マウスにおけるヒトマクロファージおよびTLR4およびTLR7 / 8誘発ウイルス性炎症に対するハーブ免疫調節の有効性:SARS-CoV-2(新型コロナウィルス)感染の予防と治療
今回紹介する論文は,SARS-CoV-2(新型コロナウィルス)に対する予防や治療についての植物療法の有効性について,免疫調節という観点から研究したものである。
背景としては,ワクチンを普及し,SARS-CoV-2 に対する治療法を開発するためにあらゆる努力が払われてきたが,この感染症についての十分な管理はまだできていないこと,そして経済的に不利なコミュニティでSARS-CoV-2の予防や治療手段を施行することの難しさがパンデミックの経過を悪化させることがあげられ,これらを解決するために免疫調節機能を有するハーブを活用することの有効性を検討している。
この研究では,以前のSARSウイルスの発生時に報告された植物療法の有効性を考慮して,これらの問題に対する低コストの解決策として,ブラックベリー,カモミール,ガーリック,クローブ,エルダーベリーの抽出物を用いた新しい免疫調節植物療法(IP:immunomodulatory phytotherapy)を研究した。
方法は以下のとおりである。
- SARS-CoV-2 感染の重要な特徴である過度の炎症は,IPを適用した in vitro および in vivo アッセイで調べた。
- 最初に,腫瘍壊死因子 (TNF) およびIL-1β濃度の変化を,リポ多糖 (LPS)および IP またはプレドニゾロンによる処理後のヒトマクロファージの培養で測定した。
- 第二に,継続的にIP前処理したCD-1マウスを対象に,Toll様受容体(TLR)-7/8レシキモドのアゴニストを賦与,炎症誘発性サイトカインの肺と脾臓の発現について調べた。
- 最後に,LPS注射したIP前処理されたマウスにおいての,病的な行動の発現について調べた。
- さらに,高速液体クロマトグラフィー (HPLC)-高分解能質量分析法 (HRMS) を使用して IPでの免疫調節機能の要因となる物質について分析した。
結果を以下に記す。
- in vitroでのLPSによるTNFおよびIL-1βのレベルは両方の処理によって減少した。
- IP前処理マウスは,炎症性サイトカインであるSAA-2,ACE-2,CXCL1,および CXCL10 の過剰な発現を抑えて,レシキモドの注射に応答した変化を減少させた。
- LPS を注射した IP前処理マウスは,正常な移動,不安,および探索行動を示し,強制水泳試験では,異常を発現しなかった。
- イソクエルシトリン,コリン,ロイシン,クロロゲン酸,およびその他の成分が HPLC-HRMS によって同定され,IP 免疫調節効果の要因である可能性が示唆された。
これらの結果より,IP療法は,炎症を軽減し,「病的な行動」を一部軽減することが観察され,まずはハーブの免疫調節機能による予防効果が, SARS-CoV-2 感染を防御する有効性を持つことを示唆している。
本研究は,ハーブによる免疫調節機能をもつハーブが,感染予防や治療への可能性を持っていることを,免疫機能により検討していることに加え,行動観察で得た知見を考察しているところも興味深い。
文献
参考
レシキモドResiquimod:
一部の種類の皮膚がんに対する治療の分野で研究されている物質.免疫応答修飾因子として作用する薬剤であり,抗ウイルス作用と抗腫瘍作用がある。
皮膚に塗られたレシキモドは,一部の免疫細胞に作用して,腫瘍細胞への攻撃を促進する化学物質を作らせる. この物質を腫瘍ワクチンに加えることによって腫瘍に対する免疫反応を改善できる可能性があり,この点を確かめるために現在研究が行われている。
SAA-2:血清アミロイドA
ACE-2:アンギオテンシン変換酵素
CXCL1:ケモカイン リガンド1
ケモカイン リガンド 1 は,CXC ケモカイン ファミリーに属する小さなペプチドであり,いくつかの免疫細胞,特に好中球やその他の非造血細胞の傷害または感染部位への化学誘引物質として機能し,免疫および炎症の調節に重要な役割を果たす。
CXCL10:ケモカイン リガンド10
C-X-Cモチーフケモカインリガンド10は,インターフェロンγ誘導タンパク質10または小誘導サイトカインB10としても知られている。