2011.10.14.

エキナセアは風邪の罹患期間短縮や症状緩和に顕著な効果は示さないという見解

日本メディカルハーブ協会国際情報委員会

翻訳:村上志緒、コメント:金田俊介

(原題:Study Finds Echinacea Does Not Reduce Duration and Severity of the Common Cold、2010年12月掲載、NCCAM Research Spotlight)

エキナセア(キク科 Echinacea purpurea, Echinacea angustifolia)のサプリメントの内服は、風邪の症状緩和や罹患期間の短縮について、プラセボと比較して顕著な効果はみられないという見解がAnnals of Internal Medicine 2010年153巻に発表された。

エキナセアは風邪の症状緩和を目的にしばしば活用されるメディカルハーブである。今回取り上げた論文では風邪に対するエキナセアの効果を検証するために行われた研究の結果について述べられている。

ウィスコンシン大学(University of Wisconsin)の研究者らは風邪に対するエキナセアの効果を検証するためのランダム化比較試験(randomized controlled trial; RCT)を遂行した。被験者となる12~80歳の713名の患者は、内服しないグループ(非内服群)、内容を知らされずプラセボの錠剤を内服するグループ(プラセボ盲検群)、内容を知らされずエキナセアの錠剤を内服するグループ(エキナセア盲検群)、内容を知りながらエキナセアの錠剤を内服するグループ(エキナセア非盲検群)といった4グループに無作為に分けられた。被験者らはE. purpurea 根675mg 及びE. angustifolia 根600mg含有するエキナセア錠を、初日は2錠ずつ4回、続く4日間は一日4回1錠ずつ内服し、罹患期間及び症状の程度について自己問診票を用いて毎日2回、最長2週間まで調べられた。

その結果、エキナセアを内服したグループでは、エキナセア盲検群及びエキナセア非盲検群に関わらず、非内服群、プラセボ内服群と比較して、風邪の症状緩和や罹患期間短縮についての顕著な効果はみられなかった。論文の著者らは、エキナセアには、平均で罹患期間を0.5日短縮し、症状を10%改善するといった傾向がみられることを述べながらも、本研究での用量及び用法では顕著な効果を見せることはなかったと結論づけている。
※本研究はNCCAM-funded research project の取り組みの一つである。

〔文献〕Barrett B, Brown R, Rakel D, Mundt M, Bone K, Barlow S, Ewers T. Echinacea for Treating the Common Cold Annals of Internal Medicine. 2010; 153: 769–777.

(訳:村上志緒)

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上記論文についてのJAMHAコメント

この論文はエキナセアサプリメントの風邪に対する効果を調査した結果を報告したものです。このような臨床試験に関する論文を読む際には、「試験がどれくらい正確に行なわれているか」に注意しましょう。注意する点はいくつかありますが、特に、試験群が適切に設定されているかどうかがとても大事な点です。例えば、エキナセアの風邪に対する効果を調べるためには、少なくとも次のような試験群が必要です。

(1) 風邪に対して効果があるはずの「既存の風邪薬」
(2) 風邪に対して何も効果を示さないはずの「偽物の薬=プラセボ」
(3) 風邪に対する効果を知りたい「試験薬=エキナセア」

「既存の風邪薬」が風邪症状を軽減してくれ、「偽物の薬」にあまり効果がなければ、この時点で臨床試験自体は適切に行なわれていると判断してもいいでしょう。それを踏まえて初めてエキナセアの効果を検証できるのです。
この論文では、肝心な(1)の試験群が設定されていませんでした。もしエキナセアに劇的な効果が認められたのであれば、それでもよかったのかもしれません。ただ、今回のようにすべての試験群であまり効果が見られなかったような結果では、果たしてこの試験が適切に行なわれていたかどうかすら判断できません。
このように、「効果があるはずの試験群」を「陽性対照群」と呼びます。一方、「効果がないはずの試験群」を「陰性対照群」と呼びます。何かの効果を調べる時には、調べたいものの他にこの2つの試験群が用意されているかどうかに注意しましょう。

さらに言うならば、この試験ではエキナセアの用法も用量も1パターンしかありませんでした。より高用量あるいは低用量で試験することで違った結果が見られたかもしれません。

実は、今回ご紹介した論文のように、タイトルは目を引くものの、実際に中身を吟味してみると試験方法に問題があるような論文は珍しくありません。きちんとした情報を得ることが大事です。

ここで指摘した以外にも、いくつかの問題点がこの論文には散見されますが、実は「風邪」に対する「ハーブサプリメント」の治療効果という点に、この試験の難しさがあります。
先ほど、試験薬として「効くはずの既存の風邪薬」を用意すべきと言いました。確かに試験の正確性という点からはその通りなのですが、本当に効く風邪薬を用意することができるのか。単なる解熱効果などを比べることは簡単ですが、「風邪」そのものに対する効果を比較するのはとても困難です。風邪とは様々な症状を引き起こすものなのです。また、「ハーブサプリメント」は、統一された規格をもつ医薬品ではないため、一社のエキナセアサプリメントのみを試験薬として用いたところで、すぐに全てのエキナセアについての効果を結論付ける事はできないのです。
このように、風邪に対するエキナセアの効果を調査するのはとても困難であるにも関わらず、その人気からか米国では実に多くの研究がなされています。そして、やはり困難な試験であるために、はっきりとした結論は未だに得られていません。ある試験では有効であり、別の試験では無効であるのです。今回の論文に対して、掲載誌の編集者はこのようにコメントしています。「この論文は、RCT(という厳密な試験)において統計学的に有意ではないものの、エキナシア投与により風邪症状を軽減させる傾向にあることを示した点が優れている。とは言え、風邪に対するエキナセアの効果についてはまだ決着は付きそうもない。」

(コメント:金田俊介)

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〔知っておきたい用語〕
1)ランダム化比較試験(randomized controlled trial; RCT)
ランダム化(ランダム割付け)を用いて、ヘルスケアの介入(薬、手術、検査、看護、教育、サービスなど)を行う群(介入群)と対照群に分けて、評価を行う臨床試験の方法。具体的な対照群としては、無治療、プラセボ、標準治療などがある。無作為化比較試験ともいう。

2)ランダム割付け
被験者を2つ以上の群に無作為に割付ける方法。各群の背景因子が均等になりバランスが取れるように、乱数表やコンピューターで発生させた乱数などを用いて割付けること。無作為化ともいう。

3)プラセボ
本物の薬のように見える外見をしているが、薬として効く成分は入っていない、偽物の薬のこと。

4)盲検(blind)
試験の対象となるプラセボと効果を調べる薬などとの区別を知らずに行うように組み立てられた臨床試験方法のことをいう。被験者、試験者共に知らない場合を二重盲検という。

5)NCCAM
National Center for Complementary and Alternative Medicineの略。米国の国立衛生研究所(National Institute of Health; NIH)に属する国立補完代替医療センターのこと。

6)陽性対照群(ポジティブコントロール)
対照実験において、陽性を示すことが予め分かっているような実験群。例えば新規薬剤の実験なら、効果が認められている既存の薬剤を投与される実験群のこと。特に不安定な実験系の確からしさを見るための指標になる。

7)陰性対照群(ネガティブコントロール)
対照実験において、陰性を示すことが予め分かっているような実験群。対照実験においては必須の実験群と言える。例えば新規薬剤の実験なら、効果のない薬剤(プラセボ)を与えられる実験群のこと。