2015.12.1.

ビルベリーの植物学と栽培、人との関わり

博士(農学)

木村正典

開花期のビルベリー(VacciniummyrtillusL.)
開花期のビルベリー(Vaccinium myrtillus L.)

分類・名称

ビルベリー(bilberry)は、狭義にはツツジ科 (Ericaceae) スノキ属 (Vaccinium) のVaccinium myrtillus L.(セイヨウスノキ)を指します。また、広義にはスノキ属の中でbilberryと名のつくV. uliginosum L.(bog bilberry、northern bilberry、クロマメノキ)、V.caespitosum Michx.(dwarf bilberry, Alpinebilberry)、V. deliciosum Piper (cascade bilberry)、V. membranaceum Douglas ex Torr. (mountain bilberry)、V. ovalifolium Sm. (oval-leaf bilberry、クロウスゴ)などの、近縁の数種を含める場合があります。ここでは V. myrtillus L.について述べます。

植物分類の世界基準であるThe Plant Listには、スノキ属に1,010もの学名(このうち223種がアクセプテッド、216種がシノニム、571種が未解決)が記載されています。スノキ属にはほかに、ブルーベリー(blueberry、Vaccinium spp(.ブルーベリーと名のつく数種の総称)、クランベリー(European cranberry、ツルコケモモ、V.oxycoccos L.とAmerican cranberry、V.macrocarpon Aiton)、グラウスベリー(grouseberry、V. scoparium Leiberg ex  Coville)、カウベリー(cowberry、コケモモ、V.vitis-idaea L.)、リンゴンベリー(lingonberry、V. vitis-idaea subsp. minus (Lodd., G.Lodd. & W. Lodd. ) Hultén)などのベリー類があります。ハックルベリー (huckleberry)はガイルスサキア属 (Gaylussacia)ですが、広義では一部のスノキ属を含みます。

ストロベリーやラズベリー、ブラックベリー、ボイセンベリー、ジューンベリーはバラ科、グズベリーやカシス(ブラックカラント)、レッドカラントはスグリ科、マルベリーはクワ科で別科です。

日本にはビルベリーの仲間として黒豆の木と黒臼子クロウスゴが自生しています。そのほかのスノキ属としては苔桃コケモモ蔓苔桃ツルコケモモ小小坊シャシャンボV. bracteatum Thunb.)、夏櫨ナツハゼV. oldhamii Miq.)、大葉酢の木オオバスノキV. hirtu Thunb.)、臼の木ウスノキV. hirtum Thunb.)、灰汁柴アクシバV. japonicum Miq.)などが自生し、いずれも果実が利用できます。

『中薬大辞典』にビルベリーの記載はなく、スノキ属では、越橘エツキツV. vitis-idaea L.、コケモモ、葉を越橘葉)エツキツヨウ蒼山越橘ソウザンエツキツV. delavayi Franch.、根を岩檀香)ガンダンコウ石生越橘セキセイエツキツV. saxicolum Chun ex Sleumer、茎葉を石瓜子蓮セキカシレン)、尾葉越橘ビヨウエツキツV.dunalianum var. urophyllum Rehder & E.H.Wilson、全草を大透骨草)ダイトウコツソウ烏鴉果ウアカV.fragile Franch.、根を土千年健ドセンネンケン、葉を土千年健葉)ドセンネンケンヨウ烏飯樹ウハンジュV. bracteatum Thunb.、シャシャンボ、根を南燭根ナンショクコン、果実を南燭子ナンショクシ、葉を南燭葉ナンショクヨウ)、米飯花ベイハンカV. sprengelii (G.Don) Sleumer、果実を米飯花果)ベイハンカカ、小葉珍珠花ショウヨウチンシュカV. mandarinorum Diels、果実を飽飯花ホウハンカ、茎葉を飽飯花枝葉ホウハンカシヨウ)が記載されています。

学名はVaccinium myrtillus L.のほかにもV.oreophilum Rydb.やVitis-idaea myrtillus(L.)Moenchなどのシノニムがあります。
属名のVaccinium(ウァッキニウム)はラテン語のvaccinius「牡牛の」に由来する説(根拠不明)や、bacca「液果、ベリー」のなまりとする説のほか、ギリシャ語のHyacinthosの訛ったvakinthosに由来し「濃い色の花」を意味する説があります。種小名のmyrtillus(ミルティルルス)はラテン語でmyrtle「マートル」を意味し、葉の似ていることに由来するとされています。英名のbil-は、ballを意味する古スカンジナビア語に由来します。
米国ではbilberryという言い方が一般的ですが、英国などでは、bleaberry、whortleberry、black whortles、hurts、hurtleberry、hurleberry、heidelberry、windberry、whinberry、wimberry、shinberry、dyeberry、trackleberry、European blueberry、mountain blueberry、myrtle blueberry、burren myrtle、fraughanなどと呼ばれます。

和名の西洋酢の木セイヨウスノキ(西洋酸の木とも)は、葉に酸味のあることに由来します。

形態

ビルベリーはブルーベリーとよく似ていますが、花色や果肉の色などで見分けられます。草丈は30~40cmとブルーベリーよりも小さいです。根は細く、浅根性で根張りがよくありません(ツツジ科共通)。茎は、ブルーベリーが円柱なのに対して、稜がやや発達して扁平に角張っており、茎の横断面を見ると髄(中心部分の柔組織)が楕円になっているのが特徴です。新梢は緑色で、古い枝は茶色く木化し、立ち上がって分枝します。葉は短い葉柄があって互生し(ツツジ科共通)、とても細かい鋸歯があり、先端のとがった楕円形を呈しています。葉は明るい緑色ですが、秋には赤く色づいて紅葉も楽しめ、冬に落葉します。花は3~6mmで、スズランの花をすぼめたような壺型を呈しています。房状にならずに単生し、4~6月、出葉後に開花します。花色はブルーベリーが白から薄桃色なのに対し、ビルベリーは赤色が特徴的で、淡緑色のものもあります。果実は直径が5~10mmと、ブルーベリーよりも小さくて軟らかく、たくさんの種子を含んでいます。果皮は黒紫色でブルーベリーよりも濃く、果肉はブルーベリーが白~淡緑色なのに対して赤紫色を呈しています。このため、手で果実をつぶすと手が赤く染まります。これらの果皮、果肉の色の濃さはアントシアニンを多く含むことによります。果実の収穫時期は7~9月です。

栽培

ブルーベリーが北米原産なのに対し、ビルベリーは北欧原産です。寒さに強く、氷点下40°C近くまで耐えられます。しかし、栽培は難しく、自生地でも営利栽培はほとんどできず、野生の果実を採取しています。

繁殖は種子もしくは挿し木で行います。種子繁殖の場合、果実から種子を洗い出し、湿った状態のまま密閉して冷蔵庫で保存します。1年以上経つと発芽しなくなりますので、秋に収穫した種子を翌春に播くようにします。発芽適温は20°Cで、発芽まで1~4週間かかります。発芽率は70~80%程度です。挿し木繁殖の場合、5~7月の梅雨明け前に、緑色部分の下のほうの太い茎を5~10cmの長さに斜めに鋭く切り、無肥料の赤玉土に挿します。ブルーベリーよりも発根率が悪いので、発根促進剤の使用が効果的です。

ツツジ科の特徴として、やせた酸性土壌に適応しています。苗を植えつける際、土を酸性にするためにピートモスを混ぜます。ピートモスにはpH未調整のものとpH調整済みのものが売られていますので、pH未調整のものであることを確認して入手するようにします。土:完熟牛糞堆肥:ピートモス=3:1:4くらいの割合に混ぜます。2年目以降は、浅く張る根の乾燥を防ぐ意味でも、腐葉土などの有機物を、株元から離してドーナツ状に土の上に載せます。多肥にならないようにしましょう。半日陰で夏の強い日差しを避け、乾燥に注意します。自家受粉による着果率の大きな減少は見られませんので一本だけ植えても結実しますが、1果当たりの稔実ねんじつ種子数は自家受粉で10粒ほどなのに対し、他家受粉では5倍に増えるという研究結果があります。病害虫は深刻ではありませんが、果実は野生動物にとっても貴重な食べ物で、完熟果は鳥に食べられてしまいます。結実を始めたら防鳥ネットなどをかけるとよいでしょう。

人との関わりの歴史

アルプスで発見された、B.C.3300年頃の人物とされるアイスマンのミイラの消化管からビルベリーの花粉が発見されたことは興味深い事実です。ビルベリーと人との関わりの記述は大プリニウス(A.D.23−79)にまでさかのぼります。ディオスコリデス(A.D.40−90頃)は赤痢の治療に勧めました。ケルト人やスカンジナビア人などは布の染色に用いていました。ネイティブアメリカンの間でも古くから薬用に用いていたようです。中世になると、収斂しゅうれん、強壮、洗浄効果をもつとされました。ヒルデガルト・フォン・ビンゲン(1098−1179)は月経誘発効果を述べています。近代では、ヒエロニムス・ボック(1498−1554)が膀胱結石や肺疾患、肝臓疾患の治療に勧め、ニコラス・カルペパー(1616−1654)は発熱・悪寒、肝臓や胃、肺の疾患などによいとしています。

現代になって薬効が注目されるきっかけとなったのは、第二次世界大戦のとき、英国空軍パイロットが、夜間ミッション前にビルベリージャムをつけたパンを食べたところ、命中率が向上したことが発表されてからです。その後、夜間の視力向上効果は認められないという報告もあります。近年は、アントシアニン含量がブルーベリーよりも高く、抗酸化作用の高いことから、特に注目が集まっています。現在では、ブルーベリーと同じように、果実や葉がティーに用いられるほか、果実がジャムやパイ、マフィン、パンケーキなどに利用されます。また、果肉が赤いために、古くから食品やウールなどの染色に用いられてきました。

ビルベリーは、北ヨーロッパ、東ヨーロッパ、北アメリカで果実が商業的に収穫されていますが、栽培が難しいため、ほとんどが野生のものから摘み取られています。アメリカなどで商業栽培が試みられましたがうまくいっていません。

日本には、ブルーベリーが1951年に渡来し、1990年代のブーム以降、多くの品種が流通しています。現在、ビルベリー苗として流通しているものは矮性わいせいのブルーベリーなどの可能性があります。ビルベリーは乾燥果実やサプリメントが輸入されていますが、植物が日本にいつ渡来し、どれくらい存在するのかは不明です。

北海道や本州中部以北に自生する近縁のクロマメノキやクロウスゴなども薬効や利用が再評価されるべきでしょう。ビルベリーは栽培が難しいですが、ぜひチャレンジして楽しみたいですね。

博士(農学)
木村正典 きむら・まさのり
ジャパンハーブソサエティー専務理事。 ハーブの栽培や精油分泌組織の観察に長く携わるとともに、園芸の役 割について研究。著書に『二十四節気の暮らしを味わう日本の伝統野 菜』(GB)、『カルペパー ハーブ事典』(監修)(パンローリング)、『ハ ーブの教科書』(草土出版)、『有機栽培もOK! プランター菜園のすべ て』(NHK 出版)など。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第34号:2015年12月