2012.2.1

the 42nd International Symposium of Essential Oils(ISEO2011)に参加して

東邦大学薬学部 講師

佐藤忠章

2011 年秋、植物療法に関する二つの国際学会であるGA2011 とISEO2011 が同時に開催されました。GAとはドイツのGesellschaft fur
Arzneipflanzen und Naturstoff-Forschungの略、英語ではSociety for Medicinal Plant and Natural Product Research と表記される、植物療法全般に関する国際学会で、今回59 回目を迎えました。そしてISEO2011 は「International Symposium of Essential Oils」という名前のとおり植物精油に関する学会であり、ヨーロッパを中心に開催されています。

今回の開催地は、東洋と西洋を併せ持つ国であるトルコ共和国のアンタルヤというところでした。アンタルヤは、かつてローマ帝国、ビザンチン帝国、オスマン帝国という3代続いた大帝国の首都だったトルコ西部のイスタンブールから国内線の飛行機で約1 時間半、アジアとヨーロッパの境界に位置しており、東西文化の賜物でもある植物療法の学会開催地として適した場所といえるでしょう。そしてアンタルヤは、ローマ皇帝ネロに遣えた軍医であり、植物療法に関する歴史的名著『マテリアメディカ{De Materia Medica}』 を著したディオスコリデスゆかりの土地でもあり、その地で合同開催する記念シンポジウムとのことでした。

これらのうち、私は今年で42 回目となったISEO に今回初めて参加いたしました。植物精油の研究を討論する場は、国内でも国外でも少なく、国際学会ではこのISEO くらいではないかと思われます。研究の対象を広く天然物のようにするとISEO 以外にも多くの学会が考えられますが、そのような場での植物精油研究の発表は少数派となってしまい、植物精油を研究している研究者との情報交換は難しく、今回のISEO 参加は貴重な経験となりました。

会場となったマーチンパインビーチホテルのメイン会場は200 名くらいが収容可能で、参加者もそれくらいだったと思われます。参加者の多くは大学関係者で、開催地の関係上からなのか日本からの参加者は私を含めて5 人でした。

講演内容としては植物精油成分の分析、単離、抗菌活性に関する発表が多く、興味深かったのは、徳島文理大学の浅川先生のゼニゴケ類の揮発性成分に関する膨大な研究、南アフリカのTshwane University of
Technology のDr. Vilioen による、南アフリカの植物資源の豊富さなどです。以下に主要な講演(Plenary Lecture)の内容をリストアップします 。

参加者のほとんどが大学関係者だったことも関係していると思われますが、植物にはどのような香りの成分があり、どのように分析できるかといった内容が多く、アロマテラピーとしての活用法などに関する報告は全くありませんでした。植物精油の成分を化粧品などの香料として考えた研究が多くみられる一方、マウスなどを使用した動物実験を報告している内容は少なかったように思います。ヨーロッパを中心とした、化粧品の開発には実験動物を使用した研究は行わないといった流れが影響しているのかもしれません。

我々の研究は、植物精油の作用を薬学的な観点から研究を行っています。すなわち、これまで経験的に使用されてきた植物精油のリラックス作用(主に抗不安様作用)を科学的に解明しようと取り組んでいます。基礎研究なので、マウスを使用して嗅覚と情動行動の関係を明らかにしようと試みています。現在、植物精油の吸入では、神経学的伝達経路(神経を介して精油成分を刺激とした信号が伝わる)と薬物学的伝達経路(精油成分が体内を移動する)の両方の重要性が少しずつ明らかになってきています。

次回の2012 年のISEO はポルトガルのリスボンで開催されることが決まっています。機会があれば、次回も参加したいと考えています。