2022.7.16

メディカルハーブの科学論文を読む:第一回:研究情報の現状・研究デザインの種類

日本メディカルハーブ協会学術委員

村上志緒

メディカルハーブを活用したり、効能を実感したりした時、それについて科学的な研究はされているのだろうか?知りたい!と思う事はありませんか?

メディカルハーブは世界各地でその土地の人たちが、植物の性質をしっかりと受け取ることと活かすことで生まれ、今に繋がっています。そして今では、例えばネイティブアメリカンが古くから用いてきたエキナセアもハーブショップで簡単に手に入る時代になりました。そんな現代に生きる私たちには、より深くハーブを理解し、安心して活用するために、植物自身と直接向き合い、実感を持ち性質を知ることとともに、科学的なエビデンス(科学的根拠)に基づいた確かな学術研究についての情報を得ることも重要であると言えるでしょう。

個々に行われる研究で得られた知見は、研究者による論文として発表されます。そしてその論文を読むことが、事実に一番近い信頼性のある情報を得る事につながります。

メディカルハーブについて科学的、学術的な理解を深め、より効果的で安全にハーブを活用したり、理解した学術情報について、的確に紹介し、メディカルハーブの理解と普及につなげたりしたい方などのお役に立つように、今回から、論文を読むために知っておきたいことやテクニックについてご紹介いたします。

メディカルハーブに関する研究・研究情報の現状

ハーブには長い間活用されてきたという経験的な事実があり、それはハーブを理解する上で、基本となる大切なことです。

今は、医学、薬学、栄養学、生物学などの観点からの研究として、また、相補代替医療(CAM)、統合医療(IM)の発展も伴い、植物療法についての学術研究は日々進んでいます。その中の多くは伝承的な植物療法について科学的な知見、理解を得るための検証研究であったり、これまでの経験的事実から新しい活用を見出すものであったりします。そして科学的研究手法の発展により、メディカルハーブの有効性について、より的確な実証が実現しつつあると言えるでしょう。

現代は情報社会であり、インターネットなどで多くの情報に容易にアクセスできます。メディカルハーブに関しても情報は溢れていますが、その中から信頼性のある情報にアクセスし、価値あるものを選択・収集し、しっかりと吟味・評価し、自分の疑問に対する答えを見出すことがとても大切になってきました。

研究では、設定したテーマについて結果を得ていきますが、真の結果から遠ざける様々な要因のことをバイアスといいます。研究者本人による一次情報である論文にはバイアスがかかり難く、研究論文を読むことは、事実をより正しく理解して実践につなげるためにとても重要です。

研究デザインの種類

それでは、研究論文の元となる研究にはどのようなデザインがあり、それらの信頼性はどのように考えられているのでしょうか?それを知っておくことは、論文の選び方や論文に示された結果や考察の理解や認識に大いに役立ちます。

研究の分類は、いくつかの観点からされています。まず基本となるのは、基礎研究と臨床研究です。基礎研究には、例えば、ハーブの成分分析、作用機序の解明、有効性や安全性を示すための in vitro(培養細胞などでの実験)や in vivo(動物実験)の系を用いた研究が含まれます。また、臨床研究はヒトを対象としたもので、症例報告や疫学的な研究、介入研究などが含まれます。そして結果を導くためのアプローチによって質的研究や量的研究といった分け方もあります。

図には、研究デザインの種類による、科学的根拠としての信頼性のレベルが示されています。先述の基礎研究はLevel6に分類され、Level5以上が、臨床研究やそれらに基づく解析となります。

先述のバイアスがなるべく入らないようにすることは信頼性に繋がることから、信頼性のレベル(エビデンスレベル)が設定されています。

臨床研究についてそれぞれの特徴をみていきましょう。エビデンスレベルLeve15の記述研究とLevel4の分析研究(疫学研究)は、ありのまま観察してデータを分析することから「観察研究」といわれます。Level2のランダム化比較試験(RCT)とLevel3の非ランダム化比較試験は、被験者にハーブの内服などの介入を行って進めるので「介入研究」といわれます。そしてシステマティックレビュー、メタアナリシスは信頼性の一番高いとされるLevel1に分類されます。

システマティックレビューとメタアナリシス:

報告されている臨床研究を網羅的・系統的に吟味して集めて行う統合的分析による。

ランダム化比較試験(RCT)と非ランダム化比較試験:

「介入」と「対照」に分けて比較していく研究。被験者をランダム(無作為)に選ぶ場合をランダム化比較試験(RCT)といい、そうでないものよりエビデンスレベルが高い。

このデザインに代表される介入研究には、「介入」と「対照」をグループに分ける「グループ間比較試験」と、被験者のグループが時期を変えて介入を行って比較する」クロスオーバー試験」がある。

次回は、これら研究デザインの種類を考えながら、論文を読むためのコツを説明します。そして、一つの論文を取り上げて考えていく事に繋げます。

日本メディカルハーブ協会学術委員
村上志緒 むらかみしほ
株式会社トトラボ代表。薬学博士・理学修士。早稲田大学及び大学院理工学研究科修了。東邦大学大学院薬学研究科修了。植物療法学(民俗薬草文化、作用機序、特に向精神作用)を研究。日本、ネイティブアメリカン、そして南太平洋フィジーのハーブが研究テーマ。ハーブやアロマテラピーといった植物療法について、自然・生活文化・科学の観点から学ぶ講座を「トトラボ植物療法の学校」にて展開。東邦大学薬学部訪問研究員。東京都市大学など非常勤講師。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第60号 2022年6月