2017.6.1

コクセイソウ(穀精草)とトウシンソウ(灯心草)

昭和薬科大学薬用植物園薬用植物資源研究室研究員

佐竹元吉

水田の雑草であるが、身近に生育し、薬草として使われているものにイグサ科のイ(イグサ)とホシクサ科のホシクサがある。イグサの地上部は灯心草と呼ばれ、生薬として流通している。ホシクサの地上部と花序は穀精草として利用されてきた。

1.ホシクサ穀精草

ホシクサ Eriocaulon cinereumとの出会い

タイで、薬用植物の調査をしたことがあった。タイの東部はカンボジアに接して密林地帯である。ここにタイ厚生省の薬草園があった。タイは大木の幹(木部)を生薬にしているものが多く、鑑定はフィールドでは困難であった。しかし、密林の中に入ると、香辛料や生薬に使われるショウガ科のカルダモンが野生していた。この地域の人々は収穫小屋で生薬調整をしていた。ジャングルの外は、水田で、雑草のようにイネを植えていた。タイは冬がないので1年中イネから米が収穫できる。この水田の水の中や干上がったところに、小さい葉が輪状に生えている。この真ん中から茎が出て球形の花序をつけている。これがホシクサ科の植物とわかるまでに、集めた標本を図解してみた。花びらやがくはどれだろうか、雄蕊ゆうずい雌蕊しずいはどれだろうかと、調べていくうちに、集めたものは同じ植物ではなく何種類ものホシクサであった。この学名を帰国後、明らかにした。

薬草としてのホシクサ

ホシクサが薬草であると知ったのは、神奈川県中井の生薬問屋の書籍『国益実用野生薬採取鑑』(1933年、植木満作)にホシクサが記載されていたからだ。その中の[穀精草ホシクサ]の項に、「薬名[コクセイ]一名水玉草ともいわれ、草丈3~9cm、葉は糸のようで、根茎から10数本付く」と記載されている。
花茎は叢葉の間から数個が抽出し、先端に白い星状の球形の頭花をつける。濃緑白色の小さい花が開く。沼地、水田に自生する。収穫は全草を掘り取る。品質は花径のあるものがよく、葉だけのものは質が悪い。収穫は採集後、根を洗い、むしろの上で、日光に当てて乾燥する。乾燥しすぎたものは、一日置く。価格は100斤(60kg)5円ほど、現在の8,000円ぐらいである。薬効は目の諸症状によいとされていた。
江戸時代の本草書の『本草綱目啓蒙』(1803年、小野蘭山)は穀精草にホシクサを当てている。ホシクサは、日本はじめ東アジア、インド、オーストラリア、アフリカに分布している。中国の『中薬志III(』1959年)pp.324-330では、オオホシクサE.buergerianum(穀精草)の花つきの頭状花序およびホシクサの葉つきの全草を穀精草と呼び、それぞれ薬用にする。抗菌・抗真菌作用があり、病気への応用は頭痛、歯痛、鼻血、眼科疾患とされている。

ホシクサ Eriocaulon cinereumの特徴

1年草で、水湿地に生える。根はひげ状で白色。葉は根生して斜上し、狭線形、長さ2~8cm、幅1~2mm、先は次第に細くなって鋭尖頭、無毛。花茎は高さ5~15(20)cm、鞘は1.5~3cm。頭花(図B)は卵球形、灰褐色~汚白色で直径4mm内外、総苞片(図C)は楕円形、膜質、鈍頭、長さ約1.5mmで目立たない。花苞は卵状長楕円形、やや鋭頭、長さ1.5~2mm。雄花(図E)は少数、萼片は合生して下半部は筒状、上半部は前方が開き、先は3裂、背面に毛を散生、花弁は筒状に合生し先は3裂、上縁に2細胞からなる毛があり、内に黒腺がある。雄蕊は6個、葯は白色。雌花(図DG)は多数、萼片は2、線形で離生し長さ約1mm、花弁はない。種子(図F)は楕円形、黄褐色、不規則な6角状網目がある。花期は8~10月(『原色日本植物図鑑』)。タイで採集したホシクサの標本の図解である。学名は佐竹義輔先生に八ヶ岳の別荘で鑑定していただいた。

ホシクサEriocaulon cinereum(原図:佐竹元吉)
イ(写真提供:磯田進氏)
トウシンソウの生薬(写真提供:松島或介氏)

2.イ(イグサ)灯心草

イの利用

イグサの髄は薬用で灯心草として使われているが、この名前の由来は、白い髄に弾力性があり、それをロウソクの灯明の芯に用いたことによる。その茎は畳表や花むしろの材料として利用されてきた。室町時代から栽培されるようになり、特に江戸時代以降は備後・備中で栽培されていることが広く知られている。

イ(別名イグサ、トウシンソウ)の特徴

根茎は匍匐ほふくし、節間は短い。茎は円柱状で、茎の内部は白いスポンジ状の髄が均一に詰まっている。高さ25~60cm。葉は茎の基部に鱗片状につく。花序が茎の途中につくように見える。花序枝は多数つき、花序枝の一部が下向きに曲がり、長さ20cm。花は単生で、淡緑色。花被片は6個で、鋭頭、雄蕊は3個、花被片より短い。世界の温帯に広く分布する。

薬用としての灯心草

イグサは『本草和名』(918年,深江輔仁)、日本最古の医書である『医心方』(984年、丹波康頼)、『和漢三才図会』(1712年、寺島良安)や『本草綱目啓蒙』(1803年、小野蘭山)で薬草の記載があり、現在、『日本薬局方外規格』(2012年)に収載されている。
漢方では排尿障害、浮腫、不眠、小児の夜鳴きに用いられる加味解毒湯、滋腎明目湯じじんみょうもくとう分消湯ぶんしょうとう実脾飲じっぴいん)に配合されている。生薬として『日本薬局方外規格』に記載され、イJuncus effusus L.の1)地上茎で、ときに2)茎の髄だけのもの(トウシン)がある。茎の周囲は繊維束が発達し、髄部は星状の柔細胞が硬く結合している。成分はテオリンで確認する。

おわりに

イグサ科やホシクサ科は風媒花へと進化した植物である。イグサ科は両性で、6枚の花びらに当たる花被片がある。ホシクサ科は単性花で、茎の先端の頭花序に、雄花と雌花をつける。

昭和薬科大学薬用植物園薬用植物資源研究室研究員
佐竹元吉 さたけ・もとよし
当協会顧問。1964年東京薬科大学卒。国立医薬品食品衛生研究所生薬部部長、お茶の水女子大学生活環境研究センター教授、富山大学和漢医薬総合研究所・お茶の水女子大学客員教授を歴任。著書『第16改正日本薬局方生薬等の解説書』(共著・廣川書店)、『基原植物事典』(中央法規出版)ほか。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第40号 2017年6月