2021.1.8

石垣島のハーブと島野菜

株式会社川平ファーム代表 石垣島サイエンスガーデン代表 ボタニカルアーティスト

橋爪雅彦

令和も2年目に入りました。亜熱帯の石垣島は地球温暖化の影響か、ここ数年最低温度が15°Cより下がることが珍しくなってきて、植物の生育にも変化が起き始めていす。

クミスクチン

1月には既にテッポウユリやカクチョウラン花芽が膨らみ始め、翡翠葛ひすいかづらの花芽も日ごとに伸び始めています。少しずつ変わりゆく自然の中から今回はハーブや島野菜を見てみましょう。

石垣島の人々は、野草のことを“命草(ぬちぐさ)”と呼びます。命草には、さまざまな有用性能があることが分かっていて、家族が健康を崩して体に不調が出た時、また、美容のトラブルを起こした時に野草を煮出し、お茶にして飲ませたり、食事に取り入れてきました。“命草”は石垣島の人々にとって、とても身近で、健康維持にはなくてはならないものなのです。

ウコン

まず代表的な沖縄三大野草クミスクチン、ウコン、グアバ。島の市場には「ウコン(鬱金)」が並んでいます。種類も春ウコン、秋ウコン、ウムザーウコン、バリウコン、ガジュツなど、それぞれ特徴のある効能をうたっており、選択肢も豊富です。「クミスクチン:ネコノヒゲ」もカリウムの含有が豊富なことから昔から利尿作用の強 いお茶として作られてきました。和名の通りに猫のヒゲのような花形が特徴で観賞価値も高く、民家の庭先で見ることができます。野生の「グアバ」は牧場などの草地に多く見られます。2〜3cmになる栽培物と比べ、1m前後の低木で4〜5cmほどの実をつけます。黄色く熟した物は中がピンクになって栽培種とは比較にならないくらいとても香りがよく品のよい甘さが特徴です。

グアバ

私が島へ移住してきた30年前には道端にはたくさんの薬草が普通に見られました。しかしTVの朝ドラ「ちゅらさん」に時代が乗り沖縄は健康長寿食ブームとなり、多くの薬草が本島の業者によって採集されました。その後にはアメリカハナグルマ、タチアワユキセンダングサ、牧草などの帰化植物がはびこって、残念ながら今の道路沿いには昔日の面影はありません。

沖縄では戦後アメリカの影響でファーストフードや牛肉などが広く親しまれています。そのため伝統的な沖縄料理を作る家庭は少なくなってきました。ところが八重山では観光のブームに沸き立ち建てられた新しいホテルの多くが、レストランでの売りを求めて地元の昔からの食材を探し回っています。そのような状況から石垣市ではもう一度島の素材を見直そうと「島野菜・ハーブ振興プラン」を策定し、将来に向けて の新しい農の取り組みとしてスタートしました。

ヒハツモドキ

筆頭は、最近TV等でも話題になっている「ヒハツモドキ:ピパーチ」。胡椒の仲間で、独特の香りと爽やかな辛みが特徴で、街中の石垣に這わせて栽培されていました。建物の近代化に伴い石垣も少なくなっていますが、本格的な農産品としての栽培が広がり始めています。海岸線の岩場にたくさん生える「ボタンボウフウ:長命草」はセリ科の植物で、その名のイメージ通り抗酸化作用が強く栄養価がとても高いため、大手の 化粧品会社が協力し様々な化粧品や健康食品としてつくられ始めました。秋の野山を彩る「アキノワスレグサ:クワンソー」はキスゲの仲間ですが若葉や花の蕾はおひたしや酢味噌和えなどで食べられ、不眠や精神安定に効果があるといわれお茶としても利用されます。

ボタンボウフウ
アキノワスレグサ

沖縄の代表的な柑橘類といえば「平実檸檬:シークワーサー」です。栽培は沖縄本島北部に集中しますが、八重山では山中で見ることができます。径3〜4cmの小さな実ですが柑橘系特有の香りが強く、フラボノイドの一種ノビレチンが豊富に含まれがん抑制効果や抗認知症効果があるとする研究報告があり、健康食品として果汁、アルコール飲料、乾燥果汁粉末なども販売されています。

八重山の亜熱帯樹林の中ではシダ類が多く見られます。葉の長さが5mを越す大型のリュウビンタイ、樹高が10m以上になるヒカゲヘゴなど太古の時代そのままのような場所も点在します。その中で数多く見られるのが「ヤエヤマオオタニワタリ」です。島中いたるところで見ることができ、その新芽はおひたしや天ぷらなど島の料理屋のメニューには必ず載っています。商用栽培も始まっており一般家庭でも楽しめます。

沖縄の代表的な花といえばハイビスカス、地元ではアカバナーと呼ばれており、この加工製品も数多くあります。ただハイビスカスティーやジャムの名がつくほとんどの原料は「ローゼル」です。同じ芙蓉属の植物ですがどちらかというと草本に近い小低木です。ローゼルは、開花後に肥大した萼と苞をハーブティーやジャムに利用します。良質のクエン酸が豊富で酸味があるさわやかな飲料として利用されます。

バタフライピー

近年栽培が増えてきたのが「バタフライピー:蝶豆」。濃青色の花は気候に恵まれ年間を通して咲き続けます。伝統的な漢方薬やアーユルヴェーダ薬であるクリトリアテルナテア(蝶豆)は、何世紀にもわたって記憶増強剤、脳増強剤、抗ストレス剤および鎮静剤として利用されてきました。このお茶は檸檬などの酸を加えることによる色の変化も楽しみの1つです。特にアントシアニンやフラボノイドが多く含まれ、健康食品としての可能性が期待されます。

新しい食材としての可能性

ミズオオバコの花

最近話題になっているのが島の高級ホテルで利用され始めた食材たち。特に島の年寄りの教えで今は利用されなくなっているものに陽が当てられ始めています。代表的な物に「ミズオオバコ:タークブ」。田の昆布と書いてタークブと呼ぶミズオオバコは、水田に多く見られましたが、現在では農薬や化学肥料のためほぼ絶滅状態。ところが40年以上無農薬無化学肥料の私のガーデンの池に大発生しました。その葉はシャキシャキとした食感と癖のなさで大人気。他にもミズワラビやアマゾンチドメグサ、ゼブリナ、ウナズキヒメフヨウ、バタフライピー、インシュリンプランツなど今までは食と無縁だった植物が注目され始めています。また、ハーブティーの材料としてモリンガ、グアバ、チャボトケイソウ、月桃、ネッタイスイレン、ツボクサ、マンジェリコン、ポルトジンユ、メキシカンスイーツハーブなどの栽培も増え始めています。 島を訪れる際にはぜひ味わってみてください。

ウナズキヒメフヨウ
チャボトケイソウ
ネッタイスイレン
株式会社川平ファーム代表 石垣島サイエンスガーデン代表 ボタニカルアーティスト
橋爪雅彦 はしづめまさひこ
東京都立園芸高等学校卒業。学研の図鑑・東京大学出版会・誠文堂新光社(ガーデンライフ)・東京書籍生物教科書の図版及び科学論文などのイラスト担当。大阪花博東日本イベント総合プロデュース。国立博物館監修『原色日本のラン』執筆のため、東京より石垣島に移住。石垣市川平において「川平ファーム」としてパッションフルーツの加工を始める。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第51号 2020年3月