2022.7.16

植物たちが秘める健康力「食べる“お薬”」となる食材植物

甲南大学特別客員教授

田中修

「医食同源」という言葉があります。病気を治すお薬と食べ物とは、本来、根源が同じものであるため、身体に良いものを食べることが健康に大切であり、食生活が医療に通じるという意味です。そこで、「お医者さんを遠ざける」や、「『不老長寿』や『不老不死』を求められる」野菜や果物を、前々号、前号で取りあげました。今回は、「食べる“お薬”」となる食材植物について紹介します。

「食べる予防薬」とは?

キャベツやタマネギが「食べる薬」といわれることがあります。キャベツは「貧者の医者」として、タマネギは「一日一個で、医者を遠ざける」として、前々号で紹介しました。ここでは、「食べる予防薬」とよばれる植物を取りあげます。

これは、中国の西部を原産地とする野菜ですが、日本でも、古くから栽培されています。疲労を回復し、血行を促進し、胃腸の調子を整えます。この植物は、ニラです。

ニラは、ビタミンB1の吸収を促進します。ビタミンB1は、食べ物を消化してエネルギーを取り出すために必要ですが、吸収されにくい物質です。そこで、ニラは、ビタミンB1を多く含む牛や鶏のレバーなどを組み合わせ、ニラレバ炒めとして食べられます。すると、ビタミンB1がよく吸収されるので、この料理は疲労回復や滋養強壮に役立ちます。

ニラの食用部である葉っぱを採取するときに、形の似たスイセンの葉っぱが間違って混じると、食中毒がおこります。スイセンには、リコリンという有毒物質が含まれるからです。そのため、家庭菜園などでニラを栽培する場合、スイセンと混植しないように注意が必要です。

「食べる風邪薬」とは?

この植物は、地中海沿岸地方が原産地で、室町時代に、中国から日本に伝わりました。春に、キクのような花が咲くことが、この植物の名前の由来です。関西では、「キクのような花を咲かせ、葉や茎を食べる野菜」という意味で、「キクナ(菊菜)」とよばれます。

これは、シュンギクです。強い香りの成分は、マツの香りとされるピネンや、シソの香りであるペリルアルデヒドなどです。鍋料理、和え物、天ぷらなどに使われます。カロテンや、ビタミンB群、ビタミンCが豊富に含まれており、カルシウム、カリウム、鉄分などのミネラルも豊富です。

冬の鍋物などでよく食べられるので、「食べる風邪薬」とよばれるのです。といっても、風邪に対する効果だけでなく、食欲増進や整腸作用、リラックス効果をもたらすといわれます。

「食べる万能薬」とは? 

ピラミッドや万里の長城を建設する労働者に与えられ、「食べる万能薬」といわれる植物があります。これには、疲労を回復させ、体力を増強する効果があるからです。このため、「農夫の万能薬」ともよばれます。

この植物の原産地は西アジアで、英語名は「ガーリック」です。これは、日本最古の歴史書である『古事記』や、奈良時代に完成した『日本書紀』、『万葉集』に記載されており、日本には、古くに中国や朝鮮から伝来したとされます。

近年、この植物のガンを予防する効果が注目されます。1990年、アメリカの国立ガン研究所を中心に、ガン予防に効果が期待できる順に約40種類の野菜をピラミッド型に並べた「デザイナーフーズ・ピラミッド」が発表されました。この野菜は、その頂点に位置しました。

この野菜の臭いのもとは、「アリシン」という物質です。アリシンには、疲労回復、滋養強壮、殺菌力、胃液の分泌を促し、腸の働きを促進する効果があるといわれます。これはニンニクです。

近年、ニンニクを高い温度や湿度の条件で、熟成させた黒ニンニクに、アルツハイマー病を防ぐ「S-アリルシステイン」という成分が見つけられました。これをマウスに与えると、アルツハイマー病の原因となるアミロイドベータがつくられるのを防ぐことが示されています。

もう一つの「食べる万能薬」とよばれるのは、ショウガです。この原産地は熱帯アジアで、英語名は、「ジンジャー」です。学名は、「ジンギベル・オフィキナレ」で、「ジンギベル」はショウガ属であることを示しますが、「オフィキナレ」は、「薬効がある」という意味です。

茎や根茎が食用部です。ショウガは、脂肪を燃焼させ、からだを温めます。そのため、近年、この効果を期待したクッキーやお茶など、ダイエット用の食品が開発されています。

この植物には、ジンゲロールやショウガオール、ジンゲロンなどの辛み成分とともに、ジンギベレンやシネオールなどの香りがあります。これらの成分は、強い殺菌力をもつと同時に、胃液の分泌を促し、食欲を増進し、消化吸収力を高めます。ショウガは、ガン予防効果の「デザイナーフーズ・ピラミッド」では、ニンニクに続く上位のグループに入っています。

ちなみに、お寿司などに添えられる甘酢味の薄切りのショウガは、「がり」とよばれますが、この名前は、「昔、大きなショウガを、『がりがり』と噛んで食べていたから」といわれます。

甲南大学特別客員教授
田中修 たなかおさむ
京都大学農学部卒、同大学院博士課程修了(農学博士)。米国スミソニアン研究所博士研究員などを経て、現職。近著に、令和の四季の花々を楽しむ『日本の花を愛おしむ』(中央公論新社)、食材植物の話題を解説した『植物はおいしい』(ちくま新書)、草・木・花のしたたかな生存戦略 を紹介した『植物はなぜ毒があるのか』(幻冬舎新書)など。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第60号 2022年6月