2021.1.20

マルベリーの植物学と栽培

当協会理事

木村正典

今回は、マルベリーの特徴や栽培方法などを、植物学の視点で解説します。

種類・名称

いろいろなマルベリー

マルベリーはクワ科(Moraceae)クワ属(モルス属、Morus)植物であり、クワ科にはクワ属以外にイチジク属、コウゾ属、パンノキ属などがあります。

クワ属は、The Plant List では17種2変種が認められ、91種が未確認状態です。 マルベリーは、広義にはクワ属植物の総称で、狭義にはブラックマルベリー(Morus mesozygia Stapf)もしくはホワイトマルベリー(Morus alba L.)をさします。ここではマルベリーを広義に用い、それぞれの種は種の一般名とします。

ブラックマルベリーは西アジア原産でホワイトマルベリーよりも早くに欧州に導入されました。

ホワイトマルベリーは中国原産で、日本ではマグワ(真桑)やトウグワ(唐桑)などと呼ばれ、中薬での利用はもとより、中国や日本を中心に、世界の養蚕の主要な飼料となっています。

この他、日本にはヤマグワが、北米にはレッドマルベリーが自生しており、それぞれの地域固有のマルベリー(クワ)として利用されてきました。

マルベリーの属名の Morus (モルス)は、古代ギリシャ語で「ブラックマルベリー」を意味する μόρον(móron)を語源とします。英名のmulberryも、属名から独語を経て誕生しています。なお、カキとカキノキの関係と同じように、英名では果実を mulberry、植物を mulberry tree と区別することがあります。

和名については、平安時代の『本草和名』や『倭名類聚抄』には漢名の桑の和名を「久波」と記しています。食葉くはが語源といわれています。

北海道などでコクワ(小桑)と呼んでいるのはマタタビ科のサルナシ(猿梨)であり、クワとの共通点は見当たりません。クワクサ(桑草)は葉がクワに似たクワ科クワクサ属の一年草です。マクワウリ(真桑瓜)は岐阜県旧真桑村(現本巣市)が名産地であったことに由来し、真桑村は桑の山地であったことに由来します。アカネ科のヤエヤマアオキ(八重山青木;ノニ)は果実形態がマルベリーに似ていることから英名を Indian mulberry や beach mulberryといいます。

人とのかかわりの歴史 

中国・欧米におけるマルベリー

紀元前2400年頃の中国浙江省の銭山漾せんざんよう遺跡から世界最古の絹製品が発見されており、この時代には既に養蚕が行われていたと考えられます。この頃の養蚕にはヤマグワが用いられ、紀元前1000年頃になるとヤマグワとマグワの両方が用いられていたとされています。このように中国は養蚕発祥の地であり、絹製品はシルクロードを通して西方へと伝播し、紀元前1000年頃の古代エジプト遺跡からも絹が発見されています。6世紀には、中国から東ローマ帝国にカイコガが密輸され、ペルシアからマルベリーが伝わって養蚕が行われるようになったとされています。

中世になると、12世紀にイタリア各地で養蚕が盛んになり、16世紀にはフランスに、17世紀にはイギリスに広まり、宮廷などに養蚕用のマルベリー園がつくられました。この養蚕に用いられたのはブラックマルベリーとされています。やがて欧州での養蚕はカイコガの伝染病などにより衰退します。一方で欧州には、12世紀に並木や果実用としてホワイトマルベリーが導入されました。

北米にはレッドマルベリーやテキサスマルベリーなどが自生し、新大陸発見後に導入されたホワイトマルベリー、ブラックマルベリーなどと共に、主として果実が生食、加工利用されています。

タヒチでタパ、ハワイでカパなどと呼ばれる、樹皮を用いた伝統的な布は、クワ科植物を原料としており、主としてコウゾ属のカジノキを用いますが、地域によってはマルベリーも用いられます。

現在、マルベリーは世界各地で、養蚕以外に、薬用や、葉をマルベリーティーで、果実を生食や、ジュース、ジャムなどの加工、さらにワインのような醸造酒として利用されています。また、木材は光沢の美しいことから、食器や家具、木工製品などの工芸品や建材として、樹皮はロープや紙、布の原料としても利用されています。

中薬としてのマルベリー

中薬ではホワイトマルベリーやヤマグワ、 モウコグワ、ケグワが用いられます。

ホワイトマルベリーの果実は色づきにくい系統。熟してもなお白い。

ホワイトマルベリーでは、葉を「桑葉(ソウヨウ)」と呼んで、煎剤や丸剤、散剤として内服、または洗浄や塗布などで外用して、風温発熱や頭痛、目赤、口渇こうかつ咳嗽がいそう(せき)、卒中風、蕁麻疹じんましん、下肢の象皮腫を治すのに用いられます。また、葉の乳液を「桑葉汁(ソウヨウジュウ)」と呼んで塗布または点眼して、癰癤ようせつ(おでき)や癭瘤えいりゅう(こぶ)、外傷出血、ムカデによる咬傷を治したり、目のゴミを取るのに用いられます。根を「桑根(ソウコン)」と呼んで煎剤を驚癇きょうかん(小児ひきつけ)や筋骨痛、高血圧、目の充血、鵞口瘡がこうそう(小児口内感染症)を治すのに用いられます。コルク層を除去した根皮を「桑白皮(ソウハクヒ)」や「桑根白皮(ソウコンハクヒ)」、「桑根皮(ソウコンヒ)」などと呼んで煎剤や散剤を内服するか、つき汁を塗布したり煎剤を外用して、肺熱喘咳はいねつぜんがいや吐血、水腫、脚気、小便不利、リウマチによる麻痺を治します。若い枝を「桑枝(ソウシ)」と呼んで煎剤や膏を内服、煎剤を外用して、風寒湿痺ふうつうしっぴ四肢拘攣ししこうれん(ひきつり)、脚気浮腫かっけふしゅ肌体風痒きたいふうようを治すのに用いられます。樹皮中の乳液を「桑皮汁(ソウヒジュウ)」や「桑汁(ソウジュウ)」、「桑白汁(ソウハクジュウ)」などと呼んで外用で塗布、熱湯で薄めて内服して、小児口瘡や外傷出血を治すのに用いられます。果実を「桑椹(ソウジン)」や「桑実(ソウジツ)」、「桑果(ソウカ)」、「烏椹(ウジン)」などと呼んで生食したり、煎剤や膏剤、果実酒にして内服するか水に浸して外用して、肝腎陰虧かんじんいんき消渇しょうかち、便秘、目暗、耳鳴、瘰癧るいれき、関節不利を治すのに用いられます。果実を薬麹と醸した酒を「桑椹酒(ソウジンシュ)」と呼んで五臓を補い、目を明らかにし、水腫を治すのに用いられます。

一方、ヤマグワでは、葉を「小葉桑(ショウヨウソウ)」と呼んで煎剤を内服して感冒咳嗽かんぼうがいそうを治すのに用いられます。また、根や根皮を「小葉桑根(ショウヨウソウコン)」と呼んで煎剤を内服して、咳や鼻血、水腫、下痢、黄疸、リウマチ痛を治すのに用いられます。

日本におけるマルベリーと養蚕

縄文時代の遺跡である福井県鳥浜貝塚からはヤマグワ製品が発見されており、太古の昔からヤマグワが自生していたと考えられています。弥生時代には既に中国から養蚕が伝わったとされ、『日本書紀』には桑の栽培に関する記述が見られます。8世紀初頭には各農家に桑と漆の栽培が義務づけられていたことから、この頃には各地で養蚕が行われていたと考えられています。当初、養蚕には自生するヤマグワを利用していましたが、飛鳥時代には中国からホワイトマルベリー(真桑、唐桑)が伝来して次第に普及しました。江戸時代に入ると、各地に桑畑が見られるようになり、養蚕と同時に、葉や根を薬用に、乾燥果実を保存食に利用してきました。明治以降、殖産興業政策によって官営富岡製糸場がつくられるなど養蚕は全盛期を迎え、1900年頃には世界一の生糸輸出国となり1968年まで世界一の繭生産国でした。桑園面積は、ピーク時の1930年には全国で70万haを超え、群馬県では畑地の半分が桑畑でしたが、全国調査の終了した2008年度には2,000haにまで減少し、その半数が群馬県でした。しかも養蚕に利用されている面積は半分以下となり、養蚕以外の活用も進んでいます。

日本での養蚕用マルベリーは、自生するヤマグワと、ホワイトマルベリー(マグワ)、さらにホワイトマルベリーの一系統と考えられていて明治初期に中国から導入されたロソウの3種類を元にした栽培品種です。主力はマグワ系品種で、半数を占める‘一ノ瀬’の他、‘はやてさかり’や‘改良鼠返’などです。

マルベリーの形態・成分

果実は偽果

マルベリーは落葉樹ですが、熱帯、亜熱帯地域では落葉せずに冬越しするものを多く目にします。樹高10〜15mにも達する高木になるものが多いものの、人とのかかわりの中では低木で管理されがちです。

新梢(茎)の樹皮は緑色で、2年目以降、灰色~褐色まで、種固有の色となり、古くなるほど縦筋が入ります。

葉は互生し、葉身は単葉、卵形で先が尖り、葉縁にぎざぎざの鋸歯きょしがあり、種によって時に3〜5裂に欠刻けっこくが見られます。

雌雄異株を基本としますが雌雄同株のものもあり、同株ものでは雌花と雄花は別の枝につくのが一般的です。花は小花が集まって下垂する尾状花序で、各節に着生します。風媒花で地味で目立ちません。花粉はかなり遠くまで飛ぶため、雌株だけでも結実が見られます。雄花には4本の白い雄しべが、雌花には子房の先に2裂した白い柱頭が目立ちます。花冠は発達せず、萼と区別されずに花被と呼ばれ、雌花では子房を取り囲んでいます。

果実は雌花の尾状花序の小花が発達した多花果でじんやドドメなどとも呼ばれます。ドドメ色は桑の実の黒紫色から来ています。各小果では4枚の花被片が膨らんで多汁となり、果肉のように発達します。この中に、種子のように見える硬い痩果そうかが1つあり、これが真の果実、すなわち真果しんか(子房のみが発達した果実)です。このように、果実としての可食部は、真果ではなく偽果ぎか(子房以外を含んで発達した果実)です。花の段階で子房から伸びていた柱頭は、果実になるとホワイトマルベリーでは目立たなくなるのに対し、ヤマグワでは残ってツンツンとよく目立つので、種の識別に役立ちます。果実重は、養蚕用代表品種の‘一ノ瀬’で1〜2gなのに対し、コルヒチン処理による倍数性果実用品種では果実長5cmにも達し、‘ポップベリー’で7g、‘ララベリー’では4gを超えます。また、ナガミグワでは果実長が6〜12cmにもなります。マルベリーの果実は、未熟果では緑色ですが、熟すに従ってクロロフィルが分解されて白くなり、その後アントシアニンが着生し始めて赤くなり、完熟すると黒くなります。ブラックマルベリーでは未熟果の白い期間が短いため、赤い熟果と黒い完熟果が目立ちますが、ホワイトマルベリーの果実用品種には果実の白い期間が長く、赤くならずに熟して収穫されるものもあり、これが学名の種名の由来になったと考えられます。完熟果の色素のアントシアニンは、シアニジン-3-ルチノサイドとシアニジン-3-グルコサイドからなり、高い抗酸化能を示します。

全植物体の維管束に沿って乳管があり、乳液を分泌します。乳液には、1-デオキシノジリマイシン(DNJ)や1,4-ジデオキシ-1,4-イミノ-D-アラビニトール(D-ABI)などの糖類似アルカロイドが含まれ、カイコ以外の虫に対して毒性や成育阻害を示し、害虫から実を守るための手段となっていると同時に、人間にとってはα-グルコシダーゼ阻害活性などが明らかになっています。α-グルコシダーゼ阻害活性は果実にも認められており、桑の葉茶や果実の加工品などに糖尿病予防効果などが期待されています。

マルベリーの栽培

養蚕で発達した栽桑技術を活かす

葉を利用する栽培は果樹栽培とは異なり、日本では養蚕の発展に伴って独特の栽桑さいそう技術として発達しました。

繁殖には接ぎ木や挿し木、取り木、種子繁殖が可能です。接ぎ木には、耐寒性、耐病性の獲得や生育促進などの目的があり、マルベリー独特の方法として、袋接ぎという根接ぎがあります。袋接ぎでは、実生みしょう1年目の根を掘り取って台木とし、穂木には台木とほぼ同じ太さの新梢を約8cmの長さに切り、切り口を鋭く斜めに尖らせ、斜めに切った台木の維管束形成層(師部と木部との間)に差し込みます。これにより、台木と穂木の維管束形成層を確実に合わせることができ、接ぎ木テープなどで固定する必要もありません。

取り木では低い位置から出る徒長枝とちょうしを強引に誘引して地中に埋めて不定根を出させ、萌芽したら切り分けて殖やします。

挿し木は最も手軽に行われる優良品種の増殖方法で、古枝を春先に切って5°C前後の低温に貯蔵してから挿す方法と、春から伸びた新梢を挿す方法があり、いずれも10〜15cmの挿し穂を挿します。

種子繁殖では採種後1年を過ぎると発芽率が低下します。また、顕著な好光性こうこうせいを示すため、暗黒では発芽率が低下します。痩果(種子)をよく洗って播種し、覆土せず、かつ乾かさないようにします。播種から開花までは3〜5年かかります。

マルベリーには、萎縮病、紋羽病、胴枯病、軟腐病、赤渋病など多くの病害があります。果実生産では果実が白化して収穫できなくなる実菌核病があります。この病原菌は、地面に落ちた罹病果で越冬し、翌春にキツネノワン(狐の椀)というきのこになって現れ、開花期に胞子を飛散させ、風で花に付着して感染を毎年繰り返します。対策としては、罹病果やきのこを削り取ってきれいに除去し、土を厚くかけるなどします。葉を採る栽培では果実をつけないように仕立てます。

葉を利用する仕立法の主流は地上50cm以下で主幹を切り、そこから主枝を数本伸ばす根刈り法で、毎年同じ位置で全ての枝を切り戻して拳をつくる方法と各主枝に1本側枝を短く残して拳をつくらない方法があります。果実生産には、結果枝けっかしとなる古枝を温存させながら収穫のため に低い位置で剪定します。1年でかなり枝を伸ばしますので、毎冬剪定します。人とのかかわりの深いマルベリーで自然樹形を目にすることは至難の業です。

マルベリーにはハーブや果樹、飼料作物、薬用植物、工芸作物、木材など様々な役割があり、それぞれに適した品種や栽培方法があります。また、家畜の放牧場に牧柵や日陰などで植え、葉や実を餌としながら木材生産を図るシルボパスチャー(silvopasture=silva[森林]+pasture[牧草地])としても期待できます。家庭では葉も実も木材も楽しめるような自分流の栽培を楽しみましょう。

主要なマルベリー 学名は The Plant List に従った。シノニム(異名)は頻出して見られるものに限って掲載した。

学名・(ラテン語読み・[種名・変種名の意味])種:
Morus alba L.(モルス・アルバ[白い])
主なシノニム(種名のラテン語読み[意味]):
M. alba var.multicaulis (Perr.)Loudon(アルバ・ムルティカウリス[多茎の])
M. latifolia Poir.(ラティフォリア[広葉の])
M. chinensis Lodd. ex Loudon(キネンシス[支那の])
M. intermedia Perr.(インテルメディア [ 中間の ] )
一般名:
ホワイトマルベリー(white mulberry)
マグワ(真桑)
トウグワ(唐桑)
カラグワ(唐桑)
カラヤマグワ(唐山桑)
ハクソウ(白桑)
silkworm mulberry
common mulberry
Chinese white mulberry
特徴:
中国北部原産で、養蚕と共に各地に広がり、現在では世界中で栽培されている。樹高15〜20mにも達する高木だが、一般には剪定されて低く管理される。温帯では落葉するが熱帯では常緑となる。葉は新梢で欠刻しやすい傾向がある。葉の向軸(表)面に光沢がある。果実長1〜1.5cm。果実は熟すと黒くなるが、白いままの品種もあり、種名の由来になったと考えられる。かつては本種をトウグワとし、マグワをMorus latifolia Poir.とする解釈もあった。また、明治初期に中国から日本に導入されたロソウ(魯桑、ログワとも)はかつて、本種の変種(M. alba var. multicaulis (Perr.)Loudon)や別種(Morus lhou Koidz.)とされたが現在では本種の一系統とみなされている。マグワ系品種には養蚕用に‘一之瀬’、‘はやてさかり’、‘みなみさかり’、‘改良鼠返し’、‘十文字’、‘多胡早生’などが、果実用に‘カタネオ’、‘ララベリー’(‘カタネオ’の4倍体)などが、ロソウ系品種には養蚕用に‘魯桑’、‘赤芽魯桑’などが、果実用に‘大唐桑’、‘ポップベリー’(‘大唐桑’の4倍体)などがある。中薬では全植物体を利用。
変種:
Morus alba var. tatarica (L.)Loudon(モルス・アルバ・タタリカ[ダッタン(タタール)の])
一般名:
Russian mulberry
Russian white mulberry
特徴:
ホワイトマルベリーの耐寒性変種。樹高15mに達する落葉樹。低温、乾燥に強く、強靭。1875年にロシアから米国に導入され、燃料や日陰、防風、果実生産として植栽されてきた。果実は黒熟する。

学名・(ラテン語読み・[種名・変種名の意味])種:
Morus australis Poir. (モルス・アウストゥラリス[南(半球)の])
主なシノニム(種名のラテン語読み[意味]):
M. bombycis Koidz.(ボムビキス[蚕の])
一般名:
ヤマグワ(山桑)
クワ(桑)
シマグワ(島桑)
鶏桑(ケイソウ)
Japanese mulberry
Korean mulberry
Chineses mulberry
特徴:
北海道〜九州の日本各地に自生する他、東アジアからヒマラヤにかけて広く分布。樹高15mの落葉樹。雌雄異株が基本で同株のものもある。葉は卵形で鋸歯があり、部位によって5裂にまで欠刻が見られる。果実は長さ1〜1.5cmで黒熟し、食用に。中薬では葉を「小葉桑(ショウヨウソウ)」、「野桑(ヤソウ)」、「小岩桑(ショウガンソウ)」などと呼ぶ。日本では古代から養蚕に利用される他、家具や工芸品、彫刻、建材などに利用される有用樹。養蚕用品種に‘剣持’、‘赤木’、‘市平’などがある。

学名・(ラテン語読み・[種名・変種名の意味])種:
Morus boninensis Koidz.(モルス・ボニネンシス[小笠原の])
一般名:
オガサワラグワ(小笠原桑)
特徴:
小笠原固有種。明治時代の入植によって木材として伐採され激減。その後、養蚕のために導入されたヤマグワとの雑種も現れている。絶滅危惧IA類。

学名・(ラテン語読み・[種名・変種名の意味])種:
Morus cathayana Hemsl.(モルス・カタヤナ[キャセイ(支那)の])
主なシノニム(種名のラテン語読み[意味])種:
M. tiliifolia Makino(ティリイフォリア[シナノキ属の葉に似た])
一般名:
ケグワ(毛桑)
華桑(カソウ)
特徴:
中国原産。樹高15mに達する落葉樹。雌雄異株。葉は円形から5裂に欠刻するものまである。葉縁には丸みのある鋸歯があり、葉は両面有毛で、特に背軸(裏)面と葉柄に細毛が密生する。果実は長さ1〜2cmで黒紫色に熟し、食用とされる。

学名・(ラテン語読み・[種名・変種名の意味])種:
Morus celtidifolia Kunth (モルス・ケルティディフォリア[エノキ属の葉に似た])
一般名:
テキサスマルベリー (Texas mulberry)
特徴:
中南米原産。アルゼンチンからアリゾナ州、オクラホマ州にかけて分布。樹高7mに。葉長は7cm以下とやや小さい。果実は赤〜黒紫色。

学名・(ラテン語読み・[種名・変種名の意味])種:
Morus indica L. (モルス・インディカ[インドの])
一般名:
特徴:
ヒマラヤ原産。インド、中国、日本、東南アジアで栽培される。落葉小灌木でまれに樹高10m以上になる。雌雄同株で雌雄異花。果実は黒熟する。血糖値低下などの薬用に栽培される。「インドのマルベリー」の意味で Indian mulberry と記されることがあるが、Indian mulberry はヤエヤマアオキ(ノニ)(Morinda citrifolia L.)の英名なので必ず学名で確認を。

学名・(ラテン語読み・[種名・変種名の意味])種:
Morus insignis Bureau (モルス・インシグニス[秀でた])
一般名:
lechoso
salvio lechoso
huaguito, rajito
guillo
sapan amarillo
huasca
特徴:
中南米原産。樹高30mに達する常緑樹。葉は長楕円形で先が尖り、向軸(表)面は無毛だが背軸(裏)面は綿毛に覆われる。果実は径8mmで赤熟し、食用に。ラテックス生産や葉を薬用に。

学名・(ラテン語読み・[種名・変種名の意味])種:
Morus kagayamae Koidz. (モルス・カガヤマエ[当時蚕業試験場長加賀山辰四郎への献名])
一般名:
ハチジョウグワ(八丈桑)
特徴:
八丈島をはじめ伊豆諸島固有種。ヤマグワに類似した落葉樹で分枝が多い。葉は鋸歯があり、無毛で光沢があり、先端が尖る。雌雄異株。葉中のタンパク質含量が高い。八丈絹はかつては桑を餌としない天蚕(山繭)を用いたとされる。その後、本種による養蚕が盛んになった。

学名・(ラテン語読み・[種名・変種名の意味])種:
Morus macroura Miq.(モルス・マクロウラ[長い尾の])
主なシノニム(種名のラテン語読み[意味]):
M. laevigata Wall. ex Brandis(ラエウィガータ[無毛の])
一般名:
ナガミグワ(長実桑)
king white mulberry
shahtoot mulberry
Tibetan mulberry
long mulberry
特徴:
ヒマラヤ〜東南アジアの山間部に自生。樹高10mに達する落葉樹。雌雄同株で雌雄異花。熟した果実は白〜濃赤色で、長さ6〜12cmに達するものもあり、生食や、ドライ、加工して食用に。樹乳液を傷などの薬用に、樹皮が繊維や製紙に、家具や建材などの木材に利用される。

学名・(ラテン語読み・[種名・変種名の意味])種:
Morus mesozygia Stapf (モルス・メソジギア)
一般名:
アフリカマルベリー (African mulberry)
特徴:
熱帯アフリカ山間部に自生。樹高30mにも達する落葉樹。葉は楕円形で光沢があり、3脈を中心とした葉脈がよく目立つ。果実は径1cm程度の球形の多花果で食用に。全植物体がアフリカの伝統医療で薬用とされる他、繊維やラテックス、燃料、建材の他様々な道具に加工され、生活に密着した資源。

学名・(ラテン語読み・[種名・変種名の意味])種:
Morus mongolica(Bureau) C.K. Schneid.(モルス・モンゴリカ[蒙古の])
一般名:
モウコグワ(蒙古桑)
蒙桑(モウソウ)
Mongolian mulberry
特徴:
モンゴル、中国原産。樹高8mの落葉樹。葉は手のように欠刻があり、葉縁の鋸歯にトゲをもつ。果実は長さ1〜3cmで赤~黒に色づく。栽培されないが、養蚕に利用される他、果実を食用にする。中薬で地域によってホワイトマルベリーの代用とされる。

学名・(ラテン語読み・[種名・変種名の意味])種:
Morus nigra L. (モルス・ニグラ[黒い])
一般名:
ブラックマルベリー (black mulberry)
コモンマルベリー (common mulberry)
クロミグワ(黒実桑)
特徴:
メソポタミア〜ペルシア山岳地帯原産。樹高12mに達する落葉樹。下葉の向軸(表)面が有毛な点でホワイトマルベリーと区別できる。果実は長さ2〜3cmで黒熟し、ホワイトマルベリーよりも香りが高い。果実が生食や、ジャム、ジュースなどに加工される。中世に欧州に導入されるが養蚕に向かないため庭木や果樹として定着。

学名・(ラテン語読み・[種名・変種名の意味])種:
Morus rubra L.(モルス・ルブラ[赤い])
一般名:
レッドマルベリー (red mulberry)
アカミグワ(赤実桑)
America mulberry
特徴:
北米原産。米国各地に自生。樹高15mの落葉樹。葉の向軸(表)面は無毛でホワイトマルベリーのような光沢はなくざらつき、背軸(裏)面は有毛。鋸歯があり、古枝の葉は欠刻しないが、新梢の葉は2〜3裂に欠刻する。果実はブラックベリーと似ていて熟すと赤または黒くなる。果実は生食の他ペーストやワインに加工される。ネイティブインディアンは果実を茹でて食べたり、木の繊維で織物を織ったりする。

学名・(ラテン語読み・[種名・変種名の意味])種:
Morus serrata Roxb. (モルス・セルラータ[鋸歯のある])
一般名:
ヒマラヤマルベリー (Himalayan mulberry)
テンジクグワ(天竺桑)
特徴:
ヒマラヤ〜中国南西部原産。標高2300m以上の高山に自生。樹高15mの落葉樹。葉長は10〜15cm。果実は長さ2〜3cmで赤熟する。

当協会理事
木村正典 きむらまさのり
博士(農学)。ハーブの栽培や精油分泌組織の観察に長く携わると共に、都市での園芸の役割について研究。著書に『有機栽培もOK!プランター菜園のすべて』(NHK 出版)など多数。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第48号 2019年6月