2020.12.29.

植物エキスのフィルム「飲むマスク」

鳥取大学医学部ウイルス学教授

景山誠二

はじめに

私は、ハーブを専門領域にした研究者ではありませんが、医療に頼らない日常生活の工夫による感染予防へのハーブの利用について興味を感じています。医療においては、様々な局面で経口薬(「飲み薬」)が多用され、 胃腸を通過した後、有効成分が小腸から血管内に吸収され全身臓器に運ばれ効果を発 揮しています。植物エキスを治療薬として用いる場合、この吸収が「難所」です。有効成分がどれで、どの程度吸収されたのか、これを説明するのは難題です。

この点、「のど」にくっつき、そこで増えた後、ここを足場にして気管支や肺に向けて深く潜行する病原体を制御するのに、植物エキスは有望です。「のど」で増やさなければ、気管支・肺など、奥に侵入することはありません。さらに、多くの「薬」の開発課題である、 胃腸・小腸で有効成分が壊れることへの懸念、小腸から血管への有効成分の移動(吸収)などについては、考えなくてよいからです。

植物エキスで「のど」(増殖の場)の表面を覆い、この「植物エキスのフィルム」に抗ウイルス効果が期待できれば、ウイルスは増えることができず、予防に繋がるはずです。その典型例がインフルエンザです。その他にも、飛沫感染する原因ウイルスが引き起こす病気のほとんどに予防効果が期待されます。これが、植物エキスのフィルムを「飲むマスク」と呼ぶ所以の1つです。ただし、いずれの病原体への効果も科学的根拠が必要であることは、言うまでもありません。

インフルエンザ

インフルエンザは、インフルエンザウイルスによって引き起こされる病気です。ウイルスと増殖の場である細胞がなければ、起こるはずのない病気です。この咳やくしゃみなどを構成する小さな水滴にインフルエンザウイルスが包まれています。水分がないとウイルスはたちまち壊れてしまいます。

図1 電子顕微鏡で見たインフルエンザウイルス(棒状のもの)

このウイルスを包む小さな水滴の集まり (飛沫)が、運悪く「のど」の表面に付着した場合に、ウイルスは増える足場を得ます。その後の運命は、増えたウイルスの数に支配されます。多量のウイルス増加を許してしまうと、ウイルスに感染した細胞領域は次第に広がり、気管支を経て肺にまで到達する危険があります。気管支炎・肺炎の発症です。ここまで進めば、正常な呼吸器の機能が大きく侵されます。呼吸によって体内に運び込まれる酸素の供給不足が起きます。「息ができない」苦しさを味わうことになり、生命を失う危険さえあります。

免疫力が増殖に対抗し、多くの場合には 気道の奥底、下部気管支や肺には到達しない状況のまま、ウイルスの数はゼロになって、 治癒を迎えます。ただし、増え始めてから治癒するまで、戦いの期間には、免疫の「飛び道具」のおかげで、戦いの期間に発熱・倦怠感・痛みが襲ってきます。できれば、戦いを「ボヤ」の段階で終わらせたいものです。そのためには、免疫が発動する前に、ウイルスを増やさない環境をつくることが必要です。

ウイルスが「のど」に付着しようとする局面で、「植物エキスが『増殖の場』を奪ってくれれば」との大きな期待があります。

エキナセア

北米に自生する丈夫な多年生の植物として知られ、エキナセア属の3種が医療応用されています。主に根の部分が使用され、その他、花の部分が原材料になっています。医療効果は、主に感染症に対して記述されてきており、梅毒、ある種の傷、蛇毒への対応への使用の記録があります。その他の報告では、広く細菌やウイルスへの作用も報告され、比較的軽度の敗血症、皮膚の様々なレベルの外傷、咽頭炎、歯周囲炎、扁桃炎などの記述があります。医療における効能については、免疫能を賦活するものとされています。ドイツやアメリカ合衆国では、医療用植物エキスとして市販されている代表的製品となっています1)。

鳥取県におけるエキナセア栽培

鳥取県では、平成22年から西部の大山だいせん山麓でエキナセア栽培を始め、その結果、面積ゼロから170アールほどの作地面積まで拡大しています。23圃場、生産者15戸、生産量20トンの規模です。収穫したエキナセアを原料にしたハーブティーを商品化し、販売をすでに開始しています。さらに、栽培地域大山町だいせんちょうと鳥取大学医学部との共同研究も同時に始められ、抗インフルエンザウイルス増殖抑制機能を、培養細胞におけるインフルエンザウイルス感染実験系で確認しています(後述)。

図2 鳥取県西部、大山山麓のエキナセア畑 (鳥取県ホームページより)

エキナセア飲料がもたらすインフルエンザ予防への期待

エキナセアの花、茎、根までの全てを含み、お茶を沸かすように熱水で抽出したエキスをインフルエンザウイルスと混ぜて細胞に暴露し、しばらく待ってウイルスが増えてくる様子を観察しました。エキスあり・なしのそれぞれの場合の効果を比較しています。エキスなしの場合には、ウイルスはかなりの程度まで増えます。これに対し、エキスありの場合には、ウイルスは増えにくくなりました。また、エキスの濃度が濃いほど、ウイルス量は減っていました。すなわち、エキスの濃度が高いほど効果が強く出たことを意味します。お茶として飲む濃度では、測定できない濃度まで、ウイルスを減らす効果が見られています(図3参照)。

エキナセアを熱水で抽出したエキス(お茶と同様)のインフルエンザウイルス増殖抑制効果

図3 エキナセアを熱水で抽出したエキス(お茶と同様)のインフルエンザウイルス増殖抑制効果(お茶使用の濃度より薄い濃度)2.5mg/mLで検出感度以下になった。

その効果のメカニズムの1つは、ウイルスが細胞に付着できないことによるものです。さらに、エキナセアエキスの成分の一部は、細胞内に入ってウイルスが増えようとするのを阻害する作用もありそうです(論文投稿準備中)。植物エキスは多種多様な成分の混合体です。それぞれに別の活性メカニズムがあっても不思議はありません。

おわりに

エキナセアの薬効について、インフルエンザ予防効果に言及しました。飲み薬のように、口から胃を通過し、腸に入って血液に吸収されて全身に運ばれる場合には、「胃腸で壊されず、成分が腸で血液に運ばれる」という難関を経なければなりません。このような薬とは対照的に、インフルエンザウイルスの感染予防のためには、ウイルスがのどに付着するのを邪魔するだけでよく、その後の胃腸でのイベントを問題視する必要がないのが最大の利点です。あるいは、お茶を飲むという日常生活は、無意識のうちに「微生物をのどに付着させない」働きを経験しているのかもしれません。エキナセアには、私たちに備わった様々な免疫力をうまく発揮させるメカニズムも議論されています。その他多くの病原微生物への薬効も報告されており、まるで魔法の薬剤のような不思議さがあります。自然からの贈り物を、もっと深く理解し、応用範囲を増やせればと思います。

[引用文献]
1)Barnes J, Anderson LA, Gibbons S, Phillipson JD. Echinacea species (Echinacea angustifolia (DC.) Hell., Echinacea pallida (Nutt.) Nutt.,Echinacea purpurea (L.) Moench): a review of their chemistry, pharmacology and clinical properties. The Journal of pharmacy and pharmacology. 2005;57(8):929-954.

鳥取大学医学部ウイルス学教授
景山誠二 かげやませいじ
同大学院医学系研究科終了(医学 博士)。米国NIH/NCI/Visiting Fellow、大阪大学微生物病研究所助手、 富山医科薬科大学助教授、金沢大学助教授・准教授を経て2008年より 鳥取大学医学部教授。この間、フィリピン・ケニアにおいて国際協力事業団 専門家、日本財団APIプログラム・シニア・フェローとして国際保健事業(エイズを中心にした感染症対策)に従事。専門はウイルス学、国際感染症対策。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第46号 2018年12月