2022.4.26

日本のハーブの魅力: 風土がはぐくんだ自然からの贈りもの

地形の変化に富み、四季に恵まれた日本には、数多くのハーブが存在します。先人たちは身近なハーブとどのように向き合ってきたのか、紐解いていきましょう。

日本人と薬用植物

有史以前から、人類は身近な動植物や鉱物を病気やけがの治療に用い、その積み重ねの中で医薬が発展してきました。日本の伝統医学は、4世紀頃に伝えられたといわれる中国大陸と朝鮮半島の薬とその知識の影響を受けて始まり、その後、日本の風土や文化になじむように独自の発展を遂げたものです。そこで用いられてきた薬は、薬草が中心でした。

現代の日本で主流となっているのは、明治以降に取り入れられた西洋医学です。そのため薬といえば化学合成薬を指すのが一般的ですが、時代や医療の仕組みが変わっても、日本人の薬用植物に対する信頼感は、変わらず受け継がれています。

自然を客観的にとらえる西洋的な価値観に対し、人間を自然の一部ととらえる東洋的な価値観では、薬用植物に対する信頼が高いのは当然といえます。

また、薬用植物には、医薬品による治療では得られない人間的な「癒し」があります。植物のもつ機能成分の力と、人の想いや願い、記憶との相乗効果で生まれるものは、“治療”というよりも、“手当て”と呼ぶのがふさわしいものです。現代の人々が薬用植物に惹かれるのも、こうしたぬくもりのある医療を求めているからではないでしょうか。

日本人の健康を支えてきた薬用植物は、1886年に医薬品の基準となる「日本薬局方」が制定されたことで、法律的に医薬品と認められるものと、そうでないものとに区別されることになりましたが、今も民間薬として私たちの生活に息づいています。 

季節の行事とハーブ

四季のある日本では、それぞれの季節ごとに様々な行事が行われ、その中にもハーブが取り入れられてきました。風習は地域によって異なるものもありますが、いずれも健康長寿や繁栄への変わらぬ願いが込められています。これらのハーブには、現代の植物化学成分(フィトケミカル)の観点から見ても、理にかなった使い方をされているものが多くあります。

正月

玄関に飾られる門松は、家に神を迎えるための目印で、マツ(松)とタケ(竹)を用います。常緑樹であるマツは、力強い生命を表し、風に揺られてサラサラと音を立てるタケは、風と話すことができる神聖な植物とされてきました。元旦に延命長寿を祝って飲む屠蘇には、肉桂(にっけい)、山椒(さんしょう)、防風(ぼうふう)、桔梗(ききょう)、白朮(びゃくじゅつ)、乾姜(かんきょう)などの生薬が入っています。これらの多くが健胃、整腸、駆風などの作用をもち、代謝を促進して体調を整える効果が期待できます。

1月7日(人日の節句)

1年を5つの節目に区切る五節句の始まりで、七草粥を食べる風習があります。セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロといった植物は、健胃、整腸作用をもつビタミンやジアスターゼを豊富に含み、冬に不足しがちな野菜を補い、弱った胃腸をいたわるものとされています。

3月3日(上巳の節句・ひな祭り)

「桃の節句」とも呼ばれます。モモは中国では古来より、邪気を払う神聖な植物とされてきました。
1本の木にたくさんの実をつけるため、繁栄の象徴とも考えられています。

5月5日(端午の節句)

「菖蒲の節句」とも呼ばれます。奈良時代にはすでに無病息災を祈るための宮中行事として行われ、その頃はショウブを浸した酒を飲む風習がありました。葉を浸した菖蒲湯は豊かな香りで血行促進作用をもちます。端午の節句に欠かせないちまきは、現在はササの葉で包むのが主流ですが、かつては邪気を払うとされるマコモ(真菰)の葉で包んでいました。

7月7日(七夕の節句)

「笹の節句」とも呼ばれ、ササやタケに華やかな七夕飾りを捧げて祝います。ササもタケも地面からまっすぐに伸びる力強さと抗菌作用をもつことから、神聖な植物として珍重されてきました。

9月9日(重陽の節句)

「菊の節句」、「栗の節句」、「お九日」とも呼ばれます。平安時代に宮中で無病息災や子孫繁栄を願い、祝いの宴を開いたことが起源とされます。キクは解熱、鎮痛、抗菌などの作用があるといわれ、中国では邪気を払う力をもつとされています。

冬至

1年で一番昼が短い日で、カボチャを食べて柚子湯に入るのが伝統です。かぼちゃを食べるのは、野菜が不足しがちな冬にβ-カロテンなどを補い、かぜを予防しようとした先人の知恵と考えられています。香り高いユズを風呂に浮かべるのは、新しい年を迎えるための禊の意味をもつとされます。ユズには抗菌、消炎、血行促進作用があり、冷えや肌荒れ、かぜの予防に有効です。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第59号 2022年3月