2024.1.10

システムバイオロジーの観点からみた脳細胞に対するハーブ抽出物のアダプトゲン効果の分子メカニズム

日本メディカルハーブ協会学術委員

村上志緒

「植物アダプトゲンの歴史と将来の展望」というタイトルのレビュー1)では、アダプトゲンについて、「酸素消費量を増やすことなく、物理的負荷に対する体の安定性を高める能力を持つ合成化合物または植物抽出物」と定義して、以下の植物由来の抽出物は、天然に存在する植物のアダプトゲンであり、天然のアダプトゲンの使用には豊かな歴史があり、病気、体力の低下、記憶障害、その他の状態からの回復に使用されてきたと述べている。

  • コリアンジンセン/オタネニンジン ウコギ科 Panax ginseng
  • シベリアンジンセン/エゾウコギ ウコギ科 Eleutherococcus senticosus
  • ラポンティクム/マラル キク科Rhaponticum carthamoides
  • ロディオラ/イワベンケイ ベンケイソウ科Rhodiola rosea
  • シサンドラ/チョウセンゴミシ マツブサ科Schisandra chinensis

今回紹介する研究論文2)では、植物アダプトゲンについては、その適応的ストレス応答および長寿シグナル伝達経路のメディエーターに及ぼす影響が報告されているが、そのストレスからの保護機構はまだ完全には理解されていないとし、これまでストレスや老化に関連する不調や障害の治療に伝統的に使用されてきたアダプトゲンハーブとして、ロディオラ、エゾウコギ、シサンドラ、アシュワガンダ(ナス科 Withania somnifera)、ラポンティクム、ブリオニア(ウリ科 Bryonia alba)について、そのアダプトゲン作用の要因となる分子機構を特定することを目的に、システムバイオロジーという観点からアプローチしている。

方法は、アダプトゲン適応時のT98G神経膠腫細胞株における遺伝子発現の変化をプロファイリングとして、in silicoパスウェイ解析ソフトウェアを使用して、RNA配列決定し、制御不全の遺伝子と適応的ストレス応答シグナル伝達経路との関連性を解析して、アダプトゲンの根底にある分子メカニズムを調べた。

結果を以下に示す。

  1. アダプトゲンによって調節される3516個の遺伝子のうち少なくとも88個は、以下に示すような適応ストレス応答および適応ストレス応答シグナル伝達経路と密接に関連していた。
    • コルチコトロピン放出ホルモン、cAMP依存性プロテインキナーゼ(Aキナーゼ)およびCREB(cAMP応答配列結合タンパク質)
    • CXCR4、メラトニン、一酸化窒素シンターゼ、GP6、Gαs、MAPK(分裂促進因子活性化プロテインキナーゼ)、神経炎症、神経性疼痛、オピオイド、レニン-アンジオテンシン、AMPK (AMP活性化プロテインキナーゼ)、Ca2+およびシナプス
    • 樹状細胞の成熟と、腸内分泌細胞でのセンシング機構に関与するGタンパク質共役型受容体
  2. 試験したすべての試料は、神経ホルモン CRH、GNRH、UCN、G タンパク質共役型およびその他の膜貫通受容体 TLR9、PRLR、CHRNE、GP1BA、PLXNA4、リガンド依存性核受容体 RORA、膜貫通チャネル、転写をコードする遺伝子の発現に有意な影響を示した。
  3. 調節因子 FOS、FOXO6、SCX、STAT5A、ZFPM2、ZNF396、ZNF467、プロテインキナーゼであるMAPK10、MAPK13、MERTK、FLT1、PRKCH、ROS1、TTN)、ホスファターゼPTPRD、PTPRR、ペプチダーゼ、代謝酵素、シャペロン (HSPA6)などのタンパク質はすべて、多数の生命プロセスを調節し、生物の防御反応と恒常性の調節に関与するいくつかの標準的な経路で重要な役割を果たしている。
  4. これら植物アダプトゲンの作用メカニズムは、メラトニンと類似していて、試験したすべてのアダプトゲンは、2つのGタンパク質共役膜受容体MT1、MT2、および加齢に伴って現れる一般的な知的障害、神経障害、網膜症、高血圧、脂質異常症、癌に関与するリガンド特異的核内受容体 RORAをアップレギュレーションし、メラトニンシグナル伝達経路を活性化した。
  5. 対象となったすべてのアダプトゲンハーブが、メラトニンの適応シグナル伝達経路を活性化し、一般的に制御されているUCN、GNRH1、TLR9、GP1BA、PLXNA4、CHRM4、GPR19、VIPR2、RORA、STAT5A、ZFPM2、ZNF396、FLT1、MAPK10、MERTK、PRKCH、TTNの発現のアップレギュレーションを起こした。

メラトニンは恒常性の調節において重要な役割を果たしている適応ホルモンであり、アダプトゲンハーブはおそらく、適応ストレス応答、適応ストレス応答シグナル伝達経路の発現を誘導することによって細胞の適応システムを活性化するユーストレッサー(「ストレスワクチン」)として働き、ストレスによって引き起こされる損傷から相互に細胞を保護したと考えられる。また、相互作用経路解析による機能研究により、アダプトゲンが、慢性炎症、心血管の健康、神経変性認知障害、代謝障害、がんなどのストレス誘発性疾患や加齢関連疾患に関連する適応ストレス応答、適応ストレス応答シグナル伝達経路活性化することが示唆された。

以上、本論文に述べられたように、これまでアーユルヴェーダや中医学、民間医療などで長い活用の歴史をもつ世界各地のアダプトゲンハーブが、ストレスにどのように適応できるかという、私たちの健やかさの要因にはたらきかけるメカニズムが解明されていくことは非常に興味深い。

〔文献〕

  1. Todorova V, Ivanov K, Delattre C, Nalbantova V, Karcheva-Bahchevanska D, Ivanova S. Plant Adaptogens-History and Future Perspectives. Nutrients. 2021 Aug 20;13(8):2861. doi: 10.3390/nu13082861.
  2. Panossian A, Seo EJ, Efferth T. Novel molecular mechanisms for the adaptogenic effects of herbal extracts on isolated brain cells using systems biology. Phytomedicine. 2018 Nov 15;50:257-284. doi: 10.1016/j.phymed.2018.09.204.

参考)

  • システムバイオロジー:
    遺伝子やタンパク質、代謝物、細胞などから構成されるネットワークを生命システムとして捉え、ネットワークの生物的機能がどのように制御され、環境の変動に対して自律的に動作するか等を明らかにし、ダイナミックな生命現象を統合的に理解する研究。