2021.4.1.

樹木たちが発信しているメッセージを聞いてほしい

樹木医

本位田有恒

樹木は、いつも私たちの周りにいます。近づいてよく観察してみると幹や枝、葉の状態や根の張り方の様子がわかるでしょう。中には人間が気づかずに傷つけたり、間違った手入れをしたりしているものもあります。ただ樹木は言葉を発することができません。動くこともできません。だからこそ、樹木たちが発信しているメッセージを聞いてほしいのです。

樹木を観る

皆さんが改めて思い浮かべる樹木はどのような形でしょうか。樹木が本来もっている姿のことを「樹形」といい、種類や育つ環境・場所によって違いがあります。

特徴的な姿としては、ヒノキやサワラ、クリスマスツリーに使われるドイツトウヒやヒマラヤスギなどのように幹がまっすぐ上に伸びていき枝葉をつける円錐形。この形を上下逆にし、手を空に広げているかのような逆円錐形(盃形)のケヤキ。こんもりとした姿の代表クスノキは広卵形などと樹種によっておおよそ形が決まっています。その姿は年と共に変化しますが、環境によっても姿が変わっていきます。街路樹は環境に大きく影響を受けており、高さ、枝張り、根の張り方など本来の樹形とは違うものにならざるを得ない場合も多々あります。また剪定をすることで人工的に形を作る生垣や刈込型の樹形もあります。様々な樹形を知ることで、樹木からのメッセージが伝わります。

[ 樹形の種類 ]

円錐形 ヒマラヤスギ
逆円錐形(盃形) ケヤキ
広卵形 クスノキ
枝垂形 シダレエンジュ
人工樹形(トピアリー)

樹木を診る

次は樹木が元気でいるかどうかを見てみましょう。樹木がいきいきと健全に生育している姿を「樹勢が保たれている」といいます。常に樹木は雨風、日照りなどからストレスを感じていますが、それ以上のストレスを受けた時、健全性が保たれなくなります。その姿はしおれていたり、葉のつき方がまばらであったりすることが多いのですが、ポイントは枝の伸び方や、色つや、葉の大きさ。樹木診断の際は外観をよく観察することが必要です。

[ 樹木診断のポイント ]

▶︎樹形が乱れている

幹や大枝などが枯れてなくなるなどの本来の樹形でなくなっている

樹形の乱れ

▶︎樹勢が弱っている

旺盛な生育が見られない

樹勢が弱い

▶︎幹・大枝に異常がある

先端だけ枯れている、折れている、内側に丸まっている、減少している

幹・大枝異常

▶︎枝に異常がある

先端だけ枯れている、折れている、内側に丸まっている、減少している

枝の異常

▶︎葉の大きさ・色・形に異常がある

緑色が薄い、葉に穴があいている、葉の数が少ない

葉の異常

▶︎根や根元に異常がある

キノコが発生している、根元が揺らいでいる、ひこばえが多い

根や根元の異常

※ これらは診断の一部で、生育環境、気候(天候)、管理状況などを含めて総合的に診断を行います。
[ 精密診断 ]
幹や枝にキノコが発生していると心材部分(中心部)が空洞になっていることがあります。これは外観だけではわかりません。そこで機器を使って診断します。その1つがレジストグラフという機器です。細いドリルを使って樹木に穴をあける際の抵抗値をグラフにすることで可視化します。街路樹の危険度判定にも使用されています。

診断機器:レジストグラフ

樹木との会話(手入れ)

重要な手入れの1つ、剪定は目的をもって枝などを取り除くことですが、大事なのは伐った後どうなるかを考えて樹形を整えることです。樹木は自然環境の中では整った樹形にはなりくいのですが生育環境や樹形を整えることで、目標とする姿にすることができます。また病気や虫害の防除、腐ってしまった枝や風で折れた枝を取り除くこと、硬くなってしまった土壌を改善することなども健全に生育するために必要な手入れです。

そして手入れをする際に大事なのは、樹木からのメッセージを読み取ることで、本当に樹木が望んでいることがわかるはずです。それが樹木との会話です。

樹木との共存

都市のみどりとして重要な位置を占める街路樹や住宅、ビルの樹木。しかし、年数が経って大きくなり共存できなくなっていることもあります。今まで私たちと一緒に生長し、木陰をもたらし、花などを楽しませてくれた樹木を伐らなければならない時、いろいろな方法を考えてみてください。伐り方を工夫して萌芽更新させることもできるかもしれません。また伐採しなければならなくなっても、木材としての利用を考えることもできます。

伐ると「かわいそう」、「もったいない」と思う方もいるかもしれません。しかし、私たちは昔から建築材料や家具、道具などに利用して樹木と共存してきました。元気に育てるのはもちろん、感謝をもち無駄なく利用する観点も大事です。樹木に「ありがとう」と声をかけて使わせてもらいましょう。

街路樹を伐採した後、ベンチとして活用

まとめ

樹木は私たちが思っているほど弱くありません。どんな環境にも順応しようとし、さらに枝がなくなっても再生する力(萌芽更新)をもっています。しかしそれに甘えるのではなく、常にメッセージを読み取り、樹木と会話していきましょう。「これからもおつき合いよろしくお願いします」。

Column 観光名所のプラタナス並木

ドイツ・ボーデン湖に奇妙な形をした木が並んでいます。高さ約2mのところで幹がなくなり、横に伸ばした大きな枝。この木はプラタナスといい、ヨーロッパでは街路樹や公園樹としてきれいにこんもりとした樹形が特徴的な樹木です。しかしここではこの形を目標として手入れしているようです。恐らく湖岸の風など気候の影響を考えてのことだと思われますが、この場所の特徴的な景色となっているのは間違いありません。

Column 移動できない樹木たち

風が吹いても倒れないように設置された金属支柱。植えた時は見栄えよく見えていた樹木もいつしか誰にも気づかれずにいるとこういう光景を見ることになります。見えているようで見えていないメッセージです。

樹木医
本位田有恒 ほんいでんありつね
大学で造園について学び、神戸市の都市公園・日本庭園「相楽園」の園長を務め、その後、2019年3月まで神戸布引ハーブ園の園長職。その他数々の庭園や公園づくりに携わり、神戸市の緑花まちづくりにも取り組むなど、植物に対して深い造詣をもつ。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第55号 2021年3月