2013.3.26.

ショウガの医療応用について考える

コメント:金田俊介、翻訳:荒瀬千秋

多くのがん患者にとって、化学療法の副作用の一つである吐き気は大きな問題となっています。そこで吐き気を抑えるために5-HT3受容体拮抗薬、あるいはドパミン受容体拮抗薬と言われる制吐薬が一般的に使用されます。

ところが、これらの薬でも余り効果が見られない場合があります。そのような場合に他の選択肢として使用されることがあるのがショウガ(ジンジャー)です。ショウガは化学療法の副作用としての吐き気だけでなく、妊娠時のつわりなどにもよく使用されており、その制吐作用に関しては5-HT3受容体に対する拮抗作用を始め、様々な作用機序が報告されていますが、実のところまだはっきりと分かっているわけではありません。また、ショウガはその抗腫瘍効果にも期待されているのですが、制吐作用と同様にその作用機序も明らかにされていません。

どちらの作用も明確でないにも関わらず、ショウガはがん患者に対して制吐薬としてはよく使用され、抗がん剤としてはほぼ使用されません。もちろん使用目的の重要性に大きな差があることが一番の理由でしょう。吐き気は重要な問題ですが、がんそのものの重要性には比べられません。また、実際にショウガの制吐作用に関して信頼のおける報告が多くなされていることも医師が信頼する理由としては当然でしょう。ところが、本文では、それだけでなく、医師たちがいわゆる代替医療に対して毛嫌いする姿勢にも一つの要因があるのでは、と疑問を投げかけています。もちろん代替医療を盲信するのは余りにも危険ですが、治療の選択肢を増やせる可能性を摘んでしまうことがあってはならないでしょう。

このような意見がThe Lancet Oncologyという非常に権威のある腫瘍学の雑誌で掲載されたのは意義深いことのように思います。また、蛇足になりますが、かつてホメオパシーの効果を否定した(プラセボと同等とした)論文で議論を呼んだThe Lancetの姉妹誌で掲載されたというのも興味深い点です。
(コメント:金田俊介)

—————————————————————————————————

ショウガはガン治療を支える「根」となりうるか?
Ginger: the root of cancer therapy?
Jonathan Krell, Justin Stebbing Imperial College, London, UK
The Lancet Oncology, Vol.13 March 2012

ショウガは、スパイスや薬味として東南アジアをはじめ、数多くの国で使われてきた。そして、風邪や発熱、消化器疾患や炎症性疾患など幅広い慢性疾患の治療に、様々な文化の中で薬として用いられてきた長い歴史を持っている。ヒンズー語では「マハー アウシャディ」、「偉大なる薬」と呼ばれている。しかしそれらの特性は科学的に証明されるのだろうか?

ショウガは二つの異なる化学物質群を含んでいる。ひとつはショウガの香気を担う揮発性油で、ジンギベレンやクルメンといったセスキテルペンから成る。ショウガの辛味は、ジンゲロール、ショウガオール、パラドール、ジンゲロンといった不揮発性化合物による。また、ショウガは多くのビタミンやミネラル、脂肪分、そしてタンパク質を分解するといわれるジンジバインという強力な酵素を含んでいる。

がん細胞やがんにかかった動物に関する多くの臨床検査は、ショウガ、もしくはショウガ抽出物が、化学的予防剤または抗がん剤、もしくはその両方の特性を持っていると示唆している。細胞の増殖と分裂を引き起こす細胞内のシグナルの調整、抗酸化物質と抗炎症特性、選択的細胞死の誘導のメカニズムを示唆する研究者もいる。加えて、米臨床腫瘍学会で最近発表された研究によると、ショウガはがん治療によって引き起こされる吐き気の予防に効果的とのことである。

ある研究では、化学療法後に吐き気を覚えた患者600人以上の患者を対象として実験を行った。化学療法後、一般的な制吐薬に加えて一日2回、プラセボもしくは3つの異なった服用量のショウガのいずれかを服用してもらった。結果、どの服用量においても、ショウガは吐き気を覚える患者の数を有意に減少させた。ドンペリドンなどの現在一般的な制吐薬は時代遅れということだろうか?

ある特定の患者の腫瘍に特異な分子を攻撃する「ターゲット療法」と名付けられた新療法の設計にますます注目が集まるがん治療だが、そんなオーダーメイド医療(個人のゲノム情報を元に、患者の遺伝体質に合わせた医療もしくは健康管理)の時代に、「万能薬」というコンセプトに意味があるのだろうか?化合物の量に幅があるような薬が、本当に効果的なのだろうか?例えば、ジンゲロールとショウガオールはショウガの薬理活性に最も寄与していると考えられており、特に[6]-ジンゲロールがマウスの大腸がんにおいて、炎症性神経伝達物質をターゲットとすることによって腫瘍の増殖を抑制すると明らかにされている。

生産地や収穫時の成熟度、加工方法などによってショウガ抽出物の有効性分の量に幅が出てしまうため、その効果にも幅が出る。たぶん、ショウガのような自然の産物がそのような化合物のミックスを含んでいるという事実が、ガンを含む多くの疾患に効果的である可能性があることを物語るのだろう。

あまりにも多くの天然物が、がんを筆頭に多くの疾病に効果的とうたわれ、多額が費やされているため、それらを逆に疑う声も多い。

経験から言って、医者たちは患者や健康な一般人と比較すると天然物を全くと言っていい程受け入れない。にもかかわらず化学療法に伴う吐き気の治療薬としてのショウガにはがん専門医たちがかなり寛容である理由は、それらのデータが健全な統計分析を伴う大規模な実験によるものだからだ。その一方で、抗がん剤としての将来性は、大多数の医者たちの信念と対立する。今のところ、どちらの正確な作用機序もはっきりとしていないのだが。我々は、全ての病気は自宅で治せるというようなイデオロギーを受け入れるべきだとは主張しないが、代替医療のイデオロギーに不寛容すぎることもあるのではないだろうか。
(翻訳:荒瀬千秋)