2020.11.16.

ハーブ療法の母・聖ヒルデガルトの自然学(2)
ヒルデガルト治療学の基本

ヒルデガルトフォーラム・ジャパン副代表

長谷川 弘江

はじめに

薬草学、自然療法の母と呼ばれ、自然学、医学、看護学、哲学、音楽などの幅広い分野で才能を発揮した中世ドイツの修道院長、聖ヒルデガルト・フォン・ビンゲン。彼女が書き残した『自然学』『病因と治療』などの古文書は、古代ギリシアの考えを踏まえつつ、自然や人間への彼女オリジナルの見解を示しています。患者でありながら治療者であった彼女の実践的な自然療法やその考え方は900年の時を経た今でも、色あせることなく、世界中の人々に感動と共に支持されています。

ヒルデガルト治療学

第2回は、聖ヒルデガルトの治療学の基本を見ていきましょう。彼女は6つの養生訓を書き残しています。

  1. 生命エネルギーは自然の生命力から与えられる(Viriditas)
  2. 植物の治癒力を学び、取り入れる
  3. 質の良い睡眠をとる
  4. 労働とゆとりを調和のとれたバランスで行う
  5. 瀉血、断食などで老廃物をきれいにする
  6. 精神的な治療(美徳)をベースとする美しい人生観による抵抗力強化

聖ヒルデガルトにとって「生命力」とは「緑の力」であり、共にラテン語では「ウィリディタス」viriditasと書きました。この概念は、人間も含めた自然界がもつ新鮮さや若々しさ、活力を言い表すばかりでなく、人の魂の生命力や徳と結びついています。魂の「緑の力」とは徳の力であるとまで言い切っています。マクロコスモスとしての世界とミクロコスモスたる人間は、共に神の作品として、その構成要素は「緑の力」によって支えられていると。例をあげれば、緑の力で大地を支える大小の川は、血液で全身を支える脈管と似ているという 幻視を見ています。ベストセラーになった『神様のホテル「奇跡の病院」で過ごした20年間』(ビクトリア・ スウィート/著)は、患者とじっくり向き合う「スロー・メディスン」を実践している病院の医師である著者が、聖ヒルデガルトの治療を実践する様を書いたものです。食事・安静・陽気を大切にし、4つの気質を考えます。それは、こういうものでした。

古代ギリシアのエンペドレクス(Empedokles)(紀元前490年- 430年)によると、この世界と宇宙 (万物)は4つの要素で構成されていると考えました。

ヒポクラテスの四体液気質説

イタリアフィレンツェ大学 聖ヒルデガルト ガーデン(2019春撮影)

聖ヒルデガルトの療法

ヒルデガルトは『元素は人間のうちにあり、人間はこれらの元素と共に働きます。元素とは火・ 空気・水・土のことです。これら4つの元素は互いに絡み合い、結合しています。温と冷 のバランス黒胆汁は病気の引き金になる。』と考えたのです。『太陽や月・星は目であり、天 空のハーモニーと十二宮と惑星と宇宙と人の体の関連を語ります。人が愛を忘れ、不摂生になると、太陽と月が干ばつや嵐を引き起こすように、人の臓器も過分に摂取すると悪い体液を増やす』とあります。『火・空気・水・土は人の中にあり、各力は働いている。人は火から熱を。空気から呼吸を。水から血を。土から肉体を得て、火から視力を。空気から聴力を。人間の動力は水から。土から、歩く力を与えられている。この元素のバランスがとれて機能していれば、人は健康でいることができる。人は本来健康であるのに、アダムの堕落により、黒胆汁という黒くて苦い体液が病気を作る』と書いています。『偏頭痛や心臓の痛みのみならず、血液や尿にもあらわれると。そして体液の不調和が虚弱や病気を生み、ますます黒胆汁を増やし、当時は悪魔憑つきと考えられていた精神疾患、自殺や異端すらも生むと。悲しみや怒りは黒色胆汁を増やす。良質の食べ物やおいしい食べ物で黒胆汁は減るが、悪い食べ物や苦い食べ物、不潔で調理されていない食べ物で増える』とあります。

彼女の考えた治療法は以下のとおりです。

①健康法 病気に対する予防法・養生法(四 体液説)からみた健康法と心のバランスのとり方
②治療学 病気になってしまった時の治療術

1.ハーブ療法

  • お茶 / 3~15分かけて、じっくりと煮出します。 ワイン浸出剤/「ハーブ1、軽く辛口の白ワイ ン20」の割合で漬け込みます。必ず漉して保存します。
  • 絞り汁 / 葉・根をジューサーなどで絞ります。 小さじ1杯でも十分です。
    粉剤/乾燥したハーブを粉砕して、水・ミルクで溶いて飲みます。
  • 湿布 / ハーブ粉を水で溶いて、30分ほど置いたもので湿布します。乾いたら取り除きます。
    入浴 / 35~40度のお湯に200g 程度のハーブを入れ、半身浴します。
    料理にも使用 / それはすばらしい風味と健康 をあなたに届けてくれるでしょう。

2. 物理的治療

瀉血・石やハーブを使ったマッサージ・乱切、 吸い玉、そして焼灼(お灸?)

3. その他の治療

アナグマなど動物のベルトを使った療法や断食。宝石療法。水療法など。これらは、デトックスと食養生、心のケアといってよいでしょう。

ヒルデガルトフォーラム・ジャパン副代表
長谷川 弘江 はせがわ・ひろえ
国際ヒルデガルド会DanielaDumann 認定 ヒルデガルト・ヘルスケア・アドバイザー。英国ハーブ医学校通信課程修了。ハーブ医学とヒポク ラテス、ディオスコリデス、プリニウス、パラケルスス研究の大槻真一郎氏、ド イツハイルプラクティカー連盟(BDH)副会長・民族医療協会"Gyu zhi"主宰ペーターゲルマン氏に師事。伝承と身近な植物のルネサンスをテーマに活動中。『ヒルデガルトの宝石論―神秘の宝石療法(ヒーリング錬金術)』 大槻真一郎/著(, コスモスライブラリー)で解説を執筆する他、著書多数。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第49号 2019年9月