2020.12.15.

健康で幸せに暮らせる砂漠の宝カンカ

京都薬科大学 名誉教授 当協会顧問

吉川 雅之

はじめに

ハマウツボ科ニクジュウヨウ属の多年生草本のカンカニクジュウヨウ(通称はカンカ)などの肉質茎を乾燥したものが漢薬のニクジュウヨウ(肉蓯蓉)で、滋養強壮、補精 薬としてインポテンツや女性の不妊症などの治療に用いられます。 カンカは、一般の植物とは異なり、ギョリュウ科の低木タマリクスの根に寄生して生育します。タ クラマカン砂漠の自然条件では、地面の下10m近くを流れる伏流水まで根を伸ばせるポプラやタマリクスなどが生育可能で、カンカはタマリクスの根に寄生して水や栄養をもらって成長します。このような特殊な生育条件もあって、カンカは中央アジアからモンゴル、中国北西部の砂漠地帯、特にタクラマカン砂漠南部のホータンやニヤ(ミンフォン)地区に分布しています。

カンカは砂漠の宝

ホータンは、新疆ウイグル自治区、タムリ盆地の南西部に位置し、チベットに連なる崑崙山脈の北麓に接するタクラマカン砂漠のオアシス都市の一つです。シルクロード西域南道における東西交易の要所として古代から栄えてきました。タクラマカン砂漠は、ウイグル語で“入れば二度と生きて戻れない”を意味する死の砂漠として恐れられてきました。昼夜の寒暖の差が大きく、年間降雨量もごくわずかであり、一年を通じて強風にさらされる大変厳しい気候風土ですが、なぜかホータン地区は世界有数の長寿地域として知られています。日本のテレビ番組でホータンが紹介された際には、カンカを砂漠人参と呼び、不老長寿の源として常食してきたと伝えら れました。特に筆者らの注意を引いたのが、ウイグル族の99歳の男性が、18歳の女性と結婚して6人の子どもをもうけたとの報道でした。その男性の曰くに、“カンカは健康で幸せに暮らせる砂漠の宝”とのことでした。

筆者らは、ウイグル民族薬物研究の一環としてカンカの調査を5回にわたり実施しました。日本からホータンまでの旅程は、関空から3時間ほどで北京に着き、国内線で5時間ほどかけてウルムチに到着。ウルムチでは新疆中薬民族薬研究所の共同研究者と合流し、空路2時間ほどでホータンに着くのですが、しばしば砂嵐で欠航するので日程に余裕が必要です。ホータンでは、地区政府科学技術局のメンバーとカンカ栽培化について協議し、ホータンやニヤ近郊などの栽培予定地を調査しました。

筆者らの移動には公安警察のトップが同伴し、乗車したジープには公安警察の旗がたなびいていましたが、出発早々に故障して運転手と同伴者がどこかに行ってしまい、40°Cを超える砂漠の中に残された時は少し心細く思われまし た。しかし、ホータン周辺のウイグル族住民との交流会で、100歳前後の老人から食生活など 生活習慣と長寿の秘訣について聞き取り調査ができました。昼も夜もどこに行っても羊の丸焼きに始まるウイグル料理のフルコースを堪能できましたが、53度のパイチュー(白酒)を浴びるように飲む漢族の宴会には閉口しました。

カンカの調査のためにホータンを5回訪問(2004、2006、2007、2010、2013年)。 写真は2006年8月のもの。右端が筆者
ホータン地区では羊の丸焼きに始まるウイグル料理を堪能

ホータン地区をはじめタクラマカン砂漠周辺の乾燥地帯では、砂漠との戦いが有史以来続けられてきたといっても過言ではありません。今日も水路建設や防砂事業などに絶え間ない努力が続けられており、その一つとして、防砂及びタマリクスを用いた緑化の試みが行われています。タマリクスへのカンカの人工寄生による栽培 化に成功したので、ホータン県政府とタクラマカン砂漠の緑化事業及びカンカなど特産薬 用植物の探索と応用に関する学術協力協定を締結し、カンカの学術交流と研究成果の積極的な利用による人々の健康維持・増進と地球環境保護に寄与することを目指して国際カンカ研究会を発足させました。また、ニヤ郊外に砂漠緑化基地を設置してタマリクスの植樹事業とカンカの大量栽培及び機能性成分に関する研究を進めました。

これまでのところ、カンカの抽出エキスに血管収縮の抑制作用のあることを見出し、その作用メカニズムとして、受容体依存型カルシウムチャネルを介した血管収縮の抑制作用であることを支持する結果を得ました。また、肝障害の抑制効果や初代培養肝細胞障害の抑制作用、マクロファージからの過剰なNO産生の抑制作用、 TNFとα‐アクチノマイシン誘発L‐929細胞毒性の抑制作用も認められ、それらの活性成分を明らかにしました。筆者らの研究結果は、カンカの強壮、解毒、冷え性改善、認知症予防効果などの伝承薬効を裏づけるものといえます。

おわりに

近年、地球温暖化や砂漠化をはじめ農地開拓や野生動植物の採取などによる人為的な自然破壊が地球規模で進んでいます。筆者らのカンカへの取り組みは、研究者の交流及び有用な薬用・食用素材の開発のみならず、資源の安定的確保と自然環境保護としての砂漠緑化を施行した極めて革新的な国際プロジェクトといえ、さらなる発展が期待されています。

京都薬科大学 名誉教授 当協会顧問
吉川 雅之 よしかわ・まさゆき
1976年大阪大学大学院薬学研究科修了(薬学博士)後、同大学助教授、ハーバード大学化学科博士研究員、京都薬科大学教授を経て、現在同大学名誉教授。日本薬学会奨励賞、同 学術貢献賞、日本生薬学会学会賞など受賞。日本生薬学会会長、日本薬学会生薬天然物部会長などを歴任。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第50号 2019年12月