2021.4.4.

日本のハーブ #47 クセキ(狗脊)は二種のシダ

昭和薬科大学 薬用植物園 薬用植物資源研究室 研究員

佐竹元吉

クセキ(狗脊)は、犬の背と書き、『神農本草経』の中品に記されている生薬である。『本草綱目』を書いた李時珍は「狗脊に二種ある。一種は根が黒色で狗の脊骨のようなもので、一種は黄金色の毛があって狗の形のようなものだ。いずれも薬用になる。その茎は細く、葉は大葉蕨に似ており、貫衆カンジュウの葉のようでもあるが、葉に歯があって表、裏共に光る。根は太さ拇指ほどで硬い黒鬚がむらがっている」と記し、趙學敏の『本草綱目拾遺』にも「根の形は狗の脊骨に似ており、毛は狗の毛のようで黄、黒の別がある」とある。これらの記載から種の特定は難しいが、『植物名実図考』にはシシガシラ科のコモチシダ属の植物が描かれ、李時珍のいう黒狗脊に相当するものと思われる。一方の黄金色の毛があるものは、現在、市場の金毛狗脊キンモウクセキと同一で、タカワラビ Cibotium barometz の根茎と考えられる。

中国葯典では、狗脊は金毛狗脊的干燥根茎の根茎と記してある。『植物名実図考』の図からコモチシダ属(Woodwardia)の根茎が想像できる。昭和薬科大学の薬草園で栽培されている狗脊について述べる。

1. タカワラビ

根茎や葉の柄のつけ根の部分は黄褐色の軟らかい毛に被われる。葉はきわめて大型で、葉は長さが2m〜3m、3回羽状に深く裂ける。葉身は3回羽状複生、葉の裏は粉白。胞子囊群は裂片の基部について、葉の下面に屈曲し、葉縁の側脈上に包膜を着ける。

本種は、日本では奄美群島の沖永良部島より南に分布する。台湾、中国南部、インドシナ半島、マレーシアなどにも分布する。

根茎を乾燥したものを生薬で金毛狗脊といい、肝臓や腎臓に効用があるとされる。金毛狗脊は、原形生薬は不規則な長い塊状で、長さ8〜18cm、直径3〜7cm。表面にはつやのある黄金色の長い柔毛があり、上部に赤褐色で木質の葉柄数個が見える。狗脊片は不規則な長方形、円形あるいは長楕円形で、縦に切ったものは長さ約6〜20cm、幅3〜5cm、横に切ったものは直径2.5〜5cm、厚さ2〜5mm、縁はともに不規則である。葉質は堅くて折れにくい。産地は中国西南部各省である。

タカワラビ / 薬草園温室  1)
タカワラビ / 薬草園温室  2)
金毛狗脊 全形  3)
金毛狗脊 切片  4)

2 .コモチシダ類

李時珍のいう黒狗脊に相当するものと思われるものが、コモチシダとハイコモチシダである。

コモチシダ Woodwardia orientalis の根茎は太くて短く、横に這い、その表面は大きな鱗片で被われている。鱗片は長さ3cmほどになり、明るい褐色で光沢がある。

葉柄は長さ30〜60cm、葉身は30cm〜2mである。葉柄は太く、基部には鱗片が多い。葉身は広卵形、二回羽状に裂ける。それぞれの葉先は少しとがっている。

葉質は厚みのある革質で、表面につやがあり、葉の縁には細かい鋸歯があり、裂片の先端はと がる。胞子嚢群は細長い。成長した葉には、表面のあちこちから無性芽が出て、小さな葉を出す。

コモチシダの不定芽  5)

ハイコモチシダ Woodwardia unigemmata は、コモチシダに類似しているが、葉の先端近くの中軸の裏側に米粒大から指頭大の褐色の鱗片に被われた不定芽(無性芽)を1〜3個つける。これが地面に接すると鮮紅色の新芽を生じ、新しい個体となる。国外では中国南部・台湾からヒマラヤにかけて分布するが、国内では九州南部と伊豆半島に分布するのみである。このシダは、大正6年(1917)に国内ではじめて浄蓮の滝で群落が発見されたため、別名をジョウレンシダという。

コモチシダとハイコモチシダが生育している熊本県や静岡県伊豆半島では、両種の雑種が見られる。伊豆半島の西側の仁科川流域で発見されたものにイズコモチシダ Woodwardia x izuensis Sa.Kurata がある。伊豆半島を再三訪れてシダの採集していた倉田悟先生が生育地にちなんで命名された。葉の先端部分に不定芽をつけ、葉の上面にも不定芽が見られる種である。

イズコモチシダ 葉  6)
イズコモチシダ 不定芽  7)

クセキの薬効 :『神農本草経』に「腰、背のこわばり、関節の拘痛、全身麻痺、膝痛を主治す」、『名医別録』に「脊を堅くして俯仰を利し、婦人の傷中で関節の重きを治す」とあり、古来、腰や膝の疼痛、背腰のこわばりなどに用いられてきた。

【写真提供】
1)2)5)6)7) : 昭和薬科大学 薬用植物園 中野 美央氏
3)4) : 株式会社栃本天海堂 松島成介氏

昭和薬科大学 薬用植物園 薬用植物資源研究室 研究員
佐竹元吉 さたけもとよし
当協会顧問。沖縄美ら島財団研究顧問。1964年東京薬科大学卒業。国立医薬品食品衛生研究所生薬部部長、お茶の水女子大学生活環境研究センター教授、富山大学和漢医薬学総合研究所・お茶の水女子大学客員教授を歴任。著書『第17改正 日本薬局方生薬等の解説書』(共著・廣川書店)他。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第55号 2021年3月