2021.1.12.

人間と植物たちとの同じ悩み

甲南大学特別客員教授

田中修

「私たち人間と比べると、植物の命はとるに足らない小さなものと思われがちです。しかし、植物たちは、私たちと同じしくみで生きており、同じ悩みをもち、その悩みを克服するために日々頑張っています」と、講演会などでお話しすることがあります。すると、「私たち人間と植物たちとの同じ悩みとは、何か」と疑問に思われるようです。

私たちと植物たちとの同じ悩みはいくつもありますが、その一つは、紫外線への対策です。植物たちは、紫外線が降り注ぐ中で、それを避けることなく生きています。ですから、「紫外線は、人間には有害であるけれども、植物たちにはやさしいのではないか」と思われがちです。しかし、それは“人間のひがみ”です。紫外線は、植物たちにも有害なのです。

紫外線は、私たちでも植物たちでも、からだに当たると、活性酸素という有害な物質を発生させます。そこで、植物たちは、紫外線の降り注ぐ中で生きていくために、有害な活性酸素を消去する物質をつくっています。それが抗酸化物質と呼ばれるものです(下記参照)。

代表的な抗酸化物質と含有例

<抗酸化物質> ビタミンC  <多く含まれる野菜や果物など> ブロッコリー、トマト、芽キャベツ、レモン、キウイ、イチゴ、カキ、ミカン

<抗酸化物質> ビタミンE  <多く含まれる野菜や果物など> ラッカセイ、カボチャ、モロヘイヤ、アーモンド

<抗酸化物質> ポリフェノール / フラボノイド / ケルセチン  <多く含まれる野菜や果物など> タマネギ、アスパラガス

<抗酸化物質> ポリフェノール / フラボノイド / ルチン  <多く含まれる野菜や果物など> ダイズ、ソバ

<抗酸化物質> ポリフェノール / フラボノイド / ルテオリン  <多く含まれる野菜や果物など> シソ、ミント、セロリ

<抗酸化物質> ポリフェノール / フラボノイド / アントシアニン  <多く含まれる野菜や果物など> 赤ワイン、ナス、黒マメ

<抗酸化物質> ポリフェノール / フラボノイド / カテキン  <多く含まれる野菜や果物など>緑茶 、赤ワイン

<抗酸化物質> ポリフェノール / リグナン / セサミン  <多く含まれる野菜や果物など> ゴマ

<抗酸化物質> ポリフェノール / リグナン / セサミノール  <多く含まれる野菜や果物など> ゴマ

<抗酸化物質> ポリフェノール / クロロゲン酸  <多く含まれる野菜や果物など> コーヒー

<抗酸化物質> カロテノイド化合物 / βカロテン  <多く含まれる野菜や果物など> ニンジン、カボチャ、ホウレンソウ、シュンギク

<抗酸化物質> カロテノイド化合物 / リコペン  <多く含まれる野菜や果物など> トマト、スイカ

<抗酸化物質> カロテノイド化合物 / ルテイン  <多く含まれる野菜や果物など> トウモロコシ、ホウレンソウ

<抗酸化物質> カロテノイド化合物 / フコキサンチン  <多く含まれる野菜や果物など> ワカメ、ヒジキ、コンブ

<抗酸化物質> カロテノイド化合物 / カプサンチン  <多く含まれる野菜や果物など> トウガラシ

<抗酸化物質> カロテノイド化合物 / アスタキサンチン  <多く含まれる野菜や果物など> ヘマトコッカス(藻)

抗酸化物質の働きとは?

花に多く含まれるポリフェノールやカロテノイドなどは、抗酸化物質です。花の赤い色や青い色はポリフェノールのアントシアニンという色素であり、黄色い花の色はカロテノイドという色素です。花がこれらの物質を多く含んでいることの意義は、美しい色で目立って、花粉を運んでくれるハチやチョウなどを誘うことです。でも、もう一つの大切な意味は、花の中で生まれてくる、自分たちの子どもであるタネを紫外線から守るためです。

また、多くの野菜や果物に含まれるビタミンCやビタミンEも抗酸化物質です。私たちは、どんな野菜や果物が、これらの抗酸化物質を多く含んでいるかをよく知っています。しかし、「なぜ、それらが抗酸化物質をつくるのか」という疑問をあまり抱きません。多くの野菜や果物は、紫外線から自分のからだを守るために、それらの物質をつくっているのです。

私たち人間では、紫外線が当たるだけではなくて、激しい呼吸をすることや、日々の暮らしのストレスなどで、からだの中に活性酸素が発生します。ですから、私たちと植物たちは、同じように活性酸素の害に悩んでいるのです。活性酸素への悩みは、私たちと植物たちが、同じしくみで生き、同じ悩みをもっているということの代表的な例です。そこで、私たちは、植物たちが自分のからだを守るためにつくる抗酸化物質を利用させてもらっているのです。

クレオパトラが愛したのは?

野菜や果物に含まれる抗酸化物質が、生活習慣病を防ぎ、私たちの健康を保ち、若々しさを維持することに役立つことはよく知られています。歴史的に、これらの物質を含む植物たちを巧みに利用したといわれるのは、エジプトのプトレマイオス朝の最後のファラオ(古代エジプトの王の称号)として活躍したクレオパトラです。

彼女は、中国の唐の時代、玄宗皇帝の妃だった楊貴妃、平安時代の歌人であった小野小町とともに、「世界三大美人」として知られています。日本以外では、小野小町に代わり、スパルタの王妃としてギリシャ神話に登場する「ヘレネ」が選ばれています。

3人の中でも、美しい肌と若さを保ち、美と健康を維持していたのは、クレオパトラとされます。彼女は、バラの花や花びらを浮かべた「バラ風呂」をこよなく愛したといわれます。バラ風呂では香りも大切ですが、花の色素であるアントシアニンが主役です。この色素は、彼女が愛飲したハイビスカスティーにも、ビタミンCとともに多く含まれています。

また、彼女は、抗酸化物質であるセサミンを多く含むゴマ油を食し、“若返りのビタミン”といわれるビタミンEを多く含むモロヘイヤのスープを好んで飲んでいたといわれます。モロヘイヤには、ビタミンEだけでなく、抗酸化物質であるクロロゲン酸が含まれます。

植物たちが紫外線に抗して生きていくためにつくりだす物質は、クレオパトラの時代を越えて、現在、私たちの健康を支えるものとなっているのです。

甲南大学特別客員教授
田中修 たなかおさむ
京都大学農学部卒、同大学院博士課程修了(農学博士)。米国スミソニアン研究所博士研究員などを経て、現職。近著に、令和の四季の花々を楽しむ『日本の花を愛おしむ』(中央公論新社)、食材植物の話題を解説した『植物はおいしい』(ちくま新書)、草・木・花のしたたかな生存戦略 を紹介した『植物はなぜ毒があるのか』(幻冬舎新書)など。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第52号 2020年6月