2020.12.14

心のコンディショニング〜体内時計とストレスケア

いりたに内科クリニック院長

入谷 栄一

暑い夏が過ぎて、さわやかな季節がやってきました。読書の秋、芸術の秋、スポーツの秋……といわれるように巷では楽しいイベントが盛りだくさんですね。

その一方で、何となく気持ちが乗らない、 気分が晴れないという人もいます。五月病という言葉はよく知られていますが、 実は秋から冬も心の健康に注意が必要な時期です。

季節の変化に合わせて心のコンディションを整え、 秋空のような晴れ晴れとした心で毎日を過ごしましょう。

季節の変わり目を上手に乗りきる

心の調子を整えて実りの秋に

秋は誰もがちょっとメランコリックな気 分になりがち。 この時期ならではのメンタルケアのポイントを知り、心も体もさわやかに、豊かな秋を満喫しましょう。

日照時間が短くなると 心や体にも変化が

秋から冬にかけて何となく落ち込んだ気 分になったり、気力が低下したりする人が 増える傾向があります。その原因の一つと考えられるのが、日照時間の減少です。これには、セロトニンが大きく関係しています。

セロトニンは脳内で働く神経伝達物質の一つで、自律神経のバランスを整えて精神を安定させたり、気分を高揚させたりする働きをします。セロトニンは光が目の網膜を刺激することで分泌が盛んになるため、日照時間が短くなるとセロトニンが減少してしまい、脳の働きが低下して、落ち込みや倦けん怠たい感などの症状が現れやすくなるのです。

ちょっとした体調の変化は誰にでも起こり得ますが、症状がひどい場合は「冬季うつ」の可能性もあります。これは特定の季節だけうつ症状が現れる「季節性気分障害(季節性うつ)」の一種で、秋から冬にかけて症状が現れ、春になると自然に回復するのが特徴です。冬季うつでは、 落ち込みや意欲の低下、疲労感などの他、 過食(特に甘い物など炭水化物を食べたくなる )、 過眠 ( 睡眠時間が長くなる)といった、一般的なうつ症状とは反対の症状が出ることがあります。

日常生活に支障を来すほどの症状が続く場合は、無理せず早めに精神科や心療内科で相談しましょう。

Check List
当てはまる項目が多い人ほど心のバランスの崩れに注意が必要です。

  • 気持ちが落ち込む
  • 気力がわかない
  • 集中力が落ちてきた
  • 外出が億劫になった
  • だるくて疲れやすい
  • 十分寝ているのに寝足りない
  • 過食になり、太ってきた

体内時計の乱れも メンタル不調の原因に

私たちの体には、睡眠・覚醒のリズムをコントロールする「体内時計」のシステムが備わっています。日照時間の短縮により、この体内時計が乱れやすくなることもメンタル不調の原因の一つです。体内時計はメラトニンと呼ばれるホルモンによって調整されています。メラトニンは朝、日光を浴びることで分泌が抑制され、14~16時 間後に再び分泌が始まり、体を眠りに導きます。そのため日照時間が短くなると分泌のタイミングがずれたり、分泌量が乱れたりして体内時計が狂い、結果、朝起きるのがつらくなったり、日中も眠気を感じたりすることが多くなるのです。体内時計の乱れは自律神経の働きやホルモン分泌にも影響 し、疲労感や倦怠感、意欲や集中力の低下、落ち込みなども起こりやすくなります。

季節の変わり目は日照時間だけでなく気温、湿度、気圧なども変化し、心や体のバランスを崩しやすいもの。さらにストレスや生活習慣の乱れが加われば、症状はより重くなって しまいます。適切な備えで秋冬のシーズンを元気に乗り切りましょう。

心の健康を守るセロトニン

セロトニンは「不安やイライラを抑制する」「意欲を向上させる」「メラトニンの分泌を促し、体内時計を正常に保つ」などの働きがあり、 精神の安定に欠かせない物質です。セロトニンは目から日光を取り入れることによって体内での産生が促されるため、日照時間が短くなると不足ぎみになり、気分の落ち込み、過眠、だるさなどが現れやすくなります。

朝目覚めたらすぐに日光を浴び、できるだけ外出しましょう。屋外で運動すればストレス解消にもなり、一石二鳥です。

日光を取り入れて 体内時計を整えよう

秋冬のメンタル不調を防ぐために有効なのが、日光を生活に取り入れることです。 朝起きたら、曇りや雨の日でもカーテンを開けるようにしましょう。これによりセロトニンが活性化され、体内時計がリセットさsれます。難しい場合は部屋の照明をつけるだけでも一定の効果があります。自宅の照明が暗い人は、明るいものに変えるのも一案です。

日当たりの悪い場所で長時間過ごす人は、特に意識して日光を浴びることが必要です。短時間でも積極的に外出しましょう。

また、毎日できるだけ同じ時間に起き、 規則正しい生活を送ることも大切です。日 中の活動量を上げ、夕方以降は激しい運動や強い光を浴びることは避けてゆったりと過ごし、メリハリのある生活を心がけましょう。

適度な運動も有効です。ウォーキングやジョギング、水泳、サイクリング、階段の昇り下りなどの有酸素運動の他、ゆったりした呼 吸で 一定のリズムを刻みながら行うヨガやストレッチなどもおすすめです。ただし、これにこだわらず、自分が心地よく感じられる運動から始めて習慣化しましょう 。

食生活に気をつけて セロトニンを増やそう

秋冬に炭水化物、特に甘い物を食べたくなるのは、体温を維持するためという面もありますが、過度な摂取は NG です。

セロトニンは必須アミノ酸の一種であるトリプトファンを原料としてつくられるため、食事でトリプトファンを摂ってセロトニン不足を改善しましょう。トリプトファンは、 肉類、卵、大豆製品、乳製品、ナッツ類、 バナナなどに多く含まれています。

また、トリプトファンの吸収を助ける炭水化物、トリプトファンの吸収に欠かせないビタミンB6も併せて、幅広い食品から バランスよく摂るようにしましょう。

セロトニンの素となる食材


トリプトファンは脳でセロトニンの原料となり、落ち込みやイライラ、 不眠などの精神症状を改善する効果があります。

ストレスと上手につき合おう

まずストレスを自覚し考え方の癖を見直そう

ストレスというと悪いことが原因と思われがちですが、結婚、昇進、進学といった喜ばしいこと、季節の移り変わりも含めていろいろなかたちの「変化」がストレスになり得ます。まずは自分が受けているストレスを自覚し、それにどう向き合うか、どのように距離をとるかを考えることが大事です。

ストレスをためやすい人は、思考パターンを変えてみるのも一つの方法です。特に「~ しなければいけない」と自分を追い込む癖のある人や、 他人と自分を比較する癖のある人は要注意。イライラや怒り、未来への不安や焦りなどのネガティブ感情にとらわれず 、「今、ここ」を大切にしましょう。

また、うつの人の中には心の不調に対して自覚がなく、体調不良だけを訴えるケースもよくあります。疲労感、不眠、胃腸障害、頭痛、めまい、肩こりなどが長引いている人は、心も見つめ直してみましょう。

セルフケアのヒント

01.体を温めよう

秋は日中と朝晩の気温差が大きく、体を冷やしてしまう と自律神経に影響して気持ちも落ち込みがちになります。 食べ物、入浴、服装などで体を温めましょう。

02.オフタイムをつくろう

忙しい中でも心を解き放ち、リラックスできる時間を意識的につくりましょう。趣味、運動、おしゃべり、何もしないなど。イベントも詰め込み過ぎはNGです。

03.メディカルハーブを活用しよう

メンタルケアはハーブの得意分野。心身の両面に穏やかに働きかけて疲れた心を癒やし、バランスを整えてくれます。ハーブティー、アロマセラピーなどいろいろなかたちで日常生活に取り入れましょう。日中に疲れを感じた時にはリフレッシュ系のハーブ( ペパーミントやレモングラスなど)を、夜のくつろぎタイムにはリラックス系のハーブ(リンデン、ジャ ーマンカモミールなど)を、と使い分けるのも一つの方法です。


環境の変化が大きい時期には 、変化に適応するために気づかないうちにストレスをため込んでいることがあります。気の置けない友人とのおしゃべりなど、日常の小さな気分転換を大切にしましょう。

いりたに内科クリニック院長
入谷 栄一 いりたに・えいいち
総合内科専門医、呼吸器専門医、アレルギー専門医。日本メディカルハーブ協会理事。東京女子医科大 学呼吸器内科非常勤講師。在宅診療や地域医療に力を入れる他、補完代替医療やハーブ、アロマに造詣が深く、全国各地で積極的に講演活動も行う。著書に『病気が消える習慣』、『キレイをつくるハーブ習慣』(経済界)など。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第49号 2019年9月