2020.12.17

地球環境を考える・森と人の暮らし『私の森 .jp』

自然からの恩恵を受けながら日々暮らす私たちが今、考えるべき地球の健康について様々な観点からレポートしていきます。今回は森と人の暮らしをテーマに、日本の森に関する情報提供サイト『私の森 .jp』編集長の赤池円さんにお話をうかがいました。

――赤池さんが森に関する情報発信サイトを立ち上げたきっかけや、森が果たす役割などについてお聞きしていきたいと思います。

赤池 円さん(以降、赤池)

私たちが行っている森づくり活動は、ウェブサイトで森と人と暮らしをつなげてゆくことです。きっかけは、私にとっ環境問題に関するメンターであり、 尊敬する友人でもある環境ジャーナリストの枝廣淳子さんから「日本の大切な森や林業について、失われつつある関心や共感を引き寄せたい」という相談をいただいたことからでした。

私たちは2008年、日本の森と暮らしと心を考える、をテーマに「私の森 .jp」と名づけたウェブサイトを立ち上げました。立ち上げから3年間応援いただいた企業スポンサーの契約が終わった後も、プロボノ仲間と共にボランティアで 編集・発信活動を続け、10年になります。

――活動を行う中で日々、感じていることを教えてください。

赤池

日本では、歴史的に森が搾取されてきました。古くは寺院仏閣などの建材として、それから、製鉄業など産業を支えるエネルギー供給源として。そして戦争のたびに、大量の木材が供出されました。江戸時代には植林をして森を育てる林業も盛んになっていましたが、 それでも、当時の資料を見れば、ハゲ山だらけだったことが分かります。戦後は、住宅需要に応えるため、国策として拡大造林政策が打ち出され、早く育つスギ・ヒノキが日本中に植えられました。大事に残されていた広葉樹林を伐ってまで、スギ・ヒノキに植え替えられたと言います。

そしてまたこの10年は、薪炭林として里山に残されていた貴重な広葉樹林が伐採されて、太陽光パネルが置かれる例が目立ちます。

日本人は縄文時代からずっと森と一緒に生きてきたので、本来、上手につき合えるはずなんで す。水も空気も木材も全部、森からもらって私たちは暮らしてきました。ハーブもそうですよ ね。だからこそ、何としてでもいい状態で森を次の世代に残していくべきだと考えています。

ヒトが生きてきた長い時代のDNAの中に、「森と一緒に生きる」という設計図のようなもの が入っていると思うんです。ところが現代の急速な変化の中で、本来のバランスを崩してしまうのではないかという怖さを感じています。 そうならないために、私たちのように都市に暮らし、普段自然との接点が少ない人たちも「都合のいい自然」だけではなく、本当の豊かな自然を森に学び、気づきを得る機会を増やしていこうと、活動をしています。豊かな自然とは、共 生することであり、お互いを認め合うことだということを森はいつでも教えてくれます。

―― 森とつき合う中で、赤池さんが大切にしている視点があれば教えてください 。

赤池

生き物は自分の生息する環境が変化することに対する察知能力をもっています。当然植物もたくさんの「環境を把握する術」をもっているはず。だから植物単体ではなく、「森の全体性」を見ることが大切だと思うのです。

これから先はさらに温暖化も進み、災害も激甚化していくでしょう。だからこそ、森の全体的な力を見直さなくてはいけないと思っています。たとえばよく土砂崩れの原因になると言われるスギやヒノキの針葉樹林であっても、生態系の全体的な豊かさを育む森づくりをすれば災害にも強い森になるだろうと思います。

森は懐が深くて、多様な視点と豊かな知識を与えてくれます。ですからぜひ、自然を正しく 理解するためにも、皆さんに、森へ行っていただきたいと願っています。

―― まさに「木を見て森を見ず」になってはいけないということですね 。

赤池

環境のことを考える上で大きなキーワードとなるのが「持続可能性」ですが、その1つの指標として「幸福度」との関係に着目した事例があります。ブータンでは前国王が GNP(Gross National Product:国民総生産)の代わりに幸せを測る「GNH( Gross National Happiness:国民総幸福)」という指標をつくりました。その指標はたくさんあるのですが、その1つに「自分の住 んでいる地域の動植物の名前をいくつ言えるか」という項目があります。すごくいいな、と思いました。一見、直接的な関係がなさそうですが、よく考えてみると、動植物の名前を知っているということは土地のことを知っていることであり、地域を愛しているということでもあ る。いざという時に助けてくれる人やものと多くつながっているということにもなるでしょうし、「故郷」をもつというアイデンティティでもあります。生き物たちは幸せのメッセンジャーだと思うこともできますね。

―― 最後にこれからの活動についてお聞かせください。

赤池

皆さんにもっと森のことを考えてほしいと願ってはいますが、もちろん強要することはでき ません。私たちの役割は、情報を通じてより多くの方に森のことを考える「接点」をつくりだ すことだと思っています。日本にはすてきな森の活動をされている方がたくさんいらっしゃいますから、こうした活動情報をきちんと伝えたりするのも大事ですし、山の植物で街の室内を 飾って楽しむ、森を祝う「みんなの夏至祭」というイベントなども開催しています。

これからも森を想う活動を続けていきますので、ぜひご一緒しましょう。

赤池 円 あかいけ・まどか MADOKA AKAIKE
(有)グラム・デザイン代表取締役。プロボノ仲間と共に、森と人と暮らしをつなぐ情報ウェブサイト「私の森 .jp」を運営、編集長を務める。東京の都市部に暮らしながら、非搾取的で創造的な自然とのつき合い方を求めて、森に関わる日々。2015年よりNPO 法人森づくりフォーラム理事。

私の森jp

「私の森.jp」は、日本の森と私たちの暮らしをめぐる情報をわかりやすくお伝えしようとする、編集ボランティア活動です。国産材の製品紹介から、日本の森の歴史や文化、クイズやインタビュー、 森で活動する団体の情報など、多様な編集切り口で森に関わる情報を提供しています。「私の森.jp」という名称には、日本の森が抱える問題を「私(わたくし)」に引き寄せて身近に感じたい。そして、「あそこは私の森」とココロに決めた「行きつけの森」を見つけてほしいという願いがこめられています。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第45号 2018年9月