷口から菌の侵入を防いだりする生存戦略と考えられます。

アイタデ葉

一方で、アイタデの葉を通風乾燥機や電子レンジなどで高温乾燥させると、酵素が不活性化し、配糖体のインディカンは分解されず、乾燥葉は緑のままで藍色にはなりません。
 
したがって、自然乾燥させて酵素を温存する乾燥葉と、高温乾燥させて配糖体を温存させた乾燥葉とをミックスして水を加えてミキサーにかけることで、乾燥葉でも生葉染めと同じ原理で染色することができます。

アイタデ乾燥葉

②イソチオシアネート(辛味成分)

アブラナ科の辛み成分(イソチオシアネート)、特にワサビやワサビダイコン、カラシの辛み成分であるアリルイソチオシアネートは高い抗菌性を有しており、植物体中では配糖体(グルコシノレート)として辛くない物質で存在します。それをすり下ろしたりかじったりすると、ミロシン細胞に含まれている酵素(ミロシナーゼ)と配糖体が接触して加水分解され、イソチオシアネートが揮発して発生します。

アブラナ科植物を常温で乾燥させると酵素は温存されます。粉わさびを水に溶くと辛くなるのは、粉末中の配糖体と酵素が水を得て加水分解され、辛味が出ることによります。ちなみに、粉わさびの原料はカラシとホースラディッシュでワサビは入っていません。

ダイコンを生でかじると配糖体が分解されてイソチオシアネートの辛味を感じますが、茹でてかじると酵素が不活化して配糖体が分解されませんので、配糖体を食べることになり、辛くありません。辛味を得たいときには火にかけず、辛味を消したいときには火にかけるのはこれらの反応に由来します。

③ケルセチンとルチン(機能性成分)
ケルセチンはフラボノイドの一種で、植物体中ではルチンと呼ばれる配糖体の形で存在するか、単独で遊離した形で存在します。

抗酸化や抗炎症、抗動脈硬化、抗腫瘍、降圧など多くの機能性が報告されている一方、毒性や抗菌性があり、植物が外敵から身を守るための物質と考えられます。

一方、ケルセチンの配糖体であるルチンにも、抗炎症や血流改善、抗酸化など多くの機能性が報告されており、ケルセチンと違って配糖体であるため、毒性はないとされています。

ルチンを多く含むダッタンソバや柑橘の果皮などは、自然乾燥させれば、調理過程(例えばそば粉を水で練る)などでルチン分解酵素によって加水分解されケルセチンに変化する可能性がありますが、高温乾燥によって酵素を不活性化してしまえば、その後は調理方法にかかわらずルチンのまま摂取できることになります。

ケルセチン(アグリコン)を摂るのかルチン(配糖体)を摂るのかによって、乾燥方法や調理方法が変わることになります。

アリウムクロップスの含硫化合物(辛味・臭気成分)

ニンニクをはじめとするアリウムクロップス(ネギ類)の含硫化合物は、配糖体と同じように、すり下ろしたりかじったりして植物が傷つくと、酵素反応で加水分解され、辛味や臭気成分を生成します。

この含硫化合物は植物体中ではアリインと呼ばれる辛味も臭気もない物質ですが、アリイナーゼと呼ばれる酵素と出合うことで加水分解されるとアリシンと呼ばれる辛味・臭気成分になります。

この辛味・臭気成分のアリシンは強力な殺菌作用をもち、腸内細菌も死滅させるため胃腸障害の原因になる一方、動脈硬化予防や抗酸化、脂肪燃焼、コレステロール低下、強壮、風邪予防など、多くの機能性が報告されています。これも外敵から身を守るための生存戦略です。

さらに、このアリシンを加熱するとスコルジニンと呼ばれる新陳代謝を高める作用をもつ物質に変化します。

ニンニクを切ったりせずに丸のまま70℃以上の高温で乾燥させたり加熱調理したりするとアリインは分解されませんので辛くも臭くもなくなります。その代わり、アリシンのもつ機能性も得ることはできません。

また、刻んだりすりおろしたりしてアリシンを生成させた後に加熱するとスコルジニンが生成されて、新陳代謝を盛んにする作用を得ることができます。しかし、やはりアリシンのもつ機能性を得ることはできません。

粉わさび
ニンニク乾燥

葉・花の色と香りを上手に残す乾燥方法

乾燥と香り

花の香りは蜜腺などから揮発してしまってドライではあまり残りません。花以外の香りは精油分泌組織内に貯蔵されており、シソ科やフウロソウ科などでは腺毛に、ミカン科、フトモモ科などでは油室に、ショウガ科やクスノキ科などでは精油細胞に閉じ込められているため、これらは乾燥しても組織は壊れず、香りが残ります。

一方、セリ科やウコギ科など、香りが油管と呼ばれる管に蓄積されている植物の葉は、ドライにすると油管の切り口から精油が揮発して出て行き、香りが弱くなります。これらの葉はドライよりもフレッシュで利用したいものです。

ペパーミントの茎の腺毛
ペパーミントの茎の腺毛

乾燥と葉色

植物の緑色色素であるクロロフィルも酵素反応で分解されます。

ゆっくり乾燥させるなどすると、その間にクロロフィル分解酵素で加水分解されて緑色が抜けて黄ばんでいきます。

クロロフィル分解酵素による反応を食い止める、すなわち、クロロフィルを温存してきれいな緑色を残すには、高温乾燥によって酵素活性を失わせるか、酵素反応するよりも早く急速に乾燥させることです。

蒸れるとたちまちクロロフィルが加水分解されて褐変します。緑茶がきれいな緑色を残しているのは、炒る、蒸すといった高温で乾燥させるプロセスがあるからです。

高温処理をせずに自然乾燥で醗酵させる紅茶などでは、酵素反応でクロロフィルが分解されると同時にポリフェノールが酸化されてリンゴの切断面のように褐変していきます。

乾燥と花色 

花を乾燥させる場合もやはり、高温もしくは短時間で乾燥させることが大切です。

ただし、花色を美しく保つためには蛍光灯も含めて光に当てないことが大切になります。これは乾燥過程だけではなく、ドライになった後も同じです。

花の色素はその色素が吸収する可視光(紫~赤までの波長の光のうち、その花の色以外の色の光。花の色はその花が必要とせずに反射した色が見えている)や紫外線が当たると、自己光増感酸化反応を起こします。

この反応は、その色素が光エネルギーを吸収し、そのエネルギーが酸素を活性酸素に変えてしまい、その結果、活性酸素が色素分子を酸化分解してしまうという、自己破壊反応です。

酸素を与えないことも活性酸素を生じないことになりますので、色あせ防止になります。なお、この反応は生きている植物では起こりません。

花色を美しく保つための陰干し

ドライフルーツの栄養価が高いのは天日干しのため?

シイタケにはエルゴステロールという成分が含まれていて、これが紫外線を受けることで、ビタミンDに変化します。

われわれ人間も皮膚にプロビタミンD成分をもっているため、紫外線を受けることでビタミンDをつくることができます。

しかし、果物や野菜にはエルゴステロールはほとんど入っていませんので、ドライフルーツでは天日干しをしてもビタミンDの生成を期待できません。

ドライフルーツの栄養価が高いのは、水分が抜けて有効成分の濃度が高くなっているためでしょう。

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当協会理事
木村正典 きむらまさのり
(株)グリーン・ワイズ。博士(農学)。ハーブの栽培や精油分泌組織の観察に長く携わると共に、都市での園芸の役割について研究。著書に『有機栽培もOK! プランター菜園のすべて』(NHK 出版)など多数。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第58号 2021年12月