2020.12.15.

クチナシ – その2

昭和薬科大学 薬用植物園 薬用植物資源研究室 研究員 当協会顧問

佐竹 元吉

はじめに

石垣島で採集したクチナシの果実は赤熟しておらず、緑のままであった。この種をまくとほとんどが発芽して、緑の葉が出そろった。一年間温室で栽培し、屋外で栽培すると約20cmに育ったが、冬の寒さで、みな枯れてしまった。筑波で採取した種からのものは枯れずに青々としていた。石垣島のクチナシは、本州の種とは異なっていることが明らかになった。

なぜこのクチナシにこだわったかの理由

サンシシは、薬局方の山梔子の規格に合わない、長紡錘形で淡褐色の水梔子が中国から輸入されていると鑑定を頼まれたことであった。水梔子の基原植物は不明のまま薬局方不適として評価していた。石垣島のクチナシは青いまま熟すので、採集し、淡褐色になるものは 水梔子と同じではないかと考えた。中国の 植物誌には、1. Gardenia jasminoides var. jasminoides  栀子と、2. Gardenia jasminoides var.fortuneana が記載されている。1.花冠は一重で、花は完全花で、果実ができる。野生または栽培されることもある。2.花冠は二重で、花粉がなく、結実しない、栽培植物である。

日本薬局方の山梔子には、水梔子は区別せず、クチナシ Gardenia jasminoides の果実で、ときに湯通し又は蒸したもので、ゲニポシド3.0% 以上を含むと記載されている。富山大学伝統薬データベースでは、山梔子は丸手のもの、水梔子は長手のもの。一般に丸手の充実した、紅色のものが上品であるとしている。

1)左/山梔子 右/水梔子
写真提供: 株)栃本天海堂 松島 成介氏

クチナシの形態

常緑灌木、葉は広披針形、狭長楕円形、または菱状広倒披針形で、深緑色、鋭頭鈍端、基部鋭尖頭で短い柄がある。長さ6~12cm、幅1.5~ 4cm。托葉は脱落性で、苞状、基部縁辺は互いに癒合する。花は単生、短梗あり、ガク裂片は広 線形で長さ1~2cm、筒部と同長、宿存する。花冠は白色、高盆状で、筒部は長さ約3cm、裂片は 6~7個、開出で、広倒披針形、長さ2.5~3cm、 果実は倒卵形、または長楕円形で長さ1.5~ 2.5cm。葉はおおむね3個輪生で大きく、花は大輪で八重咲き、オオヤエクチナシと呼び、中国原産、ヨーロッパで広く栽培された。茎が倒伏し花が小さいものをコクチナシ var.radicans と呼ぶ。

2)クチナシ
写真提供: 元昭和薬科大学薬学部 磯田 進氏

3)コクチナシ
写真提供: 昭和薬科大学 薬用植物園 中野 美央氏

薬用としてのクチナシ

クチナシの実、山梔子は薬用として、消炎、 止血、鎮静、利尿作用、不眠解消や精神不安改善などの効果のために漢方処方に配合されている。茵蔯蒿湯 ( いんちんこうとう ) は、山梔子、茵蔯蒿の組み合わせにより、肝炎、胆嚢炎などによる黄疸、全身のかゆみ、口内炎などを治す。黄連解毒湯 ( おうれんげどくとう ) は山梔子、黄連の組み合わせにより、熱のための精神不安、不眠、諸出血を治す。加味逍遥散 ( かみしょうようさん ) は山梔子、牡丹皮との組み合わせにより、更年期障害ののぼせ、焦燥感を改善する。

4)クチナシの果実
写真提供: 元昭和薬科大学薬学部 磯田 進氏



5)山梔子
写真提供: 株)栃本天海堂 松島 成介氏

食品としてのクチナシ

日本では、飛鳥時代から、食品の着色料や染料に使われていた。『日本書紀』(720年)では天武天皇(682年)に多禰島(種子島)より、「支子」が献上されたと記載されている。『延喜式』(927年)には美濃、参河、遠江、伊予の4カ国からの献上の記載がある。花は芳香があり、わずかに甘みがあって、サラダや刺身のツマに用いられていた。新鮮な花弁は、煮ると粘りが出て酢醤油で食べるとおいしい。果実はきんとん、栗甘露煮、染め飯餅、クワイ、沢庵漬けなどの着色に用いられている。古くは兵糧米の変質を防ぐため、煎液に米を浸して蒸し、貯蔵したようである。

クチナシの花の香

梅雨時、庭に出るとクチナシの香が漂ってくる。 ヤエクチナシがこぼれるように大輪の花をつけていた。ジャスミンの香と似ていることから学名に jasminoides がつけられている。成分は、ベンジルアセテート、リナロール、リナリルアセテート、ターピネオールなどである。

6)ヤエクチナシ
写真提供: 元昭和薬科大学薬学部 磯田 進氏

昭和薬科大学 薬用植物園 薬用植物資源研究室 研究員 当協会顧問
佐竹 元吉 さたけ・もとよし
沖縄美ら島財団研究顧問。1964年東京薬科大学卒業。国立医薬品食品衛生研究所生薬部部長、お茶の水女子大学生活環境研究センター教授、富山大学和漢医薬学総合研究所・お茶の水女子大学客員教授を歴任。著書『第17改正 日本薬局方生薬等の解説書』(共著・廣川書店)他。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第50号 2019年12月