2015.6.1.

ローズマリーと化粧品

一般社団法人ジャパン・コスメティックセンター プロジェクトマネージャー

泉哲哉

ローズマリー概要

ローズマリーは地中海沿岸が原産で、薬用植物の中でも古くからその存在がよく知られています。

ローズマリーという名前は古代ラテン語の「ロス・マリア」「ロス・マリヌス」に由来し、「海のしずく」という意味です。

水辺に多く生育する特性があり、離れた所からは花が雫のように見えたことによります。

また、迫害された聖母マリアが幼いキリストとエルサレムへ逃げる途中、白い花の茂みに青いマントをかけて休んだら翌朝それまで白かった花びらが青く変わったことから「聖母マリアのバラ(ローズ・オブ・マリア)」といわれるようになったという別の伝説もあります。

シソ科の多年草ですが、常緑性低木でもあるので樹高が180㎝ほどになることもあります。

学名のRosmarinus officinalisL.のほかマンネンロウという和名もあります。

生葉もしくは乾燥葉を有用部位として使用するほか、花も可食です。

ローズマリーの有用性

ローズマリーは古代ギリシャのヒポクラテス、古代ローマのプリニウス、中世スイスのパラケルススなど多くの医師、博物学者、錬金術師などが数々の効能、治療、処方を語り継いできました。

記憶力を刺激するので古代ギリシャ・ローマの時代には、人々が熟考したり勉強する際、髪に枝葉を編み込んだり、小枝で作った冠をかぶったりしたといいます。

また小枝を使って悪霊を追い払うなど神秘な力をもつとも信じられてきました。薫香としてたかれたことから「アンサンジュ(香木)」という古いフランス名もあり、香水に使われることも多く現代に至っています。

消臭効果や抗菌作用、抗酸化作用、神経刺激作用などもよく知られていたようで、虫よけに用いられたり燻蒸材として病人の部屋でたかれる習慣がありました。

悪性チフスの感染防止に使われたこともあったと伝えられています。

抗菌作用で肉の鮮度を長持ちさせるので肉料理にしばしば使われてきました。

かつてワインで煮たものは頭脳の衰弱からくる症状(めまい、だるさなど)の治療や、顔を洗って吹き出物の予防などに使われました。

近年では認知症の予防、改善にも天然ローズマリー精油のもつ嗅神経刺激効果が効果あることも報告されています。

ローズマリーに含まれる成分

さまざまな成分が含まれ、芳香が強く刺激作用とリラックス作用を併せもつなど多彩な働きが期待できます。

主要成分のロズマリン酸はポリフェノールの一種でほかのシソ科植物にも含まれており、美肌の鍵でもある抗酸化作用があることが知られます。

体内への糖吸収抑制、パーキンソン氏病予防などの効果も研究されています。

ロズマリン酸以外で特徴的な成分は、カンファー、1,8-シネオール、ベルベノンです。ローズマリーは産地の気候、土壌、日照などで成分バランスが変わり、精油にした場合に「ケモタイプ(化学種)」の存在する植物です。この3成分の多さにより、以下の3種のケモタイプに分かれます。

ローズマリー・カンファー

強いシャープな香りで、芳香浴などではリフレッシュ効果が得られます。スペイン、クロアチアなどが主産地で、筋肉痛や神経痛にも効果があり、肝胆汁の産生も促進します。

ローズマリー・シネオール

透明感あるスッキリした香りです。北アフリカなどが主産地で、殺菌作用があり空気の浄化に適します。去痰作用、粘液溶解作用、抗カタル作用などもあり呼吸器系に有効です。

ローズマリー・ベルベノン

さわやかでやわらかい香りです。フランスなどを主産地とし、刺激の強いカンファーが少なく細胞再生作用もあって肌に優しいので化粧品にもっとも適します。粘液溶解作用もありかぜの初期症状で胸に塗るマッサージオイルやクリームも有効です。神経疲労からの回復にも効果があります。
その他、強い抗酸化力と紫外線UV-Aから肌を守る効果のあるカルノシン酸、肌のコラーゲン破壊に改善効果があるウルソール酸など、さまざまな生理活性を示し美容面でも有用な成分が含まれます。

化粧品への応用

化粧品分野で使用されるローズマリーは、エタノールや1,3-ブチレングリコールなどで抽出したエキスか、水蒸気蒸留などの方法で分離精製した精油(エッセンシャルオイル)の状態で原料化され、配合する処方系や目的などに応じて使い分けられています。

表示名称は、化粧品では「ローズマリー葉エキス」「ローズマリー油」、医薬部外品では「ローズマリーエキス」「マンネンロウエキス」「ローズマリー油」などです。

化粧品への応用では中世ヨーロッパの「ハンガリー水」が有名で、これは顔を美しくし清潔にする化粧水とされています。

17世紀にフランクフルトで出された小冊子には「4回蒸留したアルコール3にローズマリーの枝と花を2ほど加え、これらを密閉容器に入れ50時間微温に保ち、その後ふたたび蒸留する」という製法が記されています。

分量や製法がわかりにくいのですがアルコールとローズマリーをともに複数回蒸留する方法のようです。

週1回飲食物に混ぜて服用する薬剤的な使用や、この化粧水で毎朝洗顔する、などの方法が推奨されています。

正確な処方や製法が残っていない現代では、ローズマリーのもつ美肌効果を活かすべくハンガリー水的な化粧水がさまざまな処方で提案されています。

50~100mLの化粧水において、ローズマリー・ベルベノン精油を1~2滴相当の量を配合するものが多いようです。

1滴は約0.05mLですので、高品位の天然精油をごく低濃度で使用するだけで十分ということでしょう。

ほかの精油やハーブ水、例えば、ネロリ、オレンジ・スイート、レモン、ラベンダー、セージ、ミントなどをごく少量加えるものも見受けられます。

中世に書き残されたアルコール(無水エタノール)や、保湿や感触改善に効果があるグリセリンなどを組み合わせたものもありますが、当然これらはすべて肌に合うことを慎重に確認しながら試されるべきものです。

市販化粧品ではエキスのほうが多く使われ、石鹸、スキンケア、ヘアケア、ボディケア、スペシャルケア、メイクアップなど全般にわたって配合されています。

実際の配合量は多くても精油で0.1%前後、エキスで0.2%前後までであることがほとんどです。

軽~中程度の皮膚刺激性も報告されているようですが、実際の化粧品においては安全範囲の配合量で使用されることにより、美容に役立てることができているようです。

(参考資料)

  1. ロバート・ティスランド,高山林太郎訳,アロマテラピー,フレグランスジャーナル社
  2. 三上杏平,エッセンシャルオイル総覧,フレグランスジャーナル社
一般社団法人ジャパン・コスメティックセンター プロジェクトマネージャー
泉哲哉 いずみ・てつや 
味の素㈱で、化粧品の原料・OEM・通販化粧品・海外化粧品輸入などの各事業マネージメントを歴任。現在、一般社団法人ジャパン・コスメティックセンターのプロジェクトマネージャーとして産学官連携を推進している。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第32号:2015年6月