2021.3.18.

植物たちが秘める“健康力” カロテノイドの働きとは?

甲南大学特別客員教授

田中修

前回は、抗酸化物質の代表であるポリフェノールが、心臓病と認知症を予防し、また、腸内細菌へ働きかけることで私たちの健康に貢献していることを説明しました。今回は、ポリフェノールと並んで、老化を防止し、疲労を回復し、視力を保つことなどに有効に働くことが期待されるカロテノイドを紹介します。

カロテノイドは、600種以上、あるいは700種以上といわれ、多くの物質の総称であり、カロテン、リコピンなどのカロテン系と、ルテイン、ゼアキサンチン、クリプトキサンチン、アスタキサンチンなどのキサントフィル系に大別されます。

語源となる、二つの健康野菜

「カロテン(caroten)」という名称は、ニンジンの英語名である「キャロット(carrot)」が語源です。ニンジンの食用部である根の色が、カロテンの橙色です。だからこそ、ニンジンは、「カロテンの宝庫」や「カロテンの王様」といわれます。カロテンは、抗酸化物質ですが、ビタミンAが不足した時には、ビタミンAに変換する性質があります。

「リコペン」という名称は、トマトの古い学名「リコペルシコン・エスクレンタム」の「リコペルシコン」に由来します。この語は、ラテン語で「狼の桃」を意味します。近年、「オオカミの桃」という名前のトマトのジュースが売られています。

古くから、トマトが健康を維持し増進することは知られており、「トマトが赤くなると医者が青くなる」や、「トマトのある家に胃腸病なし」と言い伝えられています。また、ヨーロッパには、値打ちが高い果実を“リンゴ”と呼ぶ習慣があり、トマトは、健康を守る働きが高く評価され、「愛のリンゴ」、「黄金のリンゴ」、「天国のリンゴ」などと呼ばれます。

黄色の色素の健康力

「キサントフィル」という名称の「キサント」とは黄色、「フィル」は葉を意味します。「葉の中にある黄色の色素」ということです。葉では、クロロフィルという緑色の色素に隠されていますが、カボチャ、パプリカ、キウイなど果実類では目立ちます。

温州ミカンの果汁には、β-クリプトキサンチンという黄色い色素が含まれています。近年、この物質には、肝臓の機能を守る効果があることが注目されています。アルコール類を多く飲む人は、血液検査の時、気になる検査項目の一つに、肝臓機能の障害を示す指標になる「γ – GTP」があります。アルコール類の飲み過ぎが続くと、この数値が上昇します。ところが、「1日に2〜3個の温州ミカンを食べていると、この値が正常のままに保たれる」といわれます。これが、β-クリプトキサンチンの効果です。

ルテインとゼアキサンチンは、近年、別に扱われる傾向がありますが、構造も働きもよく似ており、共存していることも多いため、識別せずに扱われてきました。この2つは、目の「黄斑部」と呼ばれる部分に多く存在します。黄斑部は、形や色彩を見分ける視力の中心的役割を果たす部分です。黄斑部に「黄」の文字が使われるのは、黄色の色素であるルテインとゼアキサンチンが、そこに多く存在することによります。そのため、これらの物質は、摂取されると、黄斑部の色素量を増加させ、目のぼやけを改善し、くっきりと見る力を保ち、紫外線や青色光から目を保護します。

サケのサーモンピンクの話題とは?

サケのからだの色である「サーモンピンク」は、植物由来の色素が、からだに蓄積したものです。海の中にいる緑藻類のヘマトコッカスは、緑色ですが、栄養の不足や渇水、あるいは、強い光や高温などのストレスに出会った時に、アスタキサンチンをつくって真っ赤になります。これが、エビやカニ、サケに取り込まれ、からだに蓄積されたものなのです。

アスタキサンチンは、ヘマトコッカスがストレスに抗ってからだを守るためにつくり出す物質なのです。その抗酸化力は、抗酸化作用のあるビタミンEの数百倍といわれます。そのため、ストレスに対する強い抵抗性を発揮します。

例えば、アスタキサンチンを摂取していれば、紫外線による日焼けが起こりにくくなることが明らかになっています。また、アスタキサンチンは、紫外線を照射した部位で肌の水分量が保たれ、肌が潤いを保つことが示されています。

最近では、アスタキサンチンは、学習や記憶の能力を高めることが分かってきています。ストレスにならない歩く程度の軽い運動が、脳の中で、学習や記憶を担っている「海馬」と呼ばれる部分の機能を高めることは知られていました。さらに、アスタキサンチンを軽い運動と併用することにより、その能力は相乗的に高められるのです。

甲南大学特別客員教授
田中修 たなかおさむ
京都大学農学部卒、同大学院博士課程修了(農学博士)。米国スミソニアン研究所博士研究員などを経て、現職。近著に、令和の四季の花々を楽しむ『日本の花を愛おしむ』(中央公論新社)、食材植物の話題を解説した『植物はおいしい』(ちくま新書)、草・木・花のしたたかな生存戦略 を紹介した『植物はなぜ毒があるのか』(幻冬舎新書)など。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第54号 2020年12月