2017.12.1.

第18回JAMHAシンポジウム報告

日本メディカルハーブ協会理事

野口和子

講演1「医薬同源〜気軽に始める薬膳のコツ」──齋藤友香理氏

「薬膳」と聞くと、特殊な食材を使った中国料理の一種だと考えている方もいらっしゃるでしょうが、そうではありません。私たちの身のまわりには誰でも使うショウガやミカン、長芋やゆり根、シソなどの身近な食材がたくさんあります。「薬食同源」の考え方から、身近な食材を使って「今の未病の状態から病気の予防に、そして健康増進へとつなげる食事を」という提案が薬膳です。これらの食材は身体に大きな影響を与えずおいしく食べることができます。また、よく知られているハトムギは薏苡仁ヨクイニン、クコの実は枸杞子クコシ、ハスの実は蓮子レンシで、生薬として漢方薬でも用いられていることから「薬食同源」であることがわかります。

漢方薬局での相談は、20代ではニキビや肌荒れ、月経トラブルが多いのですが、30代、40代と年齢を重ねるにつれ、疲れや冷え、更年期障害など自律神経失調症などの代謝異常の相談が多くなります。薬膳の目的は、食材の「食性」を知った上での「食養生」です。

薬膳は、陰陽五行説の考え方と密接につながっています。食材のもつ五味に酸味・苦味・甘味・辛味・鹹味(塩味)があり、五色は、青色、赤色、黄色、白色、黒色です。例えば秋から冬にかけての季節は3つのことに悩まされがちです。「五行配当表」でその特徴と対処法を見ることができます。

1つ目は「乾燥」。気温が変わりやすく、空咳や皮膚の乾燥、胃腸粘膜の潤い不足による食欲不振や便秘などのトラブルが見られるため、水分を保ち肺を潤す山芋、白キクラゲ、白ゴマ、松の実、レンコン、ゆり根や果物のブドウやレモンなどの白い食材を選びます。2つ目は「冷え」。急に気温が下がり、かぜを引きやすくなり喘息にも要注意です。鼻水や鼻づまりも現れます。白色の食材にネギやショウガ、シソやシナモンなどを足すのがよいでしょう。3つ目は「抑うつ感」が強くなることです。日が短くなると陰の気が増え、特に理由がないのにもの悲しくなり、不眠や気持ちが落ち込みやすくなります。ココロを明るくするには、スパイスやハーブを使い、柑橘類に含まれる温かみのある香りがリラクセーションをもたらします。

このように「薬膳」とは体調に合わせてその土地でとれる旬の食材を選び、それらをなるべく丸ごとよく噛んで食べて、食事を楽しむことにあります。カラダのサインに自らが耳を傾けて、病気を未然に防ぐという予防第一の考え方を身につけていきましょう。

五行配当表

講演1医薬同源〜気軽に始める薬膳のコツ

──齋藤友香理氏(薬日本堂漢方スクール講師、薬剤師)

講演2伝統社会の植物利用

──関野吉晴氏(探検家、医師)
パネルディスカッション
──齋藤友香理氏、関野吉晴氏、
小林理恵(JAMHA理事)、林真一郎(JAMHA副理事長)
– 日時 : 2017年10月15日(日)12:50~17:00
– 会場 : 大手町サンケイプラザ(東京都千代田区)

身のまわりにある不可欠な5つの要素、木、火、土、金、水は互いに助けたり抑えたりしながらつながっています。このつながりを自然界と人体に広げたのが五行説です。

五行説:自然界のつながり

講演2「伝統社会の植物利用」──関野吉晴氏

医師であり探検家である関野氏は、1993年から2002年にかけて人類が地球上に広がっていったグレートジャーニーの道筋を逆ルートで南米最南端のチリのナバリノ島からタンザニアまでをたどりました。今回は伝統社会の健康と医療についてビデオやスライドを交えてのお話でした。

ベネズエラのアマゾンの奥地のヤノマミ族は、1軒の家に100人ほどが住んでいます。だから家はパブリックな空間で、プライベートな空間は森です。現地では死因の60%がマラリアや感染症です。病にかかるとヤノマミシャーマニズムでの治療が行われます。シャーマンはマメ科の植物を炒って粉にして中空の筒に入れてそれを患者に吹き込みます。それを嗅ぐとトランス状態になり悪霊をヘイ・テ・ミシといわれる地下に退けるとされています。

ペルーとボリビアにまたがるチチカカ湖の北東地にはカラワヤと呼ばれるシャーマンが暮らしています。カラワヤは治療師であり哲学者です。すべての自然物を人間と同じような生命体として、人間・自然・超自然の間の均衡が重要だと考え、約300種の薬草の知識で肉体と精神の均衡を回復します。

エチオピア南部のコエグ族では、ヨシ(関野先生)が治療をすると患者はお礼としてハチミツなどを持ってきます。コエグ族の社会で最も大切なことは「モノをあげたり、もらったりすること」「人々が集うこと」です。モノ、知識、技術は出し惜しみをせずに必要な人に流れる社会です。ネパールのドルポ地方は、エベレストの後ろに位置する人里離れた地域で1989年まで外部に閉ざされた場所でした。ドルポの人々のルーツはチベットであり、今なおチベット文化を維持しています。チベット医はアムチと呼ばれ、医師のほとんどが僧侶です。チベット仏教では魂の抜けた肉体はただの物体であるということから、鳥葬、即身仏も見られます。

グレートジャーニーの出発点のアンデス地方では、1,000~1,500mの所ではトウモロコシを、3,000mの所ではジャガイモを栽培し、4,000m以上ではリャマやアルパカの放牧をしています。連作障害や自然災害にも対応できるように今も多数の品種が栽培されています。森をつぶしてプランテーションにすると一品種のみを栽培することになり、ひいては砂漠化へ進むことになります。アマゾンの木々の種類は非常に多く地味を豊かにしています。アンデスのシャーマンは特にコカの葉を治療に用います。コカの葉を噛ませて胃や頭の痛みを抑えたり、空腹時の不安感をやわらげます。また、コカの葉を地面に撒いてその落ち方によって吉凶を占うということもしばしば行われます。

以上の例のように、ヒトはグレートジャーニーの間に各地でその自然を活用し、あるいは厳しい環境に慣れていくといった具合にその自然環境と折り合いをつけて適応していきました。

パネルディスカッション
  • パネルディスカッションでは、日本の現在の医療の処方箋として食の利用についての活発な意見の交換がなされ、伝統医療や自然に対する感性を若者が取り戻しつつあるのではないかという希望も語られました。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第42号 2017年12月