2023.6.16

科学的に証明される森林浴の癒やし効果

いりたに内科クリニック院長

入谷栄一

森が心身にもたらす癒やし効果は昔から経験的に知られていましたが、現在では森林浴の効果が科学的に明らかにされつつあります。

例えば、森の中では都市部にいる時よりもストレスホルモン(コルチゾール)が減少し、血圧や脈拍数が低下すると同時に、ストレスの高い時に強まる交感神経の活動が低下し、リラックス時に働く副交感神経の働きが高まることが分かっています。また、都会に住む人が森林散策を行ったところ、免疫機能に重要な役割をもつナチュラル・キラー(NK)細胞の数が上昇し、NK細胞が放出する3種類の抗がんタンパク質が増加したという実験結果も報告されています。

こうした森林浴による効果は、フィトンチッドだけによるものではなく、木の葉の揺らぎ、木漏れ日、風の音、鳥の鳴き声、水や土や空気のにおい、森を歩く時の足の裏の感触など、五感を刺激する様々な要素が合わさってもたらされるものと考えられています。

森林浴から森林療法へ 森の可能性に高まる期待

森林浴を一歩進めた「森林療法」も、現在期待が高まっている分野です。

森林療法とは、病気治療や健康増進、生活習慣病の予防、心身のリハビリテーションなどを目的に、科学的根拠にもとづいて森林環境を利用する方法をいいます。その意味で森林浴も森林療法の1つですが、森を歩くことだけでなく、森林の手入れや樹木を活用した作業療法、森林でのカウンセリングやグループワーク、心身に障害を抱えた人のケア、高齢者や認知症の人の介護なども含まれます。

さらには園児と保育士が自然環境の中で過ごす「森の幼稚園」など、保育・教育活動も森林療法の1つのカテゴリーとして位置づけられ、全国各地で様々な取り組みが行われています。

イラスト = わたなべろみ

いりたに内科クリニック院長
入谷栄一 いりたにえいいち
総合内科専門医、呼吸器専門医、アレルギー専門医。東京女子医科大学呼吸器内科非常勤講師。在宅診療や地域医療に力を入れる他、補完代替医療やハーブ、アロマに造詣が深く、全国各地で積極的に講演活動も行う。著書に『病気が消える習慣』、『キレイをつくるハーブ習慣』(経済界)など。当協会顧問。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第64号 2023年6月