2023.6.2

やけどの治癒過程におけるリコリスの効果

日本メディカルハーブ協会学術委員

河野加奈恵

リコリス(Glycyrrhiza glabra)は、アーユルヴェーダや中医学でも活用され、伝統的に古くから、消化不良、胃・十二指腸潰瘍、咳、および婦人科系疾患に対して利用されてきているメディカルハーブだ。内服だけでなく、外用でも、皮膚炎、やけど、口内炎、およびニキビなどに広く利用されてきている。現代の研究においても、リコリスの主な有効成分であるグリチルリチン酸が抗炎症作用や抗ウイルス作用などを持つことが示され、上述の疾患や炎症性疾患の管理に役立つ可能性が示唆されてきている。

この度、リコリスのやけどの治癒における効果を測る二重盲検ランダム化比較試験がイランで行われた。この研究では、Ⅱ度熱傷(真皮まで達しているやけど)を持つ82人の患者をそれぞれ41人ずつの2つのグループに分け、リコリスグループにはリコリスハイドロゲルを、プラセボグループには偽薬のハイドロゲルを、患部に1日2回15日間塗布し、1日目、3日目、6日目、10日目、および15日目において、痛み、炎症、赤み、灼熱感、および外観について評価した。

試験に使用したハイドロゲルには、メチルパラベン、グリセリン、カルボマー、およびトリエタノールアミンが使用され、それに5%のリコリスが配合された。リコリスに関しては、乾燥させたリコリスの根を粉末状にして溶媒(エタノール、80%)に4時間浸した上で、パーコレーターで抽出したエキスを濾過、傾斜法(デカンテーション)により精製、さらにそれを乾燥させたものをハイドロゲルと混合した。

研究の結果、リコリスグループではプラセボグループと比較して以下の結果が見られた;

  • 痛み:3日目において痛みの減少率が有意に高かった。6日目以降は両グループで痛みはなくなった。
  • 炎症:3日目、6日目、10日目において有意な減少が認められたが、15日目では両グループで差異はなかった。
  • 赤み:6日目以降、有意に改善。
  • 灼熱感:3日目有意に軽減。
  • 外観:10日目までに両グループで改善が見られ有意差はなかったが、15日目では有意に改善した。

この研究では、リコリスはやけどによる傷の治癒を加速させ、軽度および中等度のやけどの補完的治療として考えられると結論づけられている。

リコリス根には、トリテルペン、サポニン、フラボノイド、イソフラボン、ヒドロキシクマリン、ステロール、および精油などいくつかの化合物が含まれている。その中でも最も重要な活性成分はグリチルリチン酸だ。リコリスはこれまで多くの研究が行われており、グリチルリチン酸には、プロテインキナーゼC、ホスホリパーゼA、ホスホジエステラーゼ、プロスタグランジン、ヒスタミンなどの炎症因子を抑制し、また、リコリス根に含まれるフェノール化合物は、シクロオキシゲナーゼ、一酸化窒素合成酵素、腫瘍壊死因子α(TNFα)、インターロイキン6(IL6)の発現を調節することにより、細胞内のフリーラジカルと炎症プロセスを減少させる抗炎症作用を示すことがわかっている。

また、免疫調節作用、神経保護作用、メラニンの生成反応を抑制する美白効果、また、大腸菌、サルモネラ、黄色ブドウ球菌、およびカンジダに対して抑制効果を示す抗菌および抗真菌作用もあることから、優れた抗炎症作用に加えこれら様々な作用が相乗効果をもたらし、感染が抑えられ、痛みも和らぎ、傷の治癒がより促進されると考えられる。

また、リコリスの局所的な使用による副作用は報告されなかったが、リコリスの経口摂取においては、過剰摂取により、浮腫、高血圧、低カリウム血症、および倦怠感などの症状で現れる偽アルドステロン症を引き起こす可能性があるため注意が必要だ。

〔文献〕

Zabihi M, et al. Impact of licorice root on the burn healing process: A double-blinded randomized controlled clinical trial. Complement Ther Med. 2023 May;73:102941. DOI: 10.1016/j.ctim.2023.102941. Epub 2023 Mar 2. PMID: 36870516.