2023.1.13

カレンデュラの研究情報

日本メディカルハーブ協会学術委員

村上志緒

カレンデュラ(キク科 キンセンカ属 Calendula officinalis:Calendula, Pot Marigold)は、日本名をトウキンセンカ(唐金盞花)といい、明るい橙黄色の花を咲かせ、薬効とともにその愛らしい姿からも親しまれてきました。

メディカルハーブとしてのカレンデュラは花の部分を用い、損傷を受けた皮膚や粘膜を修復、保護する創傷治癒の効果が大きいことがまず挙げられます。そして長い歴史の中で用いられ、安全性も確信されており、子供にも安心して活用できることも嬉しいハーブです。

カレンデュラの花弁を植物油で浸出したカレンデュラ油とミツロウで作ったカレンデュラ軟膏は万能軟膏として知られており、子供のおむつかぶれや外傷、火傷、口唇の荒れ、湿疹などに活用されています。

『東西生薬考』(創元社)には、カレンデュラの薬効について、16世紀、フックスの本草書に「この花をワインに入れて飲むと月経をもたらす。全草についても同様のことが言える。それを口に一定時間含んでいると歯痛を去る。花や全草を炙って出る煙を下から受けさせるようにすると強力に胎児を娩出させる。花を灰汁に入れたものを塗ると美しい金髪になる。」と記されていることや、ボックが「外用が主であり、花を水で煮たものの点眼が目の充血によいことや、歯痛、茎の外皮とウイキョウを混ぜてワインと油で煮詰めてバームにして塗ると脾臓や冷えた胃を治す」と述べていることが記されています。

研究情報 

PubMed(米国NIHの医学生物学文献検索システム)にて、学名をキーワードにサーチすると、カレンデュラに関する文献が633件ヒット(11/10/2022現在)、主にa)創傷治癒の促進、b)抗酸化、c)抗炎症、d)抗がんなどの研究報告があり、特徴としては以下が挙げられます。

・ 抗酸化、抗炎症については、創傷治癒と結びつけた研究が多い。
・ 外用でよく用いられるが、内服することにより同様の効果が得られるという報告がある。
・ 最新の研究では抗がん作用についてのものもある。
 
今回は、カレンデュラの研究情報について報告されているものの中からいくつかをご紹介いたします。

〔1〕〔2〕については、子供のおむつかぶれについての臨床研究です。

〔1〕子供のおむつ皮膚炎(おむつかぶれ)に対するアロエベラとカレンデュラの局所的治療効果に関するランダム化比較試験

[目的]

おむつ皮膚炎は、乳幼児の間で一般的な炎症性疾患である。この無作為二重盲検試験の目的は、子供のおむつ皮膚炎の頻度と重症度に対するアロエベラクリームとカレンデュラ軟膏の治療効果を比較することであった。

[方法]

おむつ皮膚炎のある3歳未満の乳幼児 66人を無作為に割り付けて、アロエクリーム(n = 32)またはカレンデュラ軟膏 (n = 34)を1日3回、10日間局所的に塗布した。皮膚炎の重症度は、ベースライン時と試験終了時に5段階で評価された。クリームや軟膏の副作用も併せて評価された。

[結果]

両方の治療グループでおむつ皮膚炎の重症度の改善が観察されたが(P < 0.001)、カレンデュラ軟膏グループは、アロエグループと比較して発疹部位が有意に少なかった(P = 0.001)。どちらからも副作用は報告されていない。

[考察]

この研究から、アロエ、特にカレンデュラが乳幼児のおむつ皮膚炎の治療に安全かつ効果的な治療法として役立つ可能性があることを示唆された。

[文献] Yunes P. et.al., A randomized comparative trial on the therapeutic efficacy of topical Aloe vera and Calendula officinalis on diaper dermatitis in children. ScientificWorldJournal. 2012;2012:810234.

〔2〕子供のおむつ皮膚炎に対するオリーブ軟膏とカレンデュラ軟膏の局所塗布の効果の比較:三重盲検無作為化臨床試験

[目的]

この研究では、子供のおむつ皮膚炎に対するオリーブ軟膏とカレンデュラ軟膏の局所適用の効果を比較した。

[方法]

  1. この臨床試験は、イランのタブリーズにある小児医療センターでおむつ皮膚炎の2歳未満の73人の健康な子供に対して実施された。
  2. 子供たちは、ランダムブロック法により、2:2 の比率で1.5%オリーブ軟膏(n = 37)と1.5% カレンデュラ軟膏(n = 39)の塗布グループに割り当てられた。
  3. 0日目(介入前)と介入後3、5、7日に両群のおむつ皮膚炎の重症度を6段階で比較した。

[結果]

  1. オリーブ軟膏とカレンデュラ軟膏はおむつ皮膚炎の治癒に効果があった。
  2. 3日目、5日目、7日目の重症度に関して、オリーブとカレンデュラのグループの間に有意な統計的差がないことが明らかとなった。
  3. この研究では、いずれの薬剤による副作用も報告されていない。

[結論]

オリーブ軟膏とカレンデュラ軟膏はおむつ皮膚炎の治癒に同じ結果をもたらした。両方ともおむつ皮膚炎の治療方法の選択肢の一つとなりうる。

[文献] Zahra SH et.al., Comparison the effects of topical application of olive and calendula ointments on Children’s diaper dermatitis: A triple-blind randomized clinical trial. O Dermatol Ther. 2018 Nov;31(6):e12731.

〔3〕カレンデュラ抽出物の創傷治癒の効果に関する機能性の評価(レビュー)

[目的]

創傷治癒のための補完代替医療の方法を用いることは、西洋医学での医療にも影響を与えている。このレビューでは、カレンデュラ花エキスと対照(カレンデュラを用いない)との創傷治癒に関するin vivo(生体での)での研究について報告された論文を考察することにより、カレンデュラの創傷治癒の効果について検討する。

[方法]

  1. 対象となる論文は、 PubMed,EMBASE,Cochrane Central Register of Controlled Trials,CINAHL,Scopus(2018年4月まで)といった医学生物学系論文の検索システムで行った。
  2. 7つの動物実験と7つの臨床試験からなる14の研究が考察の対象として選ばれた。

[対象とした論文から得られた結果]

  1. 急性の創傷治癒に関する6つの研究(5つの動物実験と1つの無作為化比較試験による臨床研究)では、カレンデュラ抽出物で処理されたグループにおいて、治癒時の肉芽組織の産生が促進され、炎症が対照と比較してより早く改善されたとの結果を得ている。
  2. 静脈うっ滞性潰瘍に関する2つの臨床研究では、対照と比較して潰瘍の表面積の減少が示されている。しかし、糖尿病性下腿潰瘍についてはカレンデュラによる改善は見られなかった。
  3. 火傷については、2つの動物実験により、熱傷前にカレンデュラ抽出物を適用することにより、熱傷の予防的な効果があることを示している。
  4. 部分的または全層熱傷の患者の無作為化臨床試験は、対照と比較してカレンデュラ抽出物の局所適用は有効性を示さなかった。
  5. 放射線照射後に起こる皮膚炎についてもトロラミン(外傷と潰瘍治療用の医薬品)と比較して、予防効果があることが示されている。

[結論]

このレビューでは、カレンデュラ抽出物の創傷治癒における有益な効果についてのいくつかのエビデンスを特定した。これは、伝統的にカレンデュラが活用されている理由付けの要因として一致している。合併症を含む創傷治癒に対するカレンデュラの効果を評価するためには、さらに大規模で適切にデザインされた無作為化対照試験が必要である。

[文献] Givol O et.al., A systematic review of Calendula officinalis extract for wound healing. Wound Repair Regen. 2019 Sep;27(5):548-561.

〔4〕カレンデュラの外用と内服による創傷治癒効果

[目的]

本研究では、カレンデュラの花エキスが、ラットの外傷の治癒にどのくらい効果を発揮するかどうかについて調べている。

[方法]

外傷を受けた後、カレンデュラの花エキスで処理したグループとしない対照グループに分かれて、8日後の状態で比較した。処理したグループはカレンデュラエキスの内服、またはカレンデュラエキスの外用を施した。

  1. 効果の度合いは、外傷部位の上皮化に要する日数と外傷部位がどのくらい修復しているかによって検討した。
  2. 創傷治癒時に増殖する肉芽組織中のコラーゲンの主要成分であるヒドロキシプロリンの変化を調べた。
  3. 粘液中に含まれ、傷の修復に関連しているとされるヘキソサミンの量についても調べた。

[結果]

  1. カレンデュラグループでは、内服でも外用でも、外傷部の90.0%が修復した。
  2. 対照グループでは修復率は51.1%にとどまった。
  3. 外傷部位の上皮化では、対照グループでは17日を要した。
  4. 外傷部位の上皮化について、カレンデュラを20㎎/㎏、または100㎎/㎏用いたグループでは各々14日、13日に短縮された。
  5. ヒドロキシプロリンはカレンデュラグループで顕著に増大した。
  6. ヘキソサミンもカレンデュラグループで顕著に増大した。

[結論]

コラーゲンの主要成分ヒドロキシプロリン増加、外傷部位の上皮化も促進、カレンデュラの創傷治癒効果が飲んでも塗っても得られることが示唆された。

[文献] Preethi KC et.al., Wound healing activity of flower extract of Calendula officinalis. J Basic Clin Physiol Pharmacol. 2009;20(1):73-79.

〔5〕カレンデュラを内服することにより、外用と同様に紫外線による酸化ストレスからの防御効果がある

[目的]

カレンデュラはクリームなどで外用することにより、皮膚の保護作用、創傷治癒作用があり、活用されている。カレンデュラを内服した場合、このような効果があるか否かを検討する。

[方法]

カレンデュラ水性アルコールエキスの抗酸化特性と毒性について、培養細胞を用いて調べた。また、ヘアレスマウスにカレンデュラエキスを与え、紫外線での酸化ストレスからの皮膚保護作用について、皮膚損傷のレベルを示すグルタチオンとマトリックスメタロプロテイナーゼの活性を調べた。

対象:培養細胞とヘアレスマウス

方法:

  1. 紫外線による酸化ストレスを与える。
  2. 培養細胞にはカレンデュラエキスを付与
  3. へアレスマウスには150及び300㎎/㎏の濃度での内服

[結果]

以下のとおりである。

  1. カレンデュラエキス150及び300㎎/㎏の内服により、グルタチオンのレベルは紫外線の照射を受けないマウスとほぼ同様となった。
  2. 紫外線照射により変化するマトリックスメタロプロテイナーゼ2及び9の活性への影響もあることが明らかとなった。
  3. カレンデュラの抗酸化作用は濃度依存的である。
  4. 細胞毒性については15㎎/mL以下では見られないが30㎎/mL以上でみられる。
    これらの結果より、カレンデュラは抗酸化作用を有し、内服することにより皮膚の損傷を予防する効果があると示唆された。

[結論]

以下のことが本研究により明らかになった。

  1. 紫外線照射によりグルタチオンのレベルがあがる。
  2. マトリックスメタロプロテイナーゼ2及び9は紫外線照射により影響を受ける。
  3. カレンデュラの内服によって紫外線照射での皮膚ダメージを緩和できる。
  4. 内服と外用の効果について共通性があった。

[文献] Fonseca YM et.al., Protective effect of Calendula officinalis extract against UVB-induced oxidative stress in skin: evaluation of reduced glutathione levels and matrix metalloproteinase secretion. J Ethnopharmacol. 2010;127(3):596-601.

〔6〕カレンデュラは抗酸化作用、脂質の過酸化を防ぐ作用をもつ

[目的]

カレンデュラは古くから用いられてきた薬草である。カレンデュラのもつ抗酸化作用について調べる。

[方法]

  1. カレンデュラ乾燥花部を50%エタノールに浸漬した。
  2. その濃縮濾過液のn−ヘキサン、ジクロロメタン、酢酸エチル、n−ブタノールによる抽出の各分画を得た。
  3. 細胞毒性が最も小さかったブタノール分画を用いて、カレンデュラの効能と抗酸化作用との関連についてラットの肝臓で検討した。
  4. ラット肝細胞にブタノール分画0.5~10.0㎎/mLを加えて培養した。
  5. 以下のパラメータについてどのように変化するか検討した。
    ・ 細胞の生存状態を分光測光法によって測定。
    ・ 細胞呼吸の状態
    ・ スーパーオキサイドラジカルとハイドロキシラジカル(活性酸素)
  6. 肝臓ミクロソームの脂質の過酸化を、鉄イオン/アスコルビン酸塩で誘起し、それにカレンデュラがどのように影響するかを、過酸化脂質生成の指標TBARS(チオバルビツール酸反応性物質)で検討した。

[結果]

  1. カレンデュラのブタノール分画を培養肝細胞に付与することにより、スーパーオキサイドラジカル及びハイドロキシラジカル共に濃度依存的に減少させ、活性酸素除去のはたらきをすることが示唆された。
  2. 脂質の過酸化については、カレンデュラが、生成の指標TBARS(TBARS濃度を濃度依存的に減少させたことが確認された。

[結論]

カレンデュラのブタノール分画は、活性酸素を除去するフリーラジカルスカベンジャーとしての作用を有しており、抗酸化作用、脂質の過酸化抑制作用をもつことが示された。これがカレンデュラの効能をもたらす大きな一因と考えられる。

[文献] Cordova CA et.al., Protective properties of butanolic extract of the Calendula officinalis L. (marigold) against lipid peroxidation of rat liver microsomes and action as free radical scavenger. Redox Rep. 2002;7(2):95-102.

※その他、皮膚の創傷治癒以外の研究報告には、抗がんなどについての報告がある。

〔7〕カレンデュラはいくつかのがん細胞に対して、アポトーシスを誘起するメカニズムをもち、抗がんの効果をもつことからがん治療の選択肢となりうる。

[文献] ICruceriu D et.al., Calendula officinalis: Potential Roles in Cancer Treatment and Palliative Care. Integr Cancer Ther. 2018 Dec;17(4):1068-1078.

〔8〕カレンデュラ抽出物でのマウスウォッシュは、抜歯後の骨の状態をよくする効果を有する。

[文献] Uribe-Fentanes LK, Soriano-Padilla F, Pérez-Frutos JR, Veras-Hernández MA.
Action of Calendula officinalis essence on bone preservation after the extraction. Rev Med Inst Mex Seguro Soc. 2018 Jan-Feb;56(1):98-105.

日本メディカルハーブ協会学術委員
村上志緒 むらかみしほ
株式会社トトラボ代表。薬学博士・理学修士。早稲田大学及び大学院理工学研究科修了。東邦大学大学院薬学研究科修了。植物療法学(民俗薬草文化、作用機序、特に向精神作用)を研究。日本、ネイティブアメリカン、そして南太平洋フィジーのハーブが研究テーマ。ハーブやアロマテラピーといった植物療法について、自然・生活文化・科学の観点から学ぶ講座を「トトラボ植物療法の学校」にて展開。東邦大学薬学部訪問研究員。東京都市大学など非常勤講師。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第62号 2022年12月