2020.12.15.

亜熱帯から花便り #03石垣島の市街地から郊外へ・八重山の海

石垣島サイエンスガーデン代表

橋爪雅彦

郊外の景観

今回は市街地から郊外へ出てみましょう。市街地から郊外へ出ると、道路際に大きな里芋のような葉をいたる所で見かけます。名前は「クワズイモ」。大きな鮮緑色の葉で観葉植物ではグリーンパラソルとしても売られているようですが、同じサトイモ科でもシュウ酸カルシウムを多量に含んでいるため、食用には適していません。同様に道路際で最近よく見かけるようになったものが、 樹木や電柱などに這い上がって緑の柱を形成する、観葉植物ではおなじみの「ポトス」や「ハブカズラ」。野生化したポトスは葉の大きさが50cm以上にもなり、観光で島へ来られた方などは一様にその変容ぶりに驚きます。

クワズイモ

石垣島は牧畜が盛んで石垣牛もブランド化されており、その多くが放牧されているため飼料の草地として島のいたる所に緑の絨毯が広がります。その放牧場の中に「ヤエヤマノイバラ」が咲きます。亜熱帯で咲く数少ない種類のバラですが、耐暑性のあるバラの品種改良に利用されています。牧場の中なので一般ではなかなか見る機会はないのですが、径7~8cmの純白の一重咲きで、大変美しく北海道のハマナスのような趣です。また草地内には野生の「グアバ」が沢山生えています。実は小ぶりですが、ピンク色した果肉は大変おいしく甘い香りが特徴です。春先、湿気のある草地では「ナンゴクネジバナ」を見ることができます。これは内地のネジバナとは異なり50~60cm にもなる大型の野生ランです。春先に草地から顔を出し、螺旋状の濃桃色の花が咲き競います。

ヤエヤマノイバラ

そんな平地から一歩山に踏み込むとそこは異空間となり、島の3割を超す原生林は人の立ち入りを拒むかのように、「ヒカゲヘゴ」や「タニワタリ」などのシダ類が生い茂る亜熱帯特有のジャングルを形成しています。島の中央部には沖縄最高峰(525m)の「於茂登おもと岳」を筆頭に南北 に山々が連なり、300m 以上は雲霧帯をなし、 数十種の野生ランをはじめ多くの固有種が生息。 年間を通して何かしらの花を見つけることができます。また島の西部「桴海(ふかい)於茂登岳」の山麓には、国内で唯一のヤシの原生林が広がります。高さは20mにも達する「ヤエヤマヤシ」は世界中で石垣島と西表島のみに自生し、これのみで ヤエヤマヤシ属といわれる固有種です。ヤシの仲間では最も美しいと称され国指定の天然記 念物になっており、最近では沖縄全域の街路樹 としても利用されるようになってきました。植物 愛好者には魅力たっぷりの原生林ですが、分け入ってみるとハブやヒル・ダニなどの毒蛇や毒虫が多いのが難点。まあ、その分荒らされずに自然の状態をよく保っています。山裾の川沿いには「サガリバナ」の群落が見られます。夜咲いて朝方には散ってしまう儚さと、朝方の川一面に浮かぶ花は幻想の世界です。


ヒカゲヘゴ
ヤエヤマヤシ

野生ラン花(筆者作)

海岸線を歩く

次は海際へ出てみましょう。ダイビング界では世界でも有数のスポットが点在する八重山の海。透明度の高いエメラルドグリーンの海と 熱帯魚が乱舞するサンゴ礁を求め、世界中から人々が集まってきます。石垣島ではいくつかの岬を除く海岸線は沖合まで珊瑚礁が発達しており、普通の海のように波が打ち返すことが ほとんどありません。そのため海岸線では熱帯地方から流れてきた種子が打ち上げられ、生育している場所が数多く見られます。

ヤエヤマアオキ(ノニ)

その中でも代表的な植物が「ヤエヤマアオキ(ノニ)」です。和名のヤエヤマアオキより健康食品としての「ノニフルーツ」のほうが有名になっていますが、海岸線には10m前後のノニが生えています。数年前に健康食品ブームで乱伐されましたが近年はブームも去りその数も増え始めたようです。同様に南の国から流れてくる大きな実「ゴバンノアシ」もネムの花に似た径15cmもある異国情緒豊かな大きな花を楽しむことができます。その大きな種はちょうど碁盤の足にあるような四角の形状をしており、名前の由来になっています。

ゴバンノアシ

いくつかの河口や湾内にはマングローブが見られます。マングローブとは熱帯や亜熱帯地域の海岸線や河口付近の汽水域で、特に満潮の時は海になり、干潮の時は干上がってしまうような所にある植物の総称とされています。石垣島では「ヤエヤマヒルギ」「オヒルギ」の他、 5種類ほどを見ることができます。海水の中に生育するヒルギ類にはちらほらと濃黄色の葉が目立ちます。ヒルギは、水分と共に吸収してしまった塩分を一部の葉に貯め込んで排出するという、他の植物には見られない変わった性質をもっています。試しにこの黄色い葉を噛んでみると……とてもしょっぱい !

マングローブ

また海岸線には棘のある硬い葉をもつ「アダン」が群生し、パイナップルと間違えるような大きく黄色の実をつけます。繊維質の多い葉は草履や籠などの民芸品づくりに利用され、その根や実の繊維は筆としても利用されます。4~5月にかけて石垣のいくつかの岬は真っ白い「テッポウユリ」の香りに包まれます。石垣の岬の多くはサンゴ礁がなく急峻な断崖絶壁で、マリンブルーの海面とその斜面に咲くテッポウユリの花は絶好の被写体になっています。 年間を通して花が咲き乱れる石垣島。次回は「命草=ぬちぐさ」と呼ばれる薬草・食草をご案内しましょう。

アダン

テッポウユリ

石垣島サイエンスガーデン代表
橋爪雅彦 はしづめまさひこ
株式会社川平ファーム代表・ ボタニカルアーティスト。東京都立園芸高等学校卒業。学研の図鑑・東京大学出版会・誠文堂新光社(ガーデンライフ)・東京書籍生物教科書の図版及び科学論文などのイラスト担当。大阪花博東日本イベント総合プロデュース。国立博物館監修『原色日本のラン』執筆のため、東京より石垣島に移住。石垣市川平において「川平ファーム」としてパッションフルーツの加工を始める。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第50号 2019年12月