2021.3.17

お米を炊いた時のような香りをもつハーブや、果実を割るとこぼれ出るキャビアのような粒をもつ果物

石垣島サイエンスガーデン代表 ボタニカルアーティスト

橋爪雅彦

南の島独特の新しいハーブや果物

石垣島は年間平均気温24°Cの亜熱帯の気候です。ここ数年は最高気温34°C前後、最低気温が15°C前後で推移しています。年に1〜2度10°C前後まで下がることがありますが、その時には早朝からリーフ(環礁)の中で凍えて大きな魚が浮きます。陽が昇って暖かくなると泳ぎ出すので、早朝から浮いた魚をすくってまわる人々が見かけられます。

こんな気候ですから年間を通して花が咲き乱れます。特にハイビスカスやブーゲンビレアなどの短日性植物は冬期が最盛期になります。

そんな島の中で、最近各種のハーブ類や果物が新しい換金作物として栽培されるようになってきました。今回はそれらの植物を紹介してみたいと思います。

バニラ

メキシコ原産のラン科の蔓性植物です。ラン科には珍しく一日花で花に香りはありません。成熟前の未熟なさやを、キュアリングという熟成作業によりあの甘い香りが誕生します。種子をつけるのが難しく長年自然での種子を使われてきましたが、1841年、12歳の子どもが人工授精法を見いだしたことにより世界に栽培が広がりました。その甘い独特の香りで、アイスクリームをはじめ多くの商業用製品や家庭用のベーキング、香水、アロマセラピー等に広く使用されています。マダガスカルとインドネシアが主要な産地で、石垣島では八重山農林高校が長年にわたり試験栽培を続けてきました。近年、島の女性が起業し本格的なバニラビーンズの栽培を開始。既に関連商品が販売され始め、注目されています。

カルダモン

ショウガ科の植物で、ネパールを主に自生するブラックカルダモンとインドからマレーシアの熱帯に自生するホワイトカルダモンの2タイプがあります。種子は強い樹脂の芳香と独特の味がします。ブラックカルダモンは、苦味はありませんが、スモーキーな香りと、ミントに似た冷涼感をもっています。共に、食べ物と飲み物の両方で香料と調理用スパイス、そして薬として使用されます。石垣での栽培は始まったばかりですが、期待の多い作物です。同じ仲間の月桃などがカルダモンとしてWebサイトなどで多く紹介されていますが、花のつき方が月桃の場合は頭頂部、カルダモンは根際から咲くため区別できます。

パンダンリーフ(ニオイタコノキ)

中国南部から東南アジア原産のタコノキ科の植物です。一般的なタコノキのように葉に棘はありません。独特な甘い香りをもつハーブといわれていて、アジア・エスニック料理の香りづけによく利用されています。東南アジアではバニラやココナッツのような甘い香りがするパンダンリーフは最も利用されるハーブで、料理以外にもデザートや香料、緑色の着色料としても使われています。パンダンリーフの植栽に近づくと、お米を炊いた時のような香りに満たされます。栽培も容易で池の畔などで旺盛に繁殖します。まだ国内ではそれほど認知されていませんが将来性の高い植物です。

バタフライピー(蝶豆)

綺麗な青色をしたハーブティーで話題のバタフライピーは、熱帯地方に広く野生化している蔓性のマメ科の多年草です。東南アジアではお菓子などの染料として使用することが多く、花茶としても。またタイなどでは服の染色にも使われます。搾り汁にライムやレモン等酸性の物を加えると、紫色に変化する様子が楽しめます。内地では冬に枯れてしまいますが、石垣島では年間を通して花を見ることができるため、栽培が増え始めています。石垣での栽培は八重咲き種が多く、一般的な一重に比べ搾り汁の色も濃くアントシアニンの量が多いのも特徴です。

ガランガル(ナンキョウ・カー)

「タイジンジャー」とも呼ばれる東南アジア原産のショウガ科の植物です。主に乾燥した物や粉末化された根茎をスープやカレーの香料として使います。葉、茎、花、根茎はすべて穏やかな芳香があり、刺激的なピリッとした辛さが特徴です。タイやベトナム料理のトムヤムクンなど最も頻繁に使用されるスパイスの1つであり、東南アジア全域で非常に人気があります。石垣は栽培にとても適しており、強い繁殖力と栽培のしやすさでこれから人気が出るものと思われます。

フィンガーライム

最近話題になっているフィンガーライムはオーストラリア原産のミカン科の植物です。果実を割るとこぼれ出るキャビアのような粒は、噛むと発泡性のピリッとした風味が破裂するような食感があり、様々な色の粒はグルメブッシュフードとして人気が急上昇しています。石垣でも栽培が始まり、少数ですが店頭に並ぶようになってきました。ライムに似たジュースやマーマレード、ピクルスなど商品化の可能性もあります。また、皮は乾燥させて香辛料として使用できます。

トラジスカンチャー・ゼブリナ

ゼブリナはアメリカ〜メキシコ原産のツユクサ科の植物で、葉表は、緑紫色地に銀白色の縦縞が2本入り美しく、葉裏は濃い紫色で、昔から観葉植物として知られてきました。今年に入って島のリゾートホテルのシェフが食用として使い始め、サラダの色づけとして人気が出ています。どこでも作りやすく観賞にも堪えるので新しい利用法の発見です。

エディブルフラワー

ハナシュクシャ

島内のリゾート施設のレストランも、島ならではの食材を探求し始めました。食べられる花も内地とは趣の異なる物が多く、観光で島を訪れた方を感動させます。ハイビスカスの仲間のウナヅキヒメフヨウはオクラのような食感と甘さがあります。ハナシュクシャは香水の原料ともなるほど香りがよく優しい食感が特徴です。コロマンソウはほんのりとした苦みが特徴です。その他、インシュリンプランツやメキシカンスイートハーブ、ランタナ、ミズオオバコなどが食卓を飾ります。

インシュリンプランツ
ランタナ

石垣島は、現在コロナ禍の影響でインバウンドの観光客の姿は見られなくなりました。その分、静かですが本来の文化や景色をゆっくりと見られる観光地が戻って来ました。

石垣島サイエンスガーデン代表 ボタニカルアーティスト
橋爪雅彦 はしづめまさひこ
東京都立園芸高等学校卒業。学研の図鑑・東京大学出版会・誠文堂新光社(ガーデンライフ)・東京書籍生物教科書の図版及び科学論文などのイラスト担当。大阪花博東日本イベント総合プロデュース。国立博物館監修『原色日本のラン』執筆のため、東京より石垣島に移住。石垣市川平において「川平ファーム」としてパッションフルーツの加工を始める。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第48号 2019年6月