2021.12.20

心と体のマネジメント: ストレスケアに役立つハーブ:エゾウコギ Eleuthero

博士(農学)

木村正典

エゾウコギの花
  • 【学名】 Eleutherococcus senticosusAcanthopanax senticosus
  • 【科名】 ウコギ科
  • 【使用部位】 根、茎
  • 【主要成分】 リグナン類(エレウテロシドEなど)、クマリン誘導体(イソフラキシジンなど)、サポニン類(エレウテロシドAなど)、多糖類【作用】 アダプトゲン、賦活
  • 【適応】 疲労、運動能力・集中力・持続力の低下、 感染症の予防、病後の健康回復

ストレスへの適応力を高め 心と体を元気にするハーブ

エゾウコギは北海道やロシア、中国の一 部などの寒冷地に生育するウコギ科の落葉低木です。ロシアで は学名の属名から「エレウテロコックス」、中国では枝にとげが密生していることから「刺五加しごか」、日本では北海道にのみ自生することから「蝦夷えぞウコギ」という名がつけられています。

中国では2000年もの間、「気」を補う植物として利用されてきましたが、その成分が科学的に検証されるようになったのは、20世紀以降です。1960 年代には旧ソ連において研究が進められ、エゾウコギに含まれるエレウテロシドやイソフラキシジンなどの成分に、抗ストレス作用や疲労回復作用、運動能力や作業能力の向上作用などがあることが明らかになりました。

特に注目されたのは、エゾウコギのもつ 「アダプトゲン(Adaptogen)効果」です。 アダプトゲンとは、ストレスに対する適応力を高め、生体を守る働きのことで、「適応素」とも訳されます。エゾウコギは、体の局所ではなく、神経系—内分泌系—免疫系を介し体全体に働きかけ、生命力を高めることで、心身のストレスへの対処や適応をサポートしてくれます。

エゾウコギに期待される効能

エゾウコギは医療だけでなく美容の分野でも研究が進められ、様々な応用が期待されています。
一般には、根や茎を加工して乾燥させたものをハーブティーとして飲用しますが、チンキやサプリメント、薬用酒などで摂ることもできます。

抗ストレス

主要成分のエレウテロシドEには、「β‐エンドルフィン」の分泌を促す働きがあります。β‐エンドルフィンは痛みやストレスを抑える作用をもつため、ストレスへの抵抗力を高める効果が期待できます。

疲労回復・滋養強壮

エレウテロシドEには、体内の巡りをよくして老廃物や毒素の排出を助ける働きや、乱れた自律神経を整える働きがあり、精神的・肉体的な疲れやだるさをやわらげます。病後の体力回復にも有効です。

運動能力の向上

運動による疲労やストレスが速やかに軽減されるため、持久力や集中力の維持が可能になります。これにより、スポーツの記録やトレーニングの効果が向上することが分かっています。

免疫力の強化

β-エンドルフィンには免疫細胞を活性化させる働きがあります。エレウテロシドEは、β-エンドルフィンの分泌を促してこの働きを強めることにより、免疫力強化に役立つと考えられています。

女性の悩みの改善

主要成分のイソフラキシジンやエレウテロシドBには、血行を促進し、体を温める作用があります。冷え、及び冷えからくる肩こりや腰痛、頭痛、むくみ、肌荒れ、 月経痛などの予防・改善が期待できます。

ATTENTION

子ども、乳幼児、妊娠中・授乳中の方、服薬中の方、持病のある方は、医師のアドバイスを受けてから使用してください。

TOPICS  エゾウコギとオタネニンジン

エゾウコギは根の外見がオタネニンジン(朝鮮人参、高麗人参、Korean ginseng)と似ていることから、「シベリアニンジン(Siberian Ginseng)」とも呼ばれます。

オタネニンジンは古くから全身強壮剤として朝鮮半島や中国で重用されてきました。

エゾウコギとオタネニンジンはどちらもウコギ科の薬用植物ですが、エゾウコギはウコギ属、オタネニンジンはトチバニンジン属に分類され、有効成分も異なります。

したがって、シベリアニンジンよりもエゾウコギと呼ぶのが望ましいです。

エゾウコギの主要成分はサポニンの一種のエレウテロシドで すが、オタネニンジンの薬効の中心となる成分は、サポニンの一種ではありますがジンセノイドで異なります。

ジンセノイドは抗酸化作用、血行促進作用、免疫力を高める作用、血中の脂質を減少させる作用など多くの健康効果をもち、ストレスを軽減して全身の調子を整えるアダプトゲン効果も知られています。

このように、エゾウコギとオタネニンジンは、薬効を見ると共通する点も多いのですが、植物としては同じ属ではなく、含まれる成分も異なります。

ちなみに、オタネニンジンは当初ニンジンと略され、野菜のニンジン(セリ科)はオタネニンジンに似ていることからセリニンジンと呼ばれていましたが、いつの間にか立場が逆転し、今ではニンジンは野菜のニンジンを指すようになりました。

博士(農学)
木村正典 きむら・まさのり
当協会理事。(株)グリーン・ワイズ。博士(農学)。ハーブの栽培や精油分泌組織の観察に長く携わると共に、都市での園芸の役割について研究。著書に『有機栽培もOK!プランター菜園のすべて』(NHK出版)など多数。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第58号 2021年12月