2018.9.24

ヤロウとオレガノ

ハーブ&アロマコンサルタント

長島司

 

19.ヤロウ Achillea millefolium キク科

和名でセイヨウノコギリソウと呼ばれる淡い色の花が咲くキク科植物で、止血効果などさまざまな薬理効果のあるハーブとして古代ギリシャの時代から使われてきました。

精油成分と香り

ヤロウは自然交配しやすい植物で、気候や土壌などの生育環境によって精油成分に違いが見られ、ロシアに生育するヤロウから水蒸気蒸留によって得られた精油にはカマズレン(1)がおよそ40%含まれ、その他の成分としてセスキテルペン類が多いのに対し、ノルウェーで満開の花から水蒸気蒸留で得られた精油では、α-ツヨン、α-ピネンなどのモノテルペン成分が多く含まれ、カマズレン含量は低いという結果であり、そのため香りのタイプもそれぞれで異なります。

精油の機能性

紫外線などの外部刺激によって活性化されるMRPKはメラニン生成を加速させるなど、皮膚に対して悪影響を及ぼす酵素ですが、メラノサイトをメラノサイト刺激ホルモンで処理してメラニン生成を誘発させる条件を作り、ヤロウ精油のメラニン生成抑制効果を検証した結果、成分のひとつである酢酸リナリルにMRPKファミリー酵素のシグナル伝達を制御する作用があり、その結果チロシナーゼ活性が抑制され、色素沈着が起こりにくくなることを確認しました1)。

表1 ヤロウ(ロシア)精油の香り成分
成分名含有量
カマズレン(1)42(%)
サビネン(2)20
β-カリオフィレン4
1,8-シネオール3

カマズレン(1)
サビネン(2)
テルピネン-4-オール(3)
図1 ヤロウ精油成分の化学構造

精油成分の機能性

ロシアで得られる精油に多く含まれているカマズレンは抗炎症効果の高い成分として知られていますが、このままでは溶解性が低いため化学的修飾を行って水溶性を高めた化合物を合成し、それらは医薬品として使われています。

テルピネン-4-オール(3)はティートリー精油の主成分でもあり、抗菌効果に関与している化合物として知られています。生体内での防腐効果が発現するメカニズムは、この化合物が白血球細胞を刺激し、活性化することにより、微生物類の増殖が抑制されることによるものです。

ヤロウの利用

葉と花には止血効果があり、また食欲増進など健康面での効果が高いことから、ハーブティーにして飲むと効果的です。また、熱水抽出エキスには、皮膚の天然保湿因子の元になるタンパク質「フィラグリン」の生成を促す効果があることから、スキンケア素材としても効果が期待できます。ヤロウ精油のアズレンブルーは、前駆体であるアチリニンなどのグアイアノライドの加熱分解によって生成するため、常圧水蒸気蒸留で行う必要があります。

20.オレガノ Origanum vulgare シソ科

料理用ハーブとして、特に地中海地方で好んで利用されているオレガノは、抗菌や抗ウイルス効果の高い精油としても知られており、マジョラムと葉の形などが似ていることから、ワイルドマジョラムとも呼ばれています。

精油成分と香り

精油はスパニッシュオレガノから水蒸気蒸留によって得られ、モノテルペン炭化水素成分と、オレガノの香りを特徴づけているタイム様でやや薬品臭を感じるチモール(4)、そしてチモールのフェノール性水酸基の位置異性体であるカルバクロール(5)が主要成分で、マジョラムに比較して力強い香りです。

精油の機能性

精油にはフェノール成分が多く含まれていることから、抗菌効果やラジカルスキャベンジャーとしての抗酸化効果などが主要な作用として注目されています。また、アセチルコリンエステラーゼの活性を抑制する作用があり、その結果神経伝達物質のアセチルコリンの分解が抑制され、アルツハイマー型認知症の進行抑制効果が期待されます。
また、オレンジの収穫後に問題となるカビによる汚染に対して、オレガノ精油は2,000ppmで生育阻止効果があり、安全なポストハーベスト農薬としての利用も期待できます。

表2 オレガノ精油の香り成分
成分名      含有量
カルバクロール(5)45(%)
チモール(4)15
γ-テルピネン(6)14
p-シメン     8

チモール(4)
カルバクロール(5)
γ-テルピネン(6)
図2 オレガノ精油成分の化学構造

精油成分の機能性

フェノール成分のチモールとカルバクロールは、それぞれ酸化ストレスや炎症などによって引き起こされる心毒性に対して抗酸化や抗炎症として作用し、心毒性を軽減する効果があり、また両成分を組み合わせて使うことで、その作用が相乗的に高まります。

蚊に対しても両成分とも強い忌避効果を示し、皮膚上に0.05%塗布することで、95%の忌避率を示し、この効果は市販されている忌避剤DEETよりも高く、天然の忌避剤として期待できます。
抗菌性に関しては、チモール・カルバクロールの混合物にp-シメンが加わることで、黄色ブドウ球菌に対する抗菌効果が著しく高まることが確認されています。

オレガノの利用

香りもよく、またポリフェノール類を多く含んでいることから、料理やハーブティーなどで全草を使って、その恵みを利用するのがよいでしょう。精油は、抗菌力や抗酸化力に優れた成分を含んでいることから、スキンケアとして利用するのも効果的です。ただし、これらフェノール成分は皮膚刺激の可能性もあるため、使用にあたってはパッチテストなどで安全性を確かめてください。

(参考文献)
1)Peng HY et al,The melanogenesis alteration effects of Achillea millefolium L.essential oil and linalylacetate:involvement of oxidative stress and the JNK and ERK signaling pathways in melanoma cells.,PLoS One.2014,17,9(4),95186.
2)長島司,ビジュアルガイド精油の化学,2012年,フレグランスジャーナル社
3)長島司,ハーブティーその癒しのサイエンス,2010年,フレグランスジャーナル社

ハーブ&アロマコンサルタント
長島司 ながしま・つかさ
農学修士。明治大学大学院農学研究科農産製造学専攻。
高砂香料工業(株)にて分析化学、精油化学、精油製造、天然物化学、合成香料の研究開発を行う。退職後、ハーブ&アロマの講演や執筆活動を行う。『ハーブティーその癒しのサイエンス』『ビジュアルガイド精油の化学』(いずれもフレグランスジャーナル社)ほか、執筆多数。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第41号 2017年9月