2017.6.1.

ハーブといえばまずはシソ科?(1)──ミントの仲間

東京大学名誉教授 東京大学総合研究博物館特招研究員

大場秀章

ハーブでまず頭に浮かぶのは芳しい香りをもつ草や花だ。香りは青々とした葉や花だけにあるのではなく、その成分は種子や地中に生じる鱗茎などにもある。先に紹介したセリ科には種子に芳香をもつ代表的な植物が数多い。シソ科にもミントをはじめ、ラヴェンダー、バジル、オレガノ、セージ、ローズマリー、タイムなど、魅力的な芳香をもつ種が多い。シソ科はセリ科に並んでメディカルハーブを代表する重要な一群といってよい。

分子レベルでの遺伝子研究が可能になり、その成果を取り入れることで植物の分類体系はここ20年ほどで大変貌を遂げてしまった。かつてシソ科といえば多くは草本で花はといえば唇のように先が上下に二裂した花冠をもち一見してシソ科の仲間であることがわかったものだった。ところが、新たにシソ科の仲間に加わった植物には放射相称の花をもつものが多く、シソ科=唇状の花という図式は成り立たなくなってしまったのだ。ムラサキシキブ、カリガネソウ、クサギなど、これまでクマツヅラ科に分類された、主として木本性の植物がシソ科に新しく加わったことによる。だがこのシソ科への新参入者には幸か不幸か、従来メディカルハーブとして用いてきた植物はほとんど含まれていない。

シソ科は草本のものが主体だが木本性の種も少なくない。およそ6,500種あり、238属に分類される。シソ科は学名でLabiataeまたはLamiaceaeという。Labiataeは唇状花の意味で、かつて日本でもこの科の和名を語義を汲んだ「クチビルバナ科」といったことがあった。一方Lamiaceaeは、シソ科の基準にされたオドリコソウ属Lamiumによっている。植物命名に関る国際規約で科の名は-aceaeの語尾を付すことが定められているが、古くから用いられてきたシソ科のLabiataeなど9の科名のみ-aeの語尾をもつ科名の使用を認めている。

シソ科植物の多くの種が茎や枝が角張り、断面が4角形をしている。葉は対生し、托葉がなく、単葉をもつ種が多い。花は、多くが横向きに開き、雄しべと雌しべの双方をそなえる両性で、5個ある花弁が合着して筒状となり、先端のみが2裂し唇状になっている。雄しべは4本のものが多く、雌しべは1本である。雄しべも雌しべも多くは花冠の内部にあり、花を訪れた昆虫によって受粉される。受精後に果実となる子房は、花の内側の基部にあるが、多くは見た目には4裂した子房の真ん中から花柱が突き出ているように見える。

以下、ハーブとして利用されるシソ科の植物を紹介していくが、今回は名称、特に学名が類書により錯綜しているミントの仲間を取り上げてみよう。

ミントの仲間

ミントの語は、日本にも自生するハッカ(薄荷)Mentha canadensis L.が分類されるハッカ属、特にハーブとして用いる複数の種を総称していう。ハッカ属は世界に18あるいは19種あり、そのうちヨーロッパには10種が産する。ハッカはメグサともいい、ヨーロッパではギリシア神話のニンフの名前ミンテ(Minthe)から派生したミント(mint、英)、メンテ(menthe、仏)、ミンツェ(Minze、独)などの名で知られる。ヨーロッパでは古来からハーブとして広く用いられてきたが、いずれの種も類似しており、変異性も大きく、容易に交雑する。分類はそれぞれの時代の分類学での種の理解と関連していることもあり、古い文献を利用する際には注意が必要である。以下の記述は今日の分類法を反映したものである。

1.ペパーミント:ペパーミント(peppermint)は学名をMentha × piperita L.といい、ウォータミント(ヌマハッカ)とスペアミント(ミドリハッカ)の交雑個体にさらに複数の他種が交雑して生じた雑種起原の植物で、17世紀以前から栽培される。セイヨウ(西洋)ハッカまたはコショウハッカの名もある。全体が紅紫色を帯びる個体が見られる。高さは90cmくらいになる。葉などに含まれる主成分はハッカ同様にメントールである。メントールはハッカ特有の芳香と味の主成分で、香料や薬用など、多様な用途に利用される。精製されたペパーミントの薄荷油は、主成分以外の含有成分がハッカと異なり香味豊かで、チョコレート、紅茶、アイスクリーム、クレーム・ドゥ・メンテのような菓子などの香りつけに広く用いられる。栽培品種「キトラータ」‘Citrata’は葉や茎にレモン香があり、オーデコロン・ミント(Eau de Cologne mint)、ベルガモット・ミント、レモンあるいはオレンジ・ミントといい、「オフィキナリス」‘Officinalis’はハッカ水やハッカシロップなどの薬用、「ピペリータ」‘Piperita’は主にミントティーに利用する。

2.スペアミント:スペアミント(spearmint、英)は、学名をMentha spicata L.という。ナガバハッカ(英名はhorse mint、学名はMentha longifolia(L.)Hudson)とマルバハッカ(英名はapplemint、学名はMentha suaveolens Ehrb.)の雑種に起原をもち、クレタ文明期の頃から薬用などに利用されていた。日本にも帰化しており、ミドリハッカあるいはオランダハッカの名がある。また、中国では留蘭香の名がある。通常、高さ30~100cmになり、全体に強い甘い香りがある。全草の乾燥品におよそ1%の精油成分を含むが、その主成分はカルボンで、まったくメントールを含まない。チューインガムなど、主に菓子やその他の食品の芳香料に利用される。栽培品種「アロペクロイデス」‘Alopecuroides’は風評では最上品とされている。葉が縮れたチリメンハッカ‘Crispa’もある。ペパーミントのように飲用に利用される。

3.アップルミント:アップルミント(applemint)は先に上げたマルバハッカ(Mentha suaveolens Ehrb.)のことで、ヨーロッパ南部・西部に分布するが、日本にも帰化している。高さは1mにもなり、全体に甘い香りがある。葉は大きく、両面に毛が生え、長さ4cmほどになる。ヨーロッパでは従来のペパーミント同様に、生葉を飲用に利用する。スペアミントと並ぶ重要なハーブで、パイナップルミントと呼ばれる系統は栽培品種「ウァリエガタ」‘Variegata’で、ミントソースやジェリーに用いられる。

4.その他の種:日本にも産するハッカ(Mentha canadensis L.)は、湿り気の多い地を好み、高さ50cmくらいになる。日本産は外国の同種個体に較べ香りは劣るが、メントールの含有量が多く、薬用・工業用として重要であり、鎮痛、健胃、駆風薬などに利用される。タバコに使うのもこの種である。

ウォーターミント(watermint、英)は、学名をMentha aquatica L.といい、北アフリカからヨーロッパを経てアジアにかけて広く分布する。日本にも帰化しており、ヌマハッカの名がある。ローマ時代から芳香用に利用されてきた。ブラジリアンミント(Hyptis crenata Pohl ex Benth.)など、ハッカ属以外の香草にもミントと呼ばれる種があるので注意が必要である。

東京大学名誉教授 東京大学総合研究博物館特招研究員
大場秀章 おおば・ひであき
当協会顧問。1943年東京生まれ。東京大学総合研究博物館教授。
現在は東京大学名誉教授、同大学総合研究博物館特招研究員。専門は植物分類学、植物文化史。主な著書に『バラの誕生─技術文化の高貴なる結合─』(中央公論社、1997年)、『サラダ野菜の自然史』(新潮社、2004年)、『大場秀章著作選集I,II』(八坂書房、2006・07年)など。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第40号 2017年6月

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