2020.12.30

ドングリは立派な地球資源

NPO 法人「地球の緑を育てる会」理事長

石村章子

今回は茨城県つくばみらい市を拠点に国内外で緑の森づくりや自然教育に取り組んでいる NPO 法人「地球の緑を育てる会」理事長の石村章子さんにお話をうかがいました。

取材:日本メディカルハーブ協会理事 金田太朗

最初に、石村さんが理事長を務められている「地球の緑を育てる会」は、どのような活動をされているのかうかがいたいと思います。

石村 章子さん(以降、石村)

私たちの会は、広葉樹の育苗と植樹を活動の中心にしています。ポットに樹木の種をまき、苗木を育て、植樹する。その指導をしてくださったのは、横浜国立大学名誉教授の宮脇昭先生です。山だけでなく、公園や学校、企業の工場の敷地などに植樹することもあり、設立以来、国内での植樹は100回を 数えました。中国など海外でも植樹活動を行っています。1つ特徴といえるのは、筑波山麓の森林再生活動です。筑波山は国定公園に指定されていますが、山の中腹に筑波山神社があり、375ヘクタールという広大な神社林をもっています。その神社林内の過密に植えられたスギ・ヒノキを間伐し、整地して新たに常緑広葉樹などを植え、自然林に再生していく取り組みです。もう12年間続けています。

広葉樹を植えることは、スギやヒノキなどの針葉樹を植えることと何が違うのでしょう。

石村

日本では明治の終わり頃から人口急増と自然災害とで、多くの山がハゲ山になりました。これを憂えた政府が植林を始めた時、選ばれたのがスギ・ヒノキの針葉樹でした。早く育ち、強くて裸根で植えやすかったからでしょう。戦後も住宅難に対応するために木材が必要とされ、どんどん植えたのですが、安価な輸入材に押されて使われないまま放置され、山が荒廃していきました。私たちはそのような森を本来の森の姿に戻す試みをしているわけですが、健全な針葉樹は残して広葉樹を植えるので、針葉樹と広葉樹の混交林となり、水源の森としての機能を向上させます。

当会が取り入れている「宮脇方式」では、シイ、カシ、タブの3つが主木となります。これらは地震や大水などの災害にも強く、地中深く根が張るので、火事を防ぐ防火効果もあります。ですから、広葉樹の森は防災環境林としてものすごく優れていると思います。

針葉樹と広葉樹のどちらがいいという話で はないということですね。

石村

森林には、もともとあった自然林の他、切っては植えを繰り返し、生活の足しにしてきた雑木林、建築材を得るための経済林などの分け方があります。その区分けをしっかり定めた上で、役目を果たしているのであれば、どちら がいいとか悪いとかいう問題ではないと思います。

ただ、森というのは人間が生きていく上で絶対に必要だと思うんです。筑波山でもそうですが、 森林の中にいると自分が健康になっていくのがわかる。ものすごい森林の力というか、緑の力を感じます。森林は、地球の ハーブ園といってもいいかもしれません。ですから私は家を新た に建てる時には少しでも木を植えてほしいと思うのですが、今の人は落ち葉が面倒だと言って嫌います。公園に木を植えようとしても、陰になって痴漢が出て危ないと言って反対される。日本では木を植える場所の確保が大変なんです。

身近なところに少し木を植えるだけでもいい ということですね。

石村

家の一角に木があるだけで、精神的なものも違います。木を植えるのが難しければ、花でも苔でも、マンションのベランダに鉢植えの木を置いてみるだけでもいい。それに関心をもつことで世界を見る目が全然違ってくる。いきなり森づくりというのは個人でできることではありませんが、そうやって森林に対する意識をもち、自分にできることをちょっとでもやってみることがものすごく大事だと思います。

私たちも2001年の秋に宮脇先生の講演を聞きに行って、「ドングリを集めて苗で育ててごらんなさい。ドングリは立派な地球資源なんだよ」って言われて、そこから活動をスタートして、いつの間にかこうなったのです。

森に携わって20年で、ご自身の中で変わったことは何でしょうか。

石村

私は農学部を出ているわけでも専門家 でもなく、単なる主婦だったのです。私どもの仕事は地球環境課題の中のほんの一部ですが、 ビジョンとしては大きなものをもっていなければ活動と結びつきません。だから常に森のことを軸にして普段の情報に触れ、考え、自分の糧としていくようにしています。

地球は大きいから、これくらいしてもたいしたことないと思うのは大間違いだと思います。地球は様々な要素の、非常に微妙なバランスの上に成立しており、わずかな変化でも傷つきやすいものだと活動をしていて感じています。人間は便利さと効率を求めて進化していくわけですが、やはりスローなものをあえて体感していかな いと人間としてのバランスもおかしくなるのではないかと思うんです。

会として今後やっていきたいことがあれば、お聞かせいただけますか。

石村

今、植樹にはお子さんにも参加していただいていますが、教育が大事だなと思います。苗木とか土とか、そういうものに触れる機会をできるだけ多くする。今お借りしているこの場所には苗を育てる圃場の他、畑もあります。今日は幼稚園児が来て芋掘り体験をしましたが、広く安全な場所ですから、小学生でも大学生でもシルバーでも、交流ができて楽しめて、その中で環境のことや自然のことを語れる、そんな場所にここを提供して皆さんに活用していただければ嬉しいなと思っています。1人ひとりに関心をもってもらうこと。一番時間がかかりますが、それが一番大事なことだと思います。

NPO 法人「地球の緑を育てる会」 (https://greenglobe.jp/about/)


NPO 法人「地球の緑を育てる会」は、森づくりと自然教育(森育)を主な活動とする団体です。筑波山を中心的な活動のフィールドとして、森林再生(Reforestation)から地球環境問題にアプローチし、植樹だけでなく、育てる、植える、伐る、使う、の循環を発信していくことを目的とした「森育ワークショップ」なども開催しています。 つくばみらい市の圃場では42種類の苗木を育てており、筑波山にはこのうちシラカシ、アカガシ、ウラジロガシ、スダジイ、ヤマザクラ、コナラ、タブノキ、シロダモ、ヤブツバキ、ユズリハ、イヌシデの11種を植樹しています。

NPO 法人「地球の緑を育てる会」理事長
石村章子 いしむらあやこ
農学者・園芸学者であった故・遠山正瑛氏(鳥取大 学名誉教授)の沙漠緑化団体での勤務をきっかけに植林と栽培を学び、2001年に現副理事長・須藤高志氏とともに「地球の緑を育てる会」を立ち上げる。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第46号 2018年12月