2013.12.24.

アレルギー性鼻炎の諸症状に対する醗酵紅参の効果

コメント:渡辺 肇子、翻訳:荒瀬 千秋

ウコギ科オタネニンジンの根を加工した生薬は、生干人参、湯通し人参、白参、紅参など調整法違いによる区別があります。日本で「コウジン(紅参)」として日本薬局方に収載されているものは、「オタネニンジンを水洗いし、細根を除いて、外皮を剥がさずに圧力釜で蒸し、赤褐色になったもの」とされています。

白参は、水洗いし、細根を除いて、外皮を剥いで乾燥したもので、紅参は明確に区別されており、この加工法の違いによる成分の差異について、詳しく研究されています。白参にはマロニルジンセノシド4種が含まれ、これが加工により新たなサポニンであるジンセノシドとなります。これは脱マロニル化とサポニン糖部の不文加水分解によるものです。
また紅参は特有成分として、アセチレン化合物のパナキシトリオールを含んでいますが、これは白参に含まれるパナキシノールの化学的変化により生成したものと考えられています。

この論文では、アレルギー性鼻炎における、醗酵紅参粉末(Bifido社, 韓国)の投与の影響を、かゆみ、くしゃみ、鼻水、鼻づまりの4つの症状と、睡眠、目の症状、鼻と目以外の症状、活動の状態、心の状態など、幅広い項目について検討しています。その結果、鼻づまりの改善がコントロール群に対して投与群の方が早い時期から見られたこと、また投与群では活動の状態と心の状態の改善が見られたことから、アレルギー症状に汎用される抗ヒスタミン剤の代替としての可能性を示唆しています。
一方、上記以外の項目では投与群とコントロール群の両方で改善が見られ、これは製品にプラセボ以上の効果がないことを示す、と言えます。

紅参を含む人参は、東洋の伝統薬物の中でも、特に高貴な霊薬として珍重されてきた生薬のひとつで、中枢に対する作用をはじめ、抗ストレス作用、血管や免疫に対する作用など幅広い機能が科学的に研究されています。

花粉症は、日本での患者数は2000万人以上、国民の30%が該当するとされ、国民病とも言われています。症状だけでなく、QOLの改善は、大きな課題であることから、さらに多くの研究が望まれる分野と言えるでしょう。

(コメント:渡辺 肇子)

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アレルギー性鼻炎に対する醗酵紅参の治療効果:無作為化二重盲検プラセボ対照試験
Allergy Asthma Immunol Res. April 2011;3(2):103-110
Jung J_W, Kang H_R, Ji G_E, et al.

紅参(Panax ginseng)は生の高麗人参の根茎を蒸した後に乾燥させたものでカラメル色を帯びているが、白参は通常生の根茎の皮を取り除き、天日干しもしくは炉で乾燥されたものである。人参を蒸すことによって元のジンセノサイドが変化し(主に一部の脱グリコシル化)生物活性をより高めている(編集記:この過程がジンセノサイドの内容を増加させることは証明されていない)。醗酵紅参(微生物や酵素によって加工された紅参)は、RAW264.7細胞(マクロファージ系細胞株)におけるリポ多糖体(LPS)炎症の保護効果によって実証されたように、さらなる生物活性効果があると考えられる。

これまで、プロトパナクサトリオール系ジンセノサイド類(protopanaxatriol ginsenosides)*1の代謝による生体内変化によって産出されたジンセノサイドRh1には、抗アレルギー性、抗炎症性があると報告されてきた。これに対し本論文の筆者たちは、アレルギー性の炎症の鎮静には醗酵紅参の方が非醗酵紅参よりも効果があるとの先行研究を示した上で、今回の無作為化二重盲検プラセボ対照試験によって、アレルギー性鼻炎の諸症状に対する醗酵紅参の治療効果を評価している。

実験に用いられたのは、Bifido社(韓国)の醗酵紅参粉末250mgカプセルである。粉末は1gにつき粗サポニン236.7g、Rb2ジンセノサイド2.3g(以下、Rx#の後のジンセノサイドを省略)、Rb3を0.01g、Rcを0.6mg、Rdを9.6mg、Reを0.5mg、Rg1を0.6mg、Rg2を8.2mg、Rg3を27.7mg、Rh1を12.1mg、Rh2を3.1mg、生理活性物質コンパウンドK61.0mgを含有する。プラセボ用カプセルは醗酵紅参カプセルと同じ大きさ、同じ形で、澱粉が入っている。これを一回量として3カプセル、一日2回、4週間に渡って投与した。

4週間の実験期間の開始前と終了後に、Rhinitis Quality of Life(鼻炎におけるクオリティ・オブ・ライフ、RQoL)が実施された。この調査は、実際の症状、睡眠、鼻の症状、鼻と目以外の症状、活動の状態、心の状態、目の症状などアレルギー性鼻炎に関する28項目について、5段階評価でクオリティ・オブ・ライフを評価するものである。

これに加えて、鼻炎の諸症状に関する評価、total nasal symptom score (総合鼻炎症状スコア、TNSS)も実施された。これは、症状については、かゆみ、くしゃみ、鼻水、鼻づまりの4症状について、症状なしの0から重症の3までの4段階で評価する。また症状の持続時間を、症状なしの0から2時間以上の3までの4段階に分けて評価するものである。
また、実験の実施前と実施後に14のアレルゲン(ハウスダストのダニ、菌、ゴキブリ、動物の毛、樹木・草木など)について皮膚プリックテスト*2を行い、アレルギー反応の有無を調べた。

被験者は59人、そのうち醗酵紅参を摂取した実験群が30人、コントロール群が29人だった。実験開始前、この2グループ間には、アレルギー反応、TNSS、RQoLそれぞれにおいて有為な差はなかった。実験中、TNSSのかゆみ、くしゃみ、鼻水と各症状の持続時間に関して、どちらのグループも有為差なく改善した。しかし鼻づまりに関しては、コントロール群においては改善が現れたのが第4週になってからだったのに対し、実験群は第2、3、4週に有意に改善した。実験終了時のTNSSスコアは実験群、コントロール群ともに有意差はなかった。

活動の状態と心の状態のRQoLは実験群では有意に改善したが、コントロール群では変化がなかった。その他の分野では、実験群、コントロール群共に改善し、実験終了時には2群の間に有為差はなかった。また実験群は、通年性アレルゲンに対する皮膚の変色を有意に減少させたが、コントロール群において減少は見られなかった。最後に、アレルギーに関係する免疫グロブリン抗体E(IgE)レベルが、コントロール群において実験開始時から終了時に有意に増加しているのが観察された。実験群には有為な増加はなかった。

筆者たちは、実験群における鼻づまりのTNSSの肯定的な結果は、醗酵紅参が抗ヒスタミン剤の代替物としての可能性を持つことを示唆していると結論づけている。従来の医学で用いられている鼻づまりの薬やステロイド剤が、長期的な使用の後、効果がなくなったりむしろ有害になるかもしれない。今回の実験データは、肝機能のモニターを行いながら醗酵紅参をアレルギー症状に使用することが、プラセボよりも良いことを示している。ひとつ注目すべきことは、実験群とプラセボ群両方のTNSSとRQoLにおいて、同じように改善が見られることである。これは、鼻づまりを除いて、アレルギー性鼻炎の症状の治療に醗酵紅参はプラセボ以上の効果がないということを示している。

この実験の重要課題は、紅参の製剤や醗酵過程に関する詳細が明らかにされていないことである。紅参と醗酵紅参のジンセノサイド分析比較があればより豊かな情報を提供できていたことだろう。
(編集記:筆者たちは醗酵食品とハーブ製薬の潜在的効果の研究にタイムリーかつ重要な道筋を示している。しかし醗酵過程にて用いられた微生物についての詳細なしでは、当該の生物活性についての明確な評価をすることはできない。薬用植物に対する微生物の効果は研究対象として認められ始めたばかりであり、この実験のような研究は今後ますます重要なものとなると思われる)

Dr. Amy C. Keller
(翻訳:荒瀬 千秋)

知っておきたい用語
*1プロトパナクサトリオール系ジンセノサイド類:朝鮮人参(Panax ginseng)や三七人参(Panax pseudoginseng)に含有されるダンマラン型トリテルペン系サポニン。
*2皮膚プリックテスト:アレルゲンの試薬を皮膚に一滴のせ、専用の針で皮膚を刺し、アレルゲンを皮膚に吸収させて反応を見るテスト。15分後に皮膚が赤く腫れていればそのアレルゲンに対し陽性と判定する。