2022.6.22

中程度の新型コロナウイルス感染における甘草とボスウェリアの効果

学術委員

河野加奈恵

新型コロナウイルスの予防や治療に関して、治療薬やワクチンの補完的役割を期待し、さまざまなメディカルハーブが研究されている。

新型コロナウイルスは、ウイルス表面のスパイクタンパク質がヒト細胞表面にあるアンジオテンシン変換酵2(ACE2)受容体に結合して細胞に侵入する。また、それに伴うACE2発現低下により、本来ACE2受容体に結合することにより不活性化するアンジオテンシンIIが増加し、それにより炎症性サイトカインストームが引き起される。新型コロナウイルス感染においては、全身性炎症を引き起こす炎症性および炎症誘発性サイトカインの制御が感染の重症度を抑える鍵だと考えられている。

この全身性炎症と免疫調節不全の制御に焦点をおき、漢方薬でも西洋ハーブ療法でも抗ウイルス作用だけでなくその優れた抗炎症作用から広く利用されている甘草(Glycyrrhiza glabra)が注目され、最近の研究でその潜在的な治療的役割が徐々に示唆されてきている。in vitro研究では、甘草の主成分のグリチルリチンがウイルス複製を阻害したり、また、グリチルリチンはスパイクタンパク質に結合し、新型コロナウイルスの細胞への結合を防ぐを防ぐことで感染を阻害する作用があることがわかっている。

この度、甘草と同じく抗炎症ハーブとして代表的なボスウェリア(Boswellia serrata インド乳香)と甘草をコンビネーションとして用い、新型コロナウイルス感染症における治療効果を測る臨床試験が行われた。

この二重盲検プラセボ対照無作為化単一施設試験では、PCR検査によって変異型含む新型コロナウイルス感染症と診断された中程度の症状がある入院患者50名を対象に行われた。患者の選定に際しては、軽度または重度の感染者、その他の理由による急性呼吸器症状、新型コロナウイルスワクチン接種者、新型コロナウイルス再感染者、妊娠・授乳期の患者、および重度の高血圧の患者は除外された。

50人の患者をランダムに甘草(グリチルリチン 60 mg配合の甘草エキス300mg)とボスウェリア(ボスウェリア酸 200 mg配合のボスウェリアエキス300mg)を配合した経口カプセルを摂取するグループ(GR+BAグループ)とプラセボのグループに分け、施設内標準治療(パラセタモール、アジスロマイシン、ビタミンC、亜鉛、クレキサン)と並行して、それぞれを1日2回14日間摂取し、安全性と有効性を評価した。評価においては、死亡率、回復までの時間、人工呼吸器を必要とする人数、臨床的改善または悪化を示す臨床スコア、また、リンパ球、C反応性タンパク質(CRP)、および血小板数など、重症化や機能不全または予後の経過などを示す検査値が記録された。

対象となった患者の平均年齢は60歳で、最も多かった基礎疾患は糖尿病と高血圧であった。14日間の治療後、特に死亡率と回復までの時間において、GR+BAグループではプラセボグループに対して明らかに有意差が出た。プラセボ群での5人の死亡に対し、GR+BAグループではゼロ、プラセボ群での12日間の回復時間に対し、GR+BAグループでは7日間だった。また、人工呼吸を必要とするプラセボ群の患者の割合20%に対し、GR+BAグループではゼロ、臨床スコアでもGR+BAグループではプラセボグループよりも低下(改善)を示し、また、プラセボグループで人工呼吸器を使用した5名に対し、GR+BAグループではゼロであった。検査値では、リンパ球の割合においてGR+BAグループでプラセボグループに対し有意な増加が見られ、CRP値においてはGR+BAグループで優位な低下が見られた。また、GR+BAグループでの顕著な副作用は見られなかった。

これらの結果により、甘草とボスウェリアは新型コロナウイルス感染による重症化と死亡のリスクを減らすために有望である可能性が示唆された。甘草とボスウェリアが持つ、その抗酸化作用、抗炎症作用、免疫調節作用が、新型コロナウイルスに対するマルチターゲットの作用機序として貢献していると推測される。

今回の臨床試験では期間内で試験への参加に同意する患者に限りがあったため、小規模で行われたことや、また、退院後の患者のフォローアップがされておらず、明確な治療法がなく管理が難しくなってきている感染の後遺症などに対しての効果などが調査されなかったため、今後さらに規模を広げて試験が行われることが期待される。

〔文献〕

Gomaa AA, et al. Advancing combination treatment with glycyrrhizin and boswellic acids for hospitalized patients with moderate COVID-19 infection: a randomized clinical trial. Inflammopharmacology. 2022 Apr;30(2):477-486. DOI 10.1007/s10787-022-00939-7. Epub 2022 Mar 1. 

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第59号 2022年3月