2023.4.18

ピロリ除菌におけるポリフェノールの有用性について

日本メディカルハーブ協会学術委員

河野加奈恵

世界の人口の半数以上が感染しているヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori;ピロリ菌)は日本でも50%以上、特に50歳以降では70%以上が感染しているといわれる。ピロリ菌は胃粘膜に定着し、胃炎、潰瘍、胃および大腸がんなどの原因となりうるが、近年では抗生物質に対する耐性の増加により除菌率が低下してきており、90%を超える除菌率を一貫して達成する療法はほとんど存在せず、除菌率を高める治療法または抗生物質に代わる治療法が求められている。

ピロリ菌の除菌に対する効果についてはこれまで多くのポリフェノール化合物の研究が行われているが、その効果と安全性を検証するために行われたシステマティックレビューとメタアナリシスを紹介する。

このレビューでは、合計1251人の参加者(ポリフェノール化合物群から624人、コントロール群から627人)を有した2005年から2021年にかけて発表された12件のランダム化比較試験(RCT)を対象とした。12件のRCTのうち、2件がウコン(Curcuma longa)、4件がクランベリー(Vaccinium macrocarpon)、4件がリコリス(Glycyrrhiza glabra)、1件がガーリック(Allium sativum)、1件がブロッコリー(Brassica oleracea)の効果を評価したものであった。

全体の解析では、ポリフェノール化合物が治療に含まれる方が(除菌率62.7%)、ポリフェノール化合物を含まない治療(除菌率50.1%)より、ピロリ菌の除菌率が高い結果となった。

サブグループ解析では、以下のグループでポリフェノールの効果が認められた。

  • 3件のポリフェノール(除菌率24.1%)対プラセボ(除菌率5.2%)(p = 0.01)
  • 6件のポリフェノールと3剤併用療法(除菌率85.3%)対3剤併用療法(除菌率75.9%)(p = 0.03)

なお、2件のポリフェノールと3剤併用療法(除菌率62%)対ビスマス3剤併用療法(除菌率50%)の比較と、1件のポリフェノールと4剤併用療法(除菌率86.7%)対4剤併用療法(除菌率73.3%)の比較に関しては、ポリフェノールとの併用の方が除菌率が高かったものの、サブグループ解析において統計的有意差は認められなかった。

また、各ポリフェノールグループにおける対対照群の除菌率とピロリ菌除去効果が認められた投与量は以下の通りだ。

  • クルクミン:治療群で81.3%、対照群で73.8%の除菌率。トリプル療法と併用してクルクミン(700mg)を1日に3回4週間服用。
  • クランベリー :治療群で54.4%、対照群で45.4%の除菌率。ピロリ菌感染の予防としてクランベリージュース(240 mL)を1日に2回8週間服用、また、3剤併用療法(ランソプラゾール、クラリスロマイシン、アモキシシリン)と併用してクランベリー(500mg)1日2回2週間服用。
  • リコリス :治療群で64.9%、対照群で39.1%の除菌率。リコリス(150mg、商品名GutGard)を1日に1回60日間服用、また、3剤併用療法または4剤併用療法と併用してリコリス(380mg)を1日2回2週間服用。
  • ガーリック:治療群で86.7%、対照群で73.3%の除菌率。ニンニクのピロリ菌除去に対する統計的な有用性は認められなかったため、適正な投与量を決定するための更なる研究が求められる。
  • ブロッコリー:治療群で91.7%、対照群で89.3%の除菌率。3剤併用療法と併用してブロッコリースプラウトパウダー(6g)を1日1回4週間服用。

副作用については、ポリフェノール化合物において下痢、頭痛、および嘔吐などの症状が認められたものの、対照群における副作用との差は認められなかった。

今回のレビューにおいて、多くのポリフェノール化合物がピロリ菌感染の除菌率を向上させるために有用であり、3剤併用療法と併用することで除菌効果が向上することがわかった。ただし、著者は今回の解析に使用された研究の質が低いため結果は注意を払って解釈する必要があるとしており、今後、より大規模で質の高い臨床試験によってエビデンスを確立する必要があると結論づけている。

〔文献〕

Wang Q, Yao C, Li Y, Luo L, Xie F, Xiong Q, Feng P. Effect of polyphenol compounds on Helicobacter pylori eradication: a systematic review with meta-analysis. BMJ Open. 2023 Jan 5;13(1):e062932. doi: 10.1136/bmjopen-2022-062932.