2021.1.21.

亜熱帯からの花便り(1):本島で1月から始まる桜祭り「カンヒザクラ」

石垣島サイエンスガーデン代表 ボタニカルアーティスト

橋爪雅彦

カンヒザクラ

はじめに

東京から南へ2000km、石垣島は北緯24度の亜熱帯圏に位置します。年間の平均気温は25°C前後、近年は冬でも15°Cを切ることは少なくなりました。ハワイやフロリダ等と同じ緯度にあり、そのため熱帯の植物の多くが露地で栽培可能で、年間を通して緑に溢れ花が咲き乱れます。そんな島から本土では珍しいような花々の便りをお届けします。

私がこの島へ移住してきた理由は、国内の野生ランを描く仕事を依頼され、北は礼文・利尻から国中の山間部、小笠原等の島嶼とうしょ部で野生ランを描き続け、最後に残ったのがこの八重山でした。行く先々で様々な植物に出会ったわけですが、八重山地区の情報が極端に少なく、東京から花期に合わせて出張することに限界を覚えたため、思い切って家族共々1990年に移住してきました。ただ絵を描くだけでは、と生活のことを考え新規就農し、「パッションフルーツ」を専門として、生産から加工までの取り組みを続け、現在に至ります。2006年に5000坪の隣接地を手に入れ、自然科学が楽しめる「石垣島サイエンスガーデン」として整備をはじめました。京都薬科大学薬用植物園園長の故後藤先生や美ら島財団の花城理事長などの協力を得、国内では珍しい植物などもあり、年間を通して咲き乱れる「熱帯スイレン」の池など次第に人気が出ています。

橋爪雅彦・作

八重山は年間を通して花が見られるため、季節感には乏しいのですが、内地では観葉植物や熱帯植物・洋蘭等温室がないと栽培できないものでも、この島ではほとんどが庭先や露地栽培が可能です。街路樹や民家の庭先、山間部・海岸線など内地では見ることができないような環境に驚かれることでしょう。季節感が乏しいといっても四季を感じる花はあります。特に春先ですが、まず沖縄本島北部から咲き始める「カンヒザクラ」。この花の桜前線は内地とは逆に北から始まり次第に南下します。本島北部では1月には桜祭りが始まります。八重山ではそれほど多くは見られませんが、2月頃に自生地の山中などで楽しめます。

3月には海開きが開催され「センダン」の薄紫の花が野山を埋めます。4月に入ると島の多くの岬などでは「テッポウユリ」が咲き乱れ、一帯を甘い香りで埋め尽くします。この季節は「うりずん」と呼ばれ、若葉がいっせいに広がり、草花はその彩りを増して、大地を潤していく季節といわれ、多くの花々が見られます。この季節には香りのよいものが多く、甘い濃厚な香りを放つヤシの仲間「クロツグ:マーニー」をはじめ、「ドラセナコンシンネ」、「ヤコウボク」、「熱帯スイレン」などが楽しめます。島中至る処で見られ化粧品やハーブティーとしても利用される「月桃」、海岸線に多く見られるハイビスカスの仲間「ゆうな:オオハマボウ」、「ヒスイカズラ」、「ヤハズカズラ」などの蔓植物もこの季節の楽しみです。山中には100種ほどの野生ランが生息し、国内で最も大きな花が咲く野生ラン「カクチョウラン」などを見ることができます。

クロツグ
熱帯スイレン
月桃
ゆうな(オオハマボウ)
ヒスイカズラ
カクチョウラン

沖縄の三大名花は「デイゴ」、「サンダンカ」、「オオゴチョウ」です。サンダンカは年間を通してよく花が咲き、刈り込みに強いため道路沿いの植栽としてとても多く見られます。オオゴチョウは民家の庭先に多く見られます。デイゴは内地の桜と同様、新年度の始まる3〜4月頃に校庭や海岸などを真っ赤に染めていましたが、数年前からヒメコバチという害虫の発生で多くの巨木が枯死してしまい、残念ながら八重山ではほとんど見られなくなりました。この三大名花が全 て外来種というのも昔から東南アジア物流が盛んだった沖縄ならではの理由かもしれません。

サンダンカ
オオゴチョウ

年間を通し、多く見られるのは「ハイビスカス」と「ブーゲンビリア」です。ハイビスカス(仏桑花ぶっそうげ)は赤花あかばなと呼ばれ、その葉と花は昔からシャンプーの替わりに洗髪剤として利用されていました。今でも長い艶のある黒髪のお婆などはこれを利用しているようです。一般に市販されているハイビスカスティーはほとんどがローゼルの熟したがくほうですが、赤花の栄養価も研究され、花弁のお茶も出回りはじめました。ハイビスカスも近年は多くの品種が見られるようになり様々な花形や色が楽しめます。

ハイビスカス(仏桑花ぶっそうげ):赤花

ブーゲンビリアは特に民家の庭先に多く、街の中でも2階以上に伸びた濃桃色の花が年間を通して咲いています。ただ、この濃桃色の部分は包葉で花は中央の白い部分です。

ブーゲンビリア

私たちがこの島へ移住した当時は路肩のそこここに多くの薬草が見られました。でも島人の意識はただの雑草でしかなく、道路整備の事業などで次第に消え去っていきます。しかし石垣島では2015年にハーブサミットが開催され、島民の意識も大きく変わりはじめました。薬草やハーブの栽培・教室なども盛んになり、島の特性を活かした数多くのハーブが栽培されるようになり関連商品も出回ってきました。近年話題になっている「ピパーチ:ヒハツモドキ」や「ツボクサ」、「ティーツリー」、「バタフライピー」、「ヘナ」、「クミスクチン」、「チャイナローズ」他、多くのハーブ・薬草類は「命草:ぬちぐさ」という名称で市の振興プランに組み込まれ栽培が増えています。

おわりに

近年の離島ブームで島を訪れる方々は、街中や車窓から内地とは異なった様々な花々を楽しめると思います。これからそんな花々を紹介していきたいと思います。

ヒハツモドキ
バタフライピー
チャボトケイソウ
ネッタイスイレン
石垣島サイエンスガーデン代表 ボタニカルアーティスト
橋爪雅彦 はしづめまさひこ
東京都立園芸高等学校卒業。学研の図鑑・東京大学出版会・誠文堂新光社(ガーデンライフ)・東京書籍生物教科書の図版及び科学論文などのイラスト担当。大阪花博東日本イベント総合プロデュース。国立博物館監修『原色日本のラン』執筆のため、東京より石垣島に移住。石垣市川平において「川平ファーム」としてパッションフルーツの加工を始める。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第48号 2019年6月