2021.1.9

ハーブ療法の母・聖ヒルデガルトの自然学(4)樹木の書

国際ヒルデガルド会 DanielaDumann 認定 ヒルデガルトヘルスケアアドバイザー ヒルデガルトフォーラム・ジャパン副代表

長谷川弘江

ヒルデガルト治療院の樹木の庭

私の恩師、ドイツの国家資格である自然療法士(ハイルプラクティカー)連盟副会長のペーター・ゲルマン先生は、森の治療家と呼ばれています。辻信一氏プロデュース「ヒルデガルト緑のよろこび」という映像作品にも登場され、何度も来日されています。先生はよく、「なぜ森は、今日もたくさんのハイカーを呼び寄せ、子どもたちは木の上に喜んで登るのか?人は森の中で落ち着き、慰められ、精神的にも復活します。ゲーテは、『インスピレーションは、旅をし、森の中で木々のエネルギーを感じることで生まれる』と。森は、ただ地球の緑の肺というだけではなく、同様に多くの他の恵みを我々に与えてくれる」と話してくれます。日本でも「森林セラピー」が注目され、森林浴という造語が1982年に提唱、EBM(Evidence based medicine)に基づいたデータの蓄積がされています(参考文献『自然セラピーの化学』宮崎良文編)。聖ヒルデガルトの自然学でも、第三の書は樹木です。ドイツには、国が認定した保養地クアオルトがあり、オーガニックの素材を使ったビオホテル・サナトリウムや医療体制の整ったホテルに滞在し、自然療法による治療と、生活習慣の改善を行う総合医療を受けられ、医療保険が適用されるのが特徴です。有名なのは、クナイプ神父が確 立したクナイプ療法(水療法)ですが、クナイプ療法保養地の認定を受けるためには、森林療法が行える森林散策コースが必要だとか。森林療法、森林セラピーがいかに重要かがうかがえます。

聖ヒルデガルトが最初にいたディジボーデンベルグ修道院の教会跡地の樹木

聖ヒルデガルトの森林セラピーの書である『樹木の書』には、冒頭、あらゆる樹木は、温性か、冷性をもつ。果実を多く実らせるものは、温性が強く、小さな果実を少なく実らすものは、冷性が強いと、性質について述べられます。主な樹木をご紹介しましょう。番号は『樹木の書』のナンバリングです。

聖ヒルデガルト聖櫃教会のヒルデガルト像

1.リンゴ(Affoldra)/強い湿性と温をもつ。目が霞む人は、春先の若葉を潰して作る液にブドウの蔓から滴る雫を同量加え、羽毛に染み込ませ、夜休む前にまぶたと目元を濡らしなさい。肝臓・脾臓の病気、胃にたまる体液のため偏頭痛で苦しむ時は、この木の新梢をオリーブオイルに入れ、天日で温めて飲む。果実は生で食べてよいが、病人には煮たり乾燥させたものがよい。

2.セイヨウナシ(Birnbaum)/冷性で強く、丈夫。胸部・肺の痛みには、ヤドリギとカンゾウをすり潰して、食間に摂る。果実を大量に摂ると偏頭痛になるので、水に浸けるか煮たり焼いたりするとよい。ベアヴルツ Barwurz35%(ない場合はフェンネルの根)、ガランガル30%、カンゾウ20%、セイボリー15%のスパイスミックスを蜂蜜250gに入れナシ5個を入れて煮たものをなめる。これは金より貴重な薬になる。

3.クルミ(Walnu..ssebaum)/温性で苦味がある。葉の液状部分を搾って軟膏を作る。体内に粘液の多い人は、枝を切った時に出る汁をワインに入れ、フェンネル・キダチハッカを混ぜて煮込み、布でこして温かいうちに飲みなさい。クルミは食べた人の心の楽しくさせるが、胸部が弱いと粘液過多になってしまう。

4.マルメロ(Quittenbaum)/大変に冷性で、果実はよいバランスをもつ。ギヒトの人、唾液が過多の人には、煮るか焼くとよい。身体の潰瘍や傷には、他の香辛料を混ぜた煮た果実を当てる。

5.桃(Pfirsichbaum)/温性で、嫉妬を内にもつ。シミや発疹には、樹皮と酢を混ぜ、同量の蜂蜜を加えて煮て、塗る。口臭には、熟してない実とカンゾウ、胡椒、蜂蜜を少々入れたワインを飲む。実は、核を取り出して、塩・胡椒を少々入れたワインに浸けるとよい。この木のヤニと小麦粉を練り、喉や頭部の痛むところに貼るとよい。

7.プラム(Pflaume)/温性で乾の性質もあり、怒りを表す。この木の全てを粉末にしたものは、虫を殺す。灰汁は、顔のあばたやシワを綺麗にする。果実を摂り過ぎるとメランコリーを呼ぶ。乾いた咳には、核を入れたワインを飲む。

1 0.アーモンド(Mandel)/大変温で少しの湿。木の実の核を生のままか炒ってたびたび食べなさい。強壮になる。

1 2 .クリ(Kastanie)トチノキ/温で強いパワーをもち、思慮分別を表す。サウナや杖にすると力を得られる。思考が鈍くなっている人は実をゆでたものを摂りなさい。肝臓が弱っている人は実のハチミツ漬けがよい。

14.イチジク(Feigenbaum)/温性で懸念を表す。葉と樹皮をすり潰して水で煮込み、熊の脂とバターで軟膏を作り、痛む場所に塗るとよい。この木の杖は体力を衰えさせる。ワインか酢に浸けた果実を、適度に食べることはよい。

32.シラカバ(Birke)/温性で、至福を表す。肌が発赤し膿庖が腫れ、腫瘍が盛り上がったり虫が出たりした場合、この木の若枝を温めて布で固定すると消えていく。

33.マツ(Kiefer)/温性で湿も帯び、悲嘆を表す。樹液は軟膏や目の洗浄によい。家畜が 病気で苦しんでいる時や死んでいる場合、若枝の香気を嗅がせなさい。食べぬように。他に軟膏のレシピもありますが樹木は63種です。また、ナシのスパイスミックスは薬局で購入できます。聖ヒルデガルトの知恵をお伝えできることに感謝申し上げます。

クナイプ療法のクアパークに設置される無料のミストサウナ
国際ヒルデガルド会 DanielaDumann 認定 ヒルデガルトヘルスケアアドバイザー ヒルデガルトフォーラム・ジャパン副代表
長谷川弘江 はせがわひろえ
英国ハーブ医学校通信課程修了。ハーブ医学とヒポクラテス、ディオスコリデス、プリニウス、パラケルスス研究の大槻真一郎氏、
ドイツハイルプラクティカー連盟(BDH)副会長・民族医療協会"Gyu zhi"主宰ペーター・ゲルマン氏に師事。伝承と身近な植物のルネサンスをテーマに活動中。『ヒルデガルトの宝石論―神秘の宝石療法(ヒーリング錬金術)』大槻真一郎著(コスモスライブラリー)で解説を執筆する他、著書多数。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第51号 2020年3月