2018.6.1.

不思議な果実のケンポナシ

昭和薬科大学 薬用植物園 薬用植物資源研究室 研究員

佐竹元吉

ケンポナシ Hovenia dulcis

ナシの名前のあるケンポナシは、バラ科のナシと違い、クロウメモドキ科の植物で、食べる部位も果実ではなく果実をつける肥厚した枝である。この果実が食用だけではなく、枳椇子きぐし と呼ばれ、薬として使われている。奇異な形の枝にあるケンポナシについて記す。

形態:樹高は15~20m。葉は互生。葉身は広卵形で質はやや薄い。縁には低い鋸歯がある。
葉脈は基部から3主脈。枝先から集散花序を出し、淡緑色の小さな花を多数開く。花弁、萼辺がくへん、雄しべは5本。果実は球形の核果だが、果肉はほとんどない。代わりに果柄が太く折れ曲がって肉質になり、冬に熟し、果実が黒色になり、果柄は梨の香りがする。種子は大きく固い。哺乳類などによる被食型散布。

葉の特徴:基部から分岐した3本の葉脈がある。葉はやや厚く、広卵形から卵心形、乾燥すると暗赤褐色。下面は有毛。

花序は集散花序:軸の先端の生長点が一度止まって花がつき、あらためてそのすぐ下から枝が出て、伸長して花をつけ、さらにその下から分枝生長するような形となる有限花序の1つ。花茎の主軸の先端にまず花が作られ、次の花はその下方の側面の芽が伸びて作られるものである。花梗かこうの枝は果時肉質になる。花盤に毛がある。花柱は3裂。

果実と果梗:花梗は果時肥厚する。果実は3室、不裂開、外果皮は革質、3種子。種子は扁平で光沢がある。

名前の由来:肥前(佐賀県、長崎県)地方では、ケンポコナシと呼ぶ。その名から、ドイツ人のシーボルトは、日本名で計無保乃梨(ケンポノナシ)、別名を漢名シグとした。当時の日本の本草学者は、枳梖きぐの漢名を、シク、シグと読んでいた。江戸時代後期の『本草綱目啓蒙』(1803年)では、計無保乃梨(ケンポノナシ)から転訛して、ノがとれて、ケンポナシの名になった。

近縁種:国内には ケケンポナ シ Hovenia tomentella (Makino)Nakaiが本州と四国に分布している。ケンポナシに類似するが、果実や葉の下面に褐色毛がある違いがある。中国ではケンポナシを北枳椇と呼び、枳椇はシナケンポナシHovenia acerbaと称している。

ケンポナシの生薬:枳椇子(キグシ)

ケンポナシには果柄のついた果実と種子の2つがある。

1)乾燥した果柄のついた果実

果柄は膨らんで大きく、多肉質で肥えて厚く、分枝が多く、湾曲し、形はニワトリの爪に似る。分枝は丁字型か互いに垂直をなし、長さ3~5㎝、直径4~6㎜。表面はやや光沢がある茶褐色で縦じわがあり、時には灰白色の皮目がある。分枝の先端に鈍三稜状円球形の果実を1個つける。果皮は紙質、非常に薄く、3室、各室に種子1個を含む。果柄の質はやや柔らかく、折れやすい。折断面は平坦、角質様、淡紅褐色ないし紅褐色。匂いはわずかに弱く、味は淡いかあるいはやや甘い。

2)乾燥した種子

扁平な円形で、背面はやや隆起し、腹面は比較的平ら、直径3~5㎜、厚さ約2㎜。表面は紅褐色、なめらかで光沢があり、基部には楕円形で点状のへそがある。頂端には微突形の合点があり、腹面には縦に隆起した種背1本がある。種皮は堅く、厚さ1㎜、胚乳は乳白色、油質、内には淡黄色ないし草緑色で油質の肥厚した子葉2枚が含まれている。匂いはやや弱く、味は苦く渋い。

薬効など:利尿、解毒薬として二日酔い、嘔吐、口渇、大小便不利に用いる。民間薬でこの果柄および果実を煎じてのむと酒毒を解し、悪酔、二日酔によく、嘔吐を止める作用があるといわれている。また古くから酒づくりには禁忌とされ、この木で柱を作ると家中の酒が薄くなり、種子などを酒の中に入れると酒が水になるといわれる。

成分:トリテルペン(ホべニズルシゲニン類、ホベノラクトン)、トリテルペンサポニン(ホベロシドI~X)、シクロペプチド(フラグランニン)、ショ糖、ブドウ糖。

昭和薬科大学 薬用植物園 薬用植物資源研究室 研究員
佐竹元吉 さたけ・もとよし
当協会顧問。1964年東京薬科大学卒業。国立医薬品食品衛生研究所生薬部部長、お茶の水女子大学生活環境研究センター教授、富山大学和漢医薬総合研究所・お茶の水女子大学客員教授を歴任。
著書『第16改正 日本薬局方生薬等の解説書(』共著・廣川書店)、『基原植物辞典』(中央法規出版)ほか。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第44号 2018年6月