2023.6.27

ガーデニングデザイン: はじめての土づくり 弱酸性で栄養のある土づくり(化学性改善)

当協会理事

木村正典

栽培の基本は土づくりと病害虫・雑草管理。
基本の1つである土づくりで大切なのは、土壌の物理性、化学性、生物性を良くすることです。
前回の物理性改善によるふかふかの土づくりに続き、今回は土壌の化学性改善の基本と実際を紹介します。

Question

  • 植物栄養にはどのようなものがあり、どんな役割があるのでしょうか?
  • 肥料をたくさんあげたのに実が着きません。どうしてでしょうか?
  • 土づくりで、はじめに石灰を施すと聞きましたが、なぜですか?
  • ラベンダーやローズマリーなどの原産地である地中海沿岸は石灰岩でアルカリ性なので、日本で育てるには石灰が必要でしょうか?

良い土とは、土壌の物理性、化学性、生物性の良い土ということができます。

今回はその中で、化学性の良い土について考えていきます。

1.土壌の化学性

化学性の良い土とは、植物栄養となる元素が適量存在し、土壌pHが植物に適正な土のことです。

2.植物の栄養素とその役割

植物に最も必要な元素は、植物に最も多く含まれる元素で、それは炭素(C)、水素(H)、酸素(O)です。これらは、二酸化炭素(CO2)と酸素(O2)を気孔から取り込み、水(H2O)を根から吸収して光合成で有機物を合成し、呼吸で光合成産物を分解してエネルギーをつくります。それら以外の元素はいずれも根から吸収されます。

土壌中から得られる酸素と水素以外の元素を植物栄養と呼んでいます。

植物栄養で最も多量に必要な元素は窒素(N)です。次いで、リン(P)、カリウム(K)であり、これらは栽培の上では慣例で、窒素、リン酸、カリと称し、これらを三要素(三大栄養素)と呼びます。

この他に、栽培の上で石灰と呼ぶカルシウム(Ca)と、苦土くどと呼ぶマグネシウム(Mg)を加えて五大栄養素、さらに硫黄(S)を加えて多量元素と呼びます。

その他、植物にとって必須の微量元素、さらに、ある植物にのみ有用な微量元素があります(表2)。

これらの元素は光合成でできたC、H、Oからなる化合物とくっつくことで植物に必要な様々な成分になります。

(1)窒素

育てる上で最も重要な元素が窒素(N)です。Nは植物に不可欠な基本物質の構成元素ですので、不足すると生育が悪くなります。葉肥とも呼ばれ、特に葉の生育が低下します。

根から吸収されたNは、光合成できたC、H、Oの化合物とくっつくことでアミノ酸(C、H、O、Nの化合物)になります。

アミノ酸が結合してタンパク質に、更に複雑に結合して核酸や葉緑素、酵素、ホルモン、アルカロイドなどになります。

①窒素欠乏/窒素が欠乏すると、生育に必要な物質が作られなくなり、特に葉緑素も作られないため、葉が黄ばんできます。

したがって、葉が黄ばんできたらN欠乏のサインです。葉緑素含量が低下することで光合成が低下し、葉が増えない、大きくならない、根が肥大しないなど、生育が低下します。

生育が低下することで、病害虫にも弱くなります。

光合成が低下することで、光合成産物であるハーブの香りをはじめとする有効成分の含量も低下します。

野生に近い植物などは一般には、自然界の窒素循環だけで十分に生育します。ところが、人と共に進化した野菜や果樹、作物など(ただし、サツマイモやエダマメを除く)は、ご先祖様が動物の糞の肥やし(窒素が豊富)を与えながら、より大きなもの、より甘いものの種子を播き続けてきた(選抜育種)ため、これらは窒素の少ない環境では大きくならない、甘くならないということになります。

ご先祖様は、動物の糞の傍の草が大きく茂っていることに気づいて肥やしをあげる栽培を始めたのかもしれません。

②窒素過剰/窒素は多すぎても生理障害を起こします。

サツマイモやエダマメで顕著に見られる「蔓ボケ」はその1つです。蔓ボケとは蔓ばかり延びて葉はたくさん茂るものの、芋が肥大しない、花が咲かずに実が着かないというもので、他にも果菜類や果樹、花木などで広く見られます。

植物は、一般に、自分自身の生育が旺盛な間は、子孫を残す方向に行かず、生殖生長に入りません。勢いのある太くて長い枝には花が咲かず実が着かないのはこのためです。

生殖生長を促すには、窒素を控えるか、それまで潤沢だった窒素を急激に切ることが大切です。

サツマイモ栽培では、9月につるを地面から剥がして根を切って窒素供給を絶つ「つる返し」を行います。

イチゴ栽培では、開花促進技術の1つに「断根ずらし」があります(図1)。ブルーベリーやバラ栽培では、窒素施与を控えめにし、春先に新葉が芽吹く前に油かす(窒素が豊富)を施します。

油かすは肥効ひこう(肥料効果)が短いため、開花前には切れて、開花・結実を促進します。

この他、窒素過剰では、茂り過ぎて、蒸れたり、倒れたり、隣に覆いかぶさったり軟弱になって根が切れて土壌病害に遭いやすくなったりします。

このため、観賞用ガーデンでは、バーク堆肥や腐葉土など、窒素の少ない有機物を施します。

図1 イチゴの「断根ずらし」

ポリポットで育苗しているイチゴ苗の根が鉢底穴から地面に伸びて地面から窒素を吸っている状態の時に、ポリポットを強制的にずらして根を切断する技術。

根が切られて急に窒素供給が絶たれることで花芽分化が促進される。

(2)窒素以外の主な栄養素

①リン酸(花肥はなごえ実肥みごえ)/元素としてはリンですが栄養素としては、リン酸と呼ばれ、P2O5で表されます。

リンは核酸や生体膜、ATPなどの構成元素で、遺伝や物質通過、エネルギー代謝などに関与し、開花・結実・発根などの新しい器官の形成や発達を促進します。

②カリ(根肥ねごえ)/カリウムは栽培上、カリと略され、K2Oで表されます。

カリウムは細胞での浸透圧調整や電気的バランスの維持、根からの養分吸収や光合成産物の移動、気孔の開閉、呼吸や光合成での酵素反応促進などの役割があります。

カリ栄養は根の伸長・肥大や結実を促進する他、病気や寒さに対する抵抗性を高めます。

③カルシウム(石灰)/アルカリ性を示すため、主として、酸性になった土壌の中和に用います。

化学肥料は土壌を酸性にする性質があるため、施したら必ず石灰で中和します。化学肥料を施さない有機栽培ではカルシウムを施しません。

④その他の栄養素/植物に必要な栄養素は有機物の中に十分に存在します。土壌生物が豊富であれば有機物が分解されて自然に出てきますので、欠乏の心配はありません。

3.植物栄養の供給

(1)化学肥料栽培の場合

植物に必要な栄養素は、全量、土壌生物を介さずに直接吸収できる化学肥料で施します。

化学肥料には、各栄養素単独の肥料(単肥たんぴ)や、複数成分を化学的に加工して混ぜ合わせた化成肥料(液体肥料を含む)があります。微量要素肥料もあります。

(2)生態系を大切にする栽培の場合

植物に必要な元素のほとんどは自然界に存在する量で足ります。

必要な元素を全てもっている健全な植物は、枯葉を落とす、動物に食べられて糞になる、それらが土壌生物に分解されて栄養素になる、根から吸収して回収することで循環します。このような循環があれば、人が栄養を与える必要はありません。

ところが、化学物質を使用したり、落ち葉や収穫残渣、剪定枝、刈った雑草などを取り除いたりすると欠乏します。その土地から出たものは外に持ち出さずにその場に積んでおきます。

もし、取り除いたとしてもコンポストを作ってまたその土地に戻します。ただし、窒素は育てる植物によっては欠乏するため、施す必要があります。

有機質肥料には、様々な栄養素が含まれていますので、施す量は窒素の量だけを考えて決めればよいです。

植物の栄養素は、地域内循環も大切です。日本型農業では、稲作農家、畜産農家、園芸農家などが地域に混在し、稲わらが家畜の敷き藁となり、畜糞堆肥が園芸作物の栄養となるなどの地域内循環が行われてきました。

地域で出る有機物を積極的に土に戻すなどして、大きな循環を維持したいものです。

4.土壌pH

土壌pHは多くの植物が弱酸性を好みます。地中海沿岸は石灰岩でアルカリ性、日本の山土は酸性で、地域によって土壌pHは異なります。

地中海沿岸原産のラベンダーやローズマリーは他の植物が育たないようなアルカリ土壌でも生育が可能ですが、アルカリ土壌を好むわけではなく、弱酸性の肥沃な土で育てるととても元気に育ちます。

酸性土壌を特に好むブルーベリーやパイナップルなどを除いて、弱酸性を維持することが求められます。

(1)化学肥料栽培の場合

化学肥料には土壌を酸性にする性質があるため、石灰で中和する必要があります。土づくりでまず石灰を施すのは化学肥料を使用しているからです。

(1)生態系を大切にする栽培の場合

植物に限らず、動物、微生物はいずれも弱酸性を好みます。したがって、土壌中に生物がたくさんいるほど土壌は弱酸性に保たれます。

投入する有機物の多くも弱酸性ですので、特にpHを調整する必要はありません。石灰を施してしまうと、土壌生物が棲みにくくなってしまいます。

お悩み・質問募集中! ご応募はこちらから▶ https://qr.paps.jp/SrUUH

当協会理事
木村正典 きむらまさのり
(株)グリーン・ワイズ。博士(農学)。ハーブの栽培や精油分泌組織の観察に長く携わると共に、都市での園芸の役割について研究。著書に『有機栽培もOK! プランター菜園のすべて』(NHK 出版)など多数。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第64号 2023年6月