ハーブ療法の母・聖ヒルデガルトの自然学(10)宝石療法
聖ヒルデガルトが書き残した『自然学』。第二次世界大戦後のヒルデガルト・ルネッサンス(復興)活動の中で、薬石療法『宝石療法』として自然物の中の一つ、宝石についてかなりのページ数を割いています。
ドイツでは、セバスチャン・クナイプ神父(1821~1897)の自然療法を体験できるクア・パークが各地にあり、5つの柱として①水療法、②運動療法、③植物療法、④食養生、⑤秩序(瞑想)療法を掲げました。そこで、水中徒歩運動をする人工池の底に貴石を埋め込んだものもありました。
日本では、パワーストーンという名前でブレスレットやペンダント、マッサージ用具などに。起源をさかのぼると『旧約聖書』の出エジプト記、古代ギリシアの『アリストテレスの鉱物書』、オリュンポス神話を背景にオルフェウスの石についてともよばれた宝石賛美書『リティカ』、古代ローマのプリニウス『博物誌』、聖ヒルデガルトと同時代の司教マルボドウス『石について』に見ることができます。
「石の中に宿る力は、植物の中に宿る力よりはるかに大きい」と。当時、詩人Thaonタオンが「医術で石を用いる方法は石に触る、身につける、飲み物として、見つめると4つある」と書いています。聖ヒルデガルトも、金よりも高価で貴重なスパイスより、何度も使えるからか、伝記映画でも袋に入れて修道院に来た病人に渡すシーンがあります。
聖ヒルデガルト療法の研究者であるゴットフリート・ヘルツカ博士 Gottfried Hertzka (1913~1997)、ヴィガード・シュトレーロフ氏 Wighard Strehlow(1939~)は、自らの治療院で彼女のいたディジボーデンベルク修道院の地下に埋まるジャスパーや他の貴石を使っていました。第四の書『石と宝石』の序章に「貴石は火と水から生まれる。悪魔が失墜する時、神の力が石に移されたため、悪魔は石を避け、貴石を前にすると恐れおののく。石は敬愛と祝福のうちに薬用として用いられることを望まれた」と。
シュトレーロフ氏は、「地上に存在する物事は、常に動いているし、エネルギー(波動)を発している。人間も動物も、そして石も。聖ヒルデガルトは、石の色の振動と、石本来の振動に癒しの力があると見たのではないか」と。
「続く、パラケルススは同じ症状を起こす似たものが似た症状の病気を癒すホメオパシー(同種療法)そしてゲーテには色彩療法があり、彼女は原点である」と。当時、貴石の成分や硬度などはわかりません。彼女の利用も、「何日かワインに石を浸けておき、そのワインを飲みなさい」「オリーブオイルに石を漬け、それでマッサージする」「その石をにぎったり、身につけなさい」でした。精神的な悩みや疾患は、悪魔に取り憑かれているためだと考えられたことからも、彼女の見た貴石のバイブレーションは心と身体のバランスを取り戻すものだったのではないでしょうか。使い方を要約したものをご紹介します。
●エメラルド/ドイツ語名:Smaragd
組成:ベリリウム /
ギリシャ語の smaragdos(=緑)から/
この石は、緑色のため、強い癒しの力をもっている。最もよく波動を発するのは朝方と日の出頃。この石は人間のあらゆる衰弱と無気力に対して効力をもつ。てんかん、腫瘍、心臓疾患、頭痛、胃痛などに。
●オニキス(縞瑪瑙)/ドイツ語名:Onyxs
組成:二酸化ケイ素(石英)/
空気によって起こる病気に。眼病、心臓、胃によい。脾臓、熱、うつ状態に。動物にもよいと。
●ベリル(緑柱石)/アクアマリン(?) Beryll
組成:ベリリウム ギリシャ語のberyllosからドイツ語の眼鏡の意味のBrilleが派生/
毒物を口にした人はベリルを泉の水に入れ、5日間1日1回飲みなさい。石をいつも身につけて、手にとって見つめる人は他人と争わず、喧嘩することもなく、いつも冷静でいられるでしょう。
●トパーズ Topaz/
組成:ケイ酸塩/
食中毒を消す。また、眼病、熱、すい臓疾患に。毎朝、トパーズを心臓の上に当てて祝福しなさい。そうすれば悪はその人をさけるでしょう。
●ジャスパー(碧玉)Jaspis/
組成:二酸化ケイ素(石英)/
難聴、鼻かぜ、通風、難産に。現代医療でも、ブラッドジャスパー(ブラッドストーン、ヒルデガルトジャスパーと呼ぶ人も)から得られる酸化物を、止血に。
●アメジスト Amethyst/
組成:二酸化ケイ素(石英)/
「酔わない」という意味のギリシャ語 ametheynより/
虫刺され、しらみに。身体に腫瘍ができた時や顔のシミに、舐めて湿らせた石でさすりなさい。石を湯水に入れてそれで洗顔。
●ロッククリスタル(水晶)Bergkristall/
組成:二酸化ケイ素(石英)/
眼病、甲状腺腫、心臓病、胃痛、夜尿症に。この石の水の本性によって、悪い体液を目から取り除き治すと。
その他の石も含め26章から成ります。彼女の聖遺物を納めた聖櫃にも貴石がたくさん飾られています。ご興味もっていただければ嬉しく存じます。感謝と共にご加護祈ります。
[参考文献]
.『中世宝石賛歌と錬金術 神秘的医薬の展開』大槻真一郎著・澤元 亙監修(コスモス・ライブラリー2017年)、『ヒルデガルトの宝石論 神秘の宝石療法』同、『ヒルデガルトの宝石療法』シュトレーロフ著・畑澤裕子訳・豊泉真知子監修
.(フレグランスジャーナル社2013年)
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第57号 2021年9月