2015.12.1

ジャーマンカモミールとセージ

ハーブ&アロマコンサルタント

長島司

ジャーマンカモミール Matricaria recutita キク科

ヨーロッパ原産の植物で、可憐な花が発するふくよかな香りは心身をリラックスさせ、また炎症を鎮めるなどの効果があり、飲用や外用に利用されています。

精油成分と香り

精油の主要成分はおよそ40%を占めるα-ビサボロールオキサイドA(1)で、ほかにα-ビサボロール(2)やα-ビサボロールオキサイドBなどのセスキテルペン化合物が主体となって構成されており、水蒸気蒸留中にセスキテルペンラクトンから分解生成したカマズレン(3)による濃いブルーが特徴の精油です。ローマンカモミールはアップル様の香りであるのに対し、ジャーマンカモミールはサンダルウッドの甘さを連想させる重量感のあるフローラルウッディの香りです。

ジャーマンカモミール精油の機能性

セスキテルペンやノルセスキテルペン成分による抗炎症効果は、ジャーマンカモミール精油の最も顕著な作用であり、その他にもアレルギー反応を軽減させる効果や活性酸素を消去して体の錆びつきを防ぐなどの生理的効果、また香りには鎮静、抗うつ、抗不安、抗侵害性などの心理的効果などがあり、心身両面に作用して恒常性を保つ働きをしています。

表1 ジャーマンカモミール精油の

精油成分の機能性

α-ビサボロールオキサイドA&B:
ジャーマンカモミールの主成分であり、Aはピラン環、Bはフラン環をもつ特有成分で、抗痛覚過敏や抗浮腫作用があり、炎症が起きたときの発痛や腫れを鎮める働きをしています。

α-ビサボロール:
精油中に15%程度含まれており、この精油がもつ生理活性効果の主体的な役割をしている成分で、胃粘膜の炎症緩和、気管支平滑筋の緊張緩和、SOD活性を高めることによる抗酸化効果、痛覚過敏の緩和、紫外線によって引き起こされた皮膚障害の改善など各種の炎症反応に働きかけ、それらを緩和する作用があります。

カマズレン:
鮮やかなブルーを呈する高度に不飽和化された化合物で、水蒸気蒸留中にマトリシンから分解して生成します。ラジカル消去能による活性酸素消去、Leukotriene B4の生成阻害による抗炎症作用などの生理活性があります。

ジャーマンカモミールの利用

ハーブティーで飲まれることが多く、アピゲニンなどのフラボノイド類とポリサッカライドが結合した各種ポリフェノールを多く含んでおり、ジャーマンカモミールティーのさまざまな作用は疫学的にも立証されています。一方で精油成分の多くはセスキテルペン化合物であることから水への溶解度が極めて低く、ハーブティー中の精油成分の含有量は、ほかのハーブ精油と比較して少なくなるため、精油と精油以外のテルペン成分を利用するには、これら成分の抽出効率が高いアルコールでチンキにするのが有効です。

図 1 ジャーマンカモミール精油成分の化学構造


セージ Salvia officinalis シソ科

肉や魚、乳製品など各種食材の臭い消しや、爽やかな香りを加えるハーブとして、また健康を保つためのお茶としても飲まれている植物で、ソーセージの語源にもなっています。

精油成分と香り

α-ツヨン(4)およびカンファー(5)の樟脳を連想させるシャープで爽快な香りに、1,8-シネオール(6)のユーカリニュアンスが加わった、ハーブ特有のフレッシュ感のある葉の香りで、心地よい清涼感を感じます。

精油成分の機能性

α-ツヨンは幻覚、昏睡、痙攣などの向精神作用をもたらす成分として知られていますが、セージの安全性についてはドイツの研究機関2)で安全性試験が行われ、ハーブティー中では4.4ppm、薬用として長時間煮出したものは11.3ppmであり、一般にお茶として飲む場合には安全性の問題はないとしています。

一方で、ツヨン類には悪性黒色腫の増殖抑制や転移などを妨げる作用、コレステロールや脂肪を減少させる効果、1,8-シネオールとの相乗作用で損傷したDNAを修復する作用、ヒトガン細胞株の成長を阻止する効果などのプラスの効果も併せもっています。

図 2 セージ精油成分の化学構造

セージの利用

セージにはα-ツヨンが多く含まれていることから、多量に摂取すると向精神作用がありますが、1gの乾燥茶葉でカップ1杯のお茶を抽出した場合、ハーブティー中のα-ツヨン濃度はおよそ5ppmであり、WHOのガイドライン以下であることから過剰な懸念をもつ必要はないが、リスクはあると認識しておく必要はあります。

セージにはシソ科植物によく含まれるロズマリン酸、ルテオリン配糖体、アピゲニン配糖体、特有成分でフェニルプロパノイド誘導体であるサルビアノリン酸などのポリフェノール類、およびカルノソールやカルノシン酸などのジテルペン成分が含まれており、抗酸化効果などの各種生理活性をもった成分を多く含んでいます。ハーブティーでは精油成分とこれらポリフェノール類を体に取り入れることはできますが、ジテルペン類は水への溶解性が低いためチンキにするのが有効です。ただし、この場合、α-ツヨンの濃度が高まりますので、経口摂取の場合は使用濃度を調整し、安全に摂取する必要があります。

(参考文献)

  1. 長島司,ビジュアルガイド精油の化学,2012年,フレグランスジャーナル社
  2. Walch SG et al, Determination of the biologically active flavour substances thujone and camphori n foods and medicines containing sage(Salvia officinalis L.).,Chem Cent J.201121(5),44
ハーブ&アロマコンサルタント
長島司 ながしま・つかさ
農学修士。明治大学大学院農学研究科農産製造学専攻。高砂香料工業(株)にて分析化学、精油化学、精油製造、天然物化学、合成香料の研究開発を行う。退職後、ハーブ&アロマの講演や執筆活動を行う。『ハーブティーその癒しのサイエンス』『ビジュアルガイド精油の化学』(いずれもフレグランスジャーナル社)ほか、執筆多数。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第34号:2015年12月