2021.7.31.

香味特性から活用用途が広がったスパイス
アニスとスターアニス

スパイスコーディネーター協会理事長

武政三男

日本人にはスパイスは辛いものというイメージが強く、フェンネルや今回のアニスなどはスパイスではないと決めつけることがありますが、ハーブ(伝承医療上の用語)でありスパイス(食品分類上の用語)でもあります。

紀元前184年にローマ共和制時代の監察官大カトーがローマ軍の贅沢な生活を非難し、東洋のスパイスの使用を抑制する法律を定めました。その一方で南ヨーロッパ発祥のハーブを、スパイスの代用に活用するように推奨したのです。その結果、ハーブの活用法がいろいろと工夫され、大衆に広まっていったのです。今回は、甘い芳香に特徴があるセリ科のアニスと、植物的にまったく異なるシキミ科のスターアニスを取り上げます。

アニス

概要

葉は鮮やかな明るい緑色で、鳥の羽に似ていることから学名がつけられた。アニスの初期のアラビア名は、アニスム(anysum)だったが、これはギリシア語のアニソン(anison)あるいはアンネソン(anneson)、また、種名であるラテン語のアニスム(anisumu)などに由来している。

香味特徴

辛味がなく、甘い芳香感に特徴がある。甘い香りの主成分は、フェンネル(茴香)やスターアニス(八角)などにも含まれているが、アニスの甘い芳香感は、ほかのスパイスよりも上品でよいとされている。特有の香味も、アニスの種子を一度に多量を粉砕して保存して置くと、芳香性が変化しやすく、香り立ちが弱くなるので、使用するときに少量ずつ粉砕するのがよい。

料理適性

葉はサラダや料理のつけ合わせに、種子はクッキー、ケーキなどの焼菓子に、そのままか粉末にして用いるとよい。リキュールやシロップ漬けなどに原形のアニスシードを漬け込むのもよい。ドロップやキャンディなど、甘い香りをつけたいときにアニスを使うと効果的である。リキュール類には、アニスを用いたものが多い。特に地中海沿岸諸国には多く、トルコの一般的なアルコール性飲料である“ラキ(Raki)”の主要スパイスとなっている。また、フランスのアニゼット・リキュールやラテンアメリカの火酒アグアディエンテ(Aguar-dienteサトウキビから作った蒸溜酒)などの香味づけに使われている。

エピソード

  1. 紀元前4000年頃、古代エジプトでは王侯貴族の死体の防腐保存に必要なカシアやシナモンを輸入する以前は、アニスとクミンを使用していた。
  2. 紀元前1552年頃に著され、エジプト最古の医薬書といわれている『エーベルス・パピルス』にもアニスの名が記載されている。
  3. 紀元前1世紀、ミトラダテス大帝の侍医クラチアスは、36種類のスパイスから大帝のために解毒剤を調合したが、この中にはシナモン、カシアなどとともにアニスも入っていた。
  4. シャルルマーニュ大帝(742~814年)は、香料植物を愛好していた。中部ヨーロッパの各地には、今も大帝の造成した香料植物園の遺跡が残っている。大帝は園内にアニスやその他の香料植物を植えさせただけでなく、各家庭にもアニスを植えるよう命じた。このためアニスは広くヨーロッパで栽培されるようになった。
  • 【名称】Anise(英)、遏泥子(中)
  • 【科名】セリ科の一年生草本
  • 【学名】Pimpinell aanisumL.
  • 【原産地】小アジア、エジプト、ギリシア
  • 【主産地】インド、パキスタン、スペイン、イタリア、フランス、トルコ、エジプト、ブルガリア、キプロス、シリア、チリ、イスラエル、レバノン、メキシコ、アメリカ、中国、台湾
  • 【学名の語源】Pimpinella→この属やこれと似た植物に対する古名。最初はPipinellであった。

スターアニス

概要

高さ6m以上に達するシキミ科の樹木で、生育6年後から実をつけ始めて、100年あるいはそれ以上結実し続ける。果実は赤褐色で袋果が星状に並び、中に茶色の扁円形の種子が1個ずつ入っている。スターアニスおよび八角の名称も、この果実の8個の袋果が星状に配置されているところからつけられている。各心皮部には、1つの種子を含んでおり、スパイスとしてのはこの心皮部を利用する。セリ科のアニスの香味と非常に似ており、形状が星形であるところから、スターアニスと英語圏で名づけられている。

香味特徴

スターアニスは、スパイスとして果実全部を収穫するが、芳香成分は各袋果の果皮に含まれており、袋果中にある種子には含まれていない。したがって、種子の混入度が高いほど、品質の評価は悪くなる。また、暗褐色で色調が明るい果実ほど、新しく芳香に富んでいる。スターアニスの香味特徴は、甘い香味感にある。香味特徴がアニスやフェンネルなどによく似ているが、共通の主成分が3種類の中で一番多く含まれているため、甘い芳香感を一番強く感じる。しかし、全体には若干の苦味と渋味が感じられ、このためアニスやフェンネルよりも繊細さにやや欠ける。水蒸気蒸留で得たスターアニス油は、香料原料、医薬として広く用いられている。

料理適性

中国料理によく使われ、特に豚肉と鴨の料理には、重要なスパイスである。肉のロースト臭をとるのに役立ち、また、中国のブレンドスパイスである五香の主要原料である。料理にはフェンネルやアニスの代替品として利用できるが、この場合は使用量を1/3以下にするとよい。ソース、カレーパウダーなどにも使用されることがある。生産国では、昔からこの種子が食後の消化促進や呼気を甘くする効果があるとされ、よく食べられていた。そのため今日でも、精油は歯磨用香料として利用され、口腔清涼用ドロップの香料として用いられている。リキュール類、特にアブサン酒の重要な構成成分でもある。

  • 【名称】Star Anise(英)、八角・大茴香(中)、ハッカク・八角(日)
  • 【科名】シキミ科の常緑樹
  • 【学名】Illicium verum Hooker filius.
  • 【原産地】中国西南部地方(江西省)
  • 【主産地】中国、ベトナム、インドネシア
  • 【学名の語源】Illicium < lillicio→引き寄せる。誘惑するなどの意味をもつが、これは芳香を有するためである。verum→真正の。

特殊(薬理)効果

西洋の民間薬としては、乳汁分泌を促進し、花軸は月経促進、利尿効果があり、腎臓および膀胱疾患時に用いている。漢方では、加減小柴胡湯、安中散、補陰湯などに処方されている。

エピソード

  1. 八角をヨーロッパに初めて伝えたのはイギリスの船乗りで、16世紀末である。
  2. 東洋では昔から、宗教的に香料として用いられ、線香の香料原料であった。日本でも抹香や線香などに使われているが、昔は戦国時代の武士たちが出陣のとき、兜の中にこの香をたきこめたといわれている。
  3. 主産地の中国では、一般的に八角と呼ぶが、地方によっては、大料、大茴香、八角茴香と呼んだりする。
スパイスコーディネーター協会理事長
武政三男 たけまさ・みつお
当協会顧問。(株)スパイススタジオ代表取締役社長。スパイスコーディネーター協会認定スパイスコーディネーターマスター。東京理科大学理学部卒業後、ライオン(株)にてスパイス調理科学の体系化、理論化に力を注ぐ。著書は『SPICESCIENCE and TECHNOLOGY』(アメリカで刊行)、『スパイス百科事典』(文園社)、『スパイス調味事典(』幸書房)『、スパイスの科学(』河出文庫)ほか多数。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第41号 2017年9月